その一(五十三話の)水っぽいシチューの話
五十三話で「水っぽいシチュー」なるワードが出てきましたが、それを短編にしてみました。
物語は主人公のハクブンがその日の夜に見た夢。だけど本人は覚えていない。そして夢なので音がない。という形を取っています。
その日見た夢は冒険者の少年達の夢だった。
中肉中背の少年、それよりも体付きが、がっしりとした少年、そして背は低いけれど、身軽で捷そうな少年。どこかで見たことがあるような組み合わせだ。そしてもう一人、長い髪をお下げにした少女が居た。
舞台は野外、夕暮れ時だ。
その日の狩りが成功したのか、中肉中背の少年と背の低い少年が、身振りを加えつつ大袈裟に剣を振るポーズをしたり、弓を射るような格好をしてからガッツポーズなんかをしている。二人とも愉快そうに、歯を見せて大きく笑っている。
身体の大きな少年は一人、小さな焚き火の上に掛け渡した鍋を前にして、大きな木のスプーンで鍋を掻き混ぜていた。
時折、二人の少年を見て笑顔を作るが、鍋に目を戻すとすぐにその笑顔は消えて、ちょっと困ったような顔をしている。
少女は、二人の少年たちによって何度も繰り返される寸劇に厭きたのか、身体の大きな少年の所へと歩いて行った。
身体の大きな少年は少女に気付き、悲しそうに首を振る。どうやら味付けが上手くいかないらしい。少女が鍋の中を覗き込んだ後、スプーンについたものを指で取って、ぺろりと食べて顔を顰めている。声はないが、声が聞こえたような気がした。「うへえ」だ。
少女は少し考えた後、左手の手の平に右手を打ち付けてから指を一本立てて何か言っているが、身体の大きな少年は、少女の意見に反対なようで、何度も首を横に振っている。
少女は少しむくれたような顔をした後、近くにあった小さな袋の口をがばっと開けて、中身をすべて鍋の中へと入れてしまった。それを見て身体の大きな少年が、叫ぶように大きく口を開けている。
少女はそんな少年に、鍋をかき回す大きな木のスプーンを要求したらしく、渋々と渡されたスプーンを手にすると、嬉しそうに掻き混ぜ始めた。
そして味見をして、固まった。
固まった顔のまま、革水筒を手にするとごくごくと水を飲み。一息ついた後、更に飲んだ。
それから、少し落ち着いたのか、ため息でもつくように俯いた。
しかしすぐに、何か閃いたように手にしていた革水筒を見て、今度は鍋の中に水を入れ始めた。今度も、どぼどぼと容赦がない。
身体の大きな少年がそれを見て慌てて止めようとしているが、少女はキッと睨んで、撃退している。そうして、とうとう革水筒の中身を、すっかり空にしてしまった。
少女は笑顔だが、少年のほうはすごく悲しそうな顔をした後、両手で顔を覆っている。そしてそんな少女の笑顔も、味見をするまでしか持たなかった。
二人は鍋を前に茫然と佇んでいる。掻き混ぜることすら放棄してしまったようだ。焦げ付かないかちょっと心配になるが、湯気は消えているから大丈夫かな? と思う。
はしゃいでいた少年たちも、二人のそんな様子に気付き、笑顔を消して恐る恐る鍋の方へと歩いてゆく。
そこで画面が、がたがたと揺れ出した。少年たちの姿が画面から外れ、ちらっと見えたと思うとまたズレる。続きがすごく気になるのに、誰かに邪魔をされているようだ。そして無情にもぷつんと画面が消えてしまった。