今度は
爽快エリアの中でも最奥にあるのがジェットコースターだ。移動だけで30分費やしたのは、人混みに当たって進みにくかったから。折角のテーマパークを1秒も無駄にしたくない時に運悪く当たるこの不運は、日頃楽しいを経験している代償かもな。
それでも何とか到着すると、人はやはり人気ながらに多かった。
「待ち時間どのくらい?」
「90分くらいよ」
「待つのは慣れているし、君たちと喋るのも好きだから私は待つのもいいと思う」
「私もいいよ」
ということで、1時間半という長時間をいつもの様に歓談で済ませようという結論になり、最後尾に並んだ。
「確かジェットコースターって身長制限あったよな。結って乗れるのか?」
「ふふっ。110cm以上が乗れるそうですよ。私は147cmなので余裕です」
「そうか。でも小学生は親同伴じゃないとダメじゃないのか?」
「一体何の話をしているんでしょう?」
殺意を込めた表情が完成し始める。
「小学生にはまだ分からないか」
「……七生くんはズルいですよね。反撃が効かないんですから」
いつもは結に殴りかかることはそんなにないのでいい機会だと思って殴った。見事にボコボコにされてくれた結だが、反撃しようにもギフテッドのことがあるから諦めるしかないことに悔しそうな表情を浮かべていた。
「物理攻撃で反撃しようとしてることが怖いけどな」
「でも確かに、七生くんと結が隣に並ぶと小学生に見えなくもない」
「千隼には物理攻撃有効ですから、普通に殴りますからね?」
「冗談だ。身長差があるとは思うが、君を小学生とは思わない」
「千隼よりは胸も大きいですし、当たり前ですよ」
「私はクール美人だからな。胸なんてどうでもいいんだ」
比べて分かるくらいの差はない。それに千隼は本気で胸に関しては無頓着のような言い方だったので、その勝負には勝ち負けもつきそうにない。
「千隼のスペックで魅力の自覚もあるなら勝ち目ないよね」
頭脳明晰、身体能力抜群、端正な容姿、鷹揚として人思いの性格。主に魅力として好きと思わせる4つ――頭脳、身体能力、容姿、性格の全てを最上位に持った生徒。どうしたら勝てるのか、最優のAIにだってその答えは導き出せはしないだろう。
「私たちより頭1つ抜けてるから普通のことよ」
「そんなことはない。私だって君たちに可愛さでは劣る」
「いいや、ギャップあるし、実際千隼可愛いとこあるもん。やっぱりあんたは私たちと同じじゃない。これからイジメるから覚悟してね」
「そうか。醜い嫉妬から迫る弱者をイジメることは嫌いだが、仕方ない。ここはイジメられるふりをしつつ逆にボコボコにメンタルを破壊しようか」
「……もう軽くボコられたよ」
イジメる前から反撃を受けるという高度な技を受けるとは、流石の因果応報の権化だ。行動を起こす前に仕返しをされるとは。一種の才能だろうな。
「そういえば、アトラクションに乗ると必ず発生する問題の解決はどうします?」
「問題?あぁ、人数のことか」
「そうです」
どういうことかと、今冗談が蔓延していた中でまた冗談を言ったのかと思ったが、真面目なことを聞きたかったらしい。ガクンと話が切り替わったので分からなかった。
「はぁ?また?」
「5人だからそうなるな。嫌なら今抜けて90分休憩しててもいいと思うが、そうしたくないだろう?」
「イジワル言ってくる人嫌いでーす」
「私は私を頭1つ抜けていると言う人が嫌いだー」
「はいはい、喧嘩はそこまでにして、3人乗りだから1人になることは多分ないわ」
流れ的に前に並ぶ人たちによって1つ余らなければだが。
「この順番でいいと思いますよ。私と七生くんと千隼。そして莉織さんと碧さんで」
「私はそれで構わないわ」
「2人でしかも莉織とか、ハズレくじなんですけど」
「それは私もよ。ここに来ても貴方と一緒なんて楽しくないから」
「途中であんたの顔殴ってやる」
「倍にしてお返しするわ」
並んでからいつ死人が出てもおかしくない空気感が漂う俺たちだが、決して周りの迷惑にならないよう配慮しての口喧嘩しかしてないので常識はしっかりと持っている。
「私もそれでいい。真ん中にしてくれるか?」
「いいよ」
「構いません。その方が色々と都合がいいので」
「都合がいい?」
その言葉に悪意を感じたのは俺だけではなく千隼もだ。聞き返すくらいの違和感は、長年親友をしてきたから分かる微かな違和感の証明だった。
そういうことでジェットコースターに乗ることが決まった俺たち。後ろに人が並べば並ぶだけ前に進んで、迷路のように区切られた道を歩き続けた。
そして90分が経過して、漸く乗れる時が来た。階段を使って乗り場に到着。そこで持ち物全てを置く。今回はジェットコースターという速くて荒いアトラクションなので、流石にスマホも強制的に置かせられる。
ちなみに、ライクマを握って心を落ち着かせようとしていた碧だが、爽快エリアに来てからふわっきーの多さに気圧されたらしく、自分の小さなショルダーバッグにライクマを入れていた。なので並んでいる時にしか出しておらず、その寂しさからか、ジェットコースターという狂気のアトラクションに向かう前に何度も両手で持って安心しようとしていた。
実はぬいぐるみ大好きなので、そういう面は普通に可愛い。
そうして俺たちはジェットコースターがスタートしたのを見送って、次は自分たちの番だと、怯えたり心を落ち着かせたり好奇心に笑みを浮かべたり様々な反応を見せて待った。




