表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/103

疲れた




 ジップラインから降りて、さて地獄を経験した2人はどんな顔をしているのかと思って歩き出す。右腕にはしっかり莉織が掴まっていて、先程の嬉しそうな相好はしていなかった。それでもここが爽快エリアかと思うくらいの相好をしていた。


 「楽しかったか?」


 「ジップラインは思っていたより楽しめたけれど、それよりも貴方の背中に抱きついて、今後も居てくれることを信じさせてくれたことで頭がいっぱいよ。楽しいかと聞かれた今、そういえば楽しかったと思い出すくらいだから」


 「お前が来たいって言ったジップラインでその感想なのは、碧と千隼に怒られるぞ」


 「どうかしら。今どうしてるか見れば、もしかしたら怒られないかもしれないわよ」


 高さに恐怖を感じて魂を抜き取られていたら、当然莉織を怒ることなんて不可能だ。他にも近しい状態に陥っていたとしたら、今は結が苦労して元に戻そうとしているだろう。実際どうなのか、俺たちはゆっくり歩いて向かった。


 「あっ、おかえりなさい」


 「ただいま。やっぱり結だけが元気なのね」


 「はい。2人はもう少しで普通に戻ると思います」


 「普段の高飛車とクールは見えないな」


 ロッカーのあるロープウェイ乗り場に到着して、結から見つけられると自然と視界に入った残る2人。碧は両手でライクマを握って呪文を唱えていて、千隼はタオルを顔に乗せてピクリとも動かない。この先見られるかどうかの貴重な変人の様子だ。


 「どうだった?そこの撃沈コンビはずっと叫んでたのか?」


 少しだけある休憩スペースで俺と莉織も休む。だから座ると同時に聞いた。


 「千隼はずっと『大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫!』と叫びつつ連呼していて、碧さんは『ねぇ!今の私の握力100kgはあるよ!!ヤバい!落ちる!!死ぬぅ!!』と叫んでましたよ」


 実際どうだったのか軽く演技して見せられると、特徴を捉えていたのでとても想像がしやすかった。それなりに叫んで早速疲れたんだと思うと可哀想で、でも新たな一面を見れたと思えば良かったと思う。


 「……あぁ、戻ったの?」


 「あら、やっと息を吹き返したわよ」


 演技が騒がしかったのか、結の隣でぶつぶつ呪文を唱えていた碧がライクマを大切に握りながら顔を上げた。


 「……早かったな」


 そして千隼もおはようだ。


 「お疲れだな」


 「ああ。二度とジップラインは乗らない。個人的にジェットコースターや飛行機の方がまだ好きだ」


 「分かる。1人でこんなに周りに何もない場所を命綱だけで進むの無理だよ」


 「そんなに苦手とは思わなかったわ。でも次来る時はもうジップラインに乗らなくてもいいから、その点は安心よ」


 「それはホントにその通りだ。何ともないただのこのベンチが、今はとても愛おしいくらいだからな。次はこんな愛おしさなんて感じたくない」


 まだ最初のアトラクションに乗っただけ。それでも最初にハズレを引いたのなら気分は最低だ。でもポジティブに考えると、これからは上がる一方だということにもなる。


 今はぐたっとして莉織の部屋での怠惰のように、体に悪そうで健康に響きそうな姿勢だが、これからは好きなアトラクションに乗れるのだから、そんなに根に持つように気落ちすることもないだろう。


 「早く元気にならないと日が暮れますよ。次はジェットコースター行くんですから」


 「間に高所恐怖症も楽しめるアトラクションには乗れないのか?」


 「それなら恐怖エリア行くことになるわ。でも恐怖エリアは今日行く気がないから、爽快エリアで地獄を見るわよ」


 「私は主役なんだが……」


 「もう今更だぞ」


 「そうらしいな」


 恐怖に耐性のある俺と千隼でも、恐怖エリアに行くことは決して許されることはない。主役でも何でも、多数決の力は最強なのだから。何よりも3人のワガママが許さないんだけどな。


 「行くかぁー。ジップラインに比べたらジェットコースターに行く方がまだ気楽だよ。まぁ、ここから見える狂ったようなコースはその行きたい欲をかき消すんだけどね」


 立ち上がって見た先。テーマパーク内で最も範囲が大きく、人から見られていると言っても過言ではないジェットコースター。一回転は当たり前で、急降下や横になったりするコースは当然の顔して設置されていた。


 「途中で止まった時は大変ね」


 「なんでそんなこと言うかな」


 「あの一回転のとこで止まったら、私は確実に気を失うと思う」


 「あんたはこっち側でしょ。そんなこと想像もしたくないんだから言わないでよ」


 でも高い所が得意な俺でも、ジェットコースターに乗るなら考えてしまうくらい必然的な思考だと思った。もし脱線したら?もし一回転の途中で止まったら?もし急降下する寸前に止まったら?それなら流石の俺も泣き叫ぶだろうか、と。


 それはそれで楽しそうなので、死なないのなら何が起こっても別に気にしない。今のもしもは全て死ぬ可能性がある恐怖だけど。


 「私はもう回復した。碧が万全になれば行こうか。莉織も疲れてないか?」


 「大丈夫よ。むしろここに来た時よりあるわ」


 「私が七生を奪ってあんたのその余裕を焦りに変えてやりたいよ」


 「それは面白いわね。死ぬ覚悟で来なさい」


 女子の争いには首を突っ込むと負け。莉織と碧の戦いなら、正直どっちが勝つかの興味も薄い。ほぼ互角だし、勝ち負けより煽り合って後々どっちが恥ずかしい思いをするかに興味がある。


 でも最近はお互いについて知ることも増えたので、始まる前からどっちが勝つかはある程度分かるが。


 その後完全回復となった碧と千隼。俺たちもそれなりに休憩で回復すると、移動の時限定だが、被り物を着用して傍から見ても楽しんでる5人というイメージを持たれるよう爽快エリアへ向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ