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 到着すると、人混みに溢れることはないくらいの人の量に安心した。ロープウェイでは歩くこともないのだから気にせずゆっくりしたかったから。


 「あった。ここに被り物とかジップラインで落とさないよう不必要なものは置いとくらしいわ」


 無料のロッカーの中の前で丁寧に教えてくれた。誰も特に問題ないと思ったが、1人だけ違ったようだ。


 「えっ、この子とお別れするの?」


 「一緒に手持ち無沙汰で恐怖を味わおうじゃないか」


 碧の肩に手を置いて、罪を一緒に償う勢いで、もう悟りを開くくらいの泰然を見せていた。


 「次ここに来た時、私多分記憶飛んでるよ。あんたたちの名前とか忘れそう」


 「その時はまた自己紹介するわ」


 「悪魔ぁー」


 心の拠り所が消えた今、簡単に受け入れるのは難しい。それでも今更なかったことにはならないので、丁度来たロープウェイに千隼に手を引かれて乗った。


 「正直この高さで限界だ。下なんて見れない」


 「お前のそういう一面は、見る側からすると癒しだな」


 「それは良かったな。私は今にも泣き出しそうだ」


 「我慢しないと迷惑になりますよ」


 「もし泣いた時は他人のふりするわ」


 「優しさ見せろよ」


 千隼が泣くとこなんて見れるとは思えないが。


 そんなことを思いつつ、改めてこの4人と来ていることを感慨深く思っていると、その時右斜め前の客が外を見ながら「綺麗」と言って写真を撮った瞬間が目に映った。


 そういえば、俺たちまだ写真撮ってないか。


 他の客も普通に外に向けて写真を撮っていたので、これが普通なのかと思った。記憶と記録に残す思い出ということだな。


 「美少女さんたち、折角だから写真撮らないか?」


 位置的に俺たちは揃って1番後ろに集まっている。周りの心配は不要だし、結構賑やかなロープウェイになっているので気にすることも然程ない。だから簡単に撮れそうだ。


 「写真?」


 「真っ先に反応したところ悪いが、莉織、君は美少女ではないから含まれていないと思うよ」


 初めて誰かに対して千隼が攻撃を仕掛けた。しかも相手は莉織という凶暴な怪人だ。


 「あら、殴ったわね?物理的に殴り返すわよ?」


 「それは話が変わってくる」


 「どんぐりの背比べだね。ホント、ガキのお世話は疲れるから大人になってよね」


 「ふふっ。ブスたちが騒いでますが、多分今回の写真は私だけですよ?」


 「あんたが1番攻撃力高いよ」


 思わず認めてしまう結の辛辣を極めた発言。冗談だから許される禁句だ。結の中で全員が美少女という言葉が似合うと思うから言える冗談でもある。相変わらずの破壊力は凄まじい。受ける側じゃなくて良かった。


 「いきなりスイッチ入れて悪かったけど、こうしてここに来た思い出としても、俺のスマホでいつでも美少女を見れるって意味でも写真は撮りたいだろ?だから背景をテーマパークと青空に撮ろう」


 「どちらかと言えば後半が本懐に聞こえたんだけど?」


 「だとしたらお前は俺を知らなさ過ぎる」


 「分かってるっての。でも少なくともその気持ちはあるんでしょ?」


 「まぁな」


 下心で、ということではなく、純粋にこの4人を画角に収めてこういう場所で笑いあったんだと、そしてこの後絶叫しに行くんだと見返して思いたかった。


 この世界に来てカメラの機能を知ってから思っていたことだ。時を刻んでこの関係を形として残したいという思い。夏休みに続いて今も叶えたかった。


 「そういうことなら仕方ない。唯一無二のクールで撮られようじゃないか」


 「なら私は際立つように千隼の隣で」


 「どうせ私たち以外にこのこと知る人居ないんだし、可愛く写る必要もないからあんたの隣でいいよ」


 「贅沢を言っているのに何故妥協したようなことを言うのか不思議ね。立場を弁えなさい」


 各々がしたいことをする。写りを良くしたり、一緒に撮りたい人と並んだり、結局4人固まって仲良く撮ろうとしたり。怜快学院以外でも、多分この4人を超える仲良しは居ないと思えるくらいに眩しかった。


 「何してるの?貴方も入って不器用ながらに自撮りしなさいよ」


 「そうするけど、俺の贅沢として、お前たち4人だけを撮りたいんだよ」


 「っそ」


 一緒に撮る予定があっても、そう誘われると結構嬉しい。それを莉織が言ってくれるから、出会った頃の離れろという圧が完全に消えたことを実感する。成長と共に、心の距離も近づいている気分だ。


 「もう撮るぞー」


 「いつでもいいよー」


 最後列の椅子に座る莉織と碧。その後ろに立っている千隼と結。真ん中の通路から邪魔にならないよう距離を確保して、その4人を画角に収めるとボタンを押して写真を撮った。


 「どうだ?」


 「私が私らしく写っている。満足だ。ありがとう」


 「私も可愛く撮れているのでありがたいです」


 「私の方が顔小さく見えるから完璧!」


 「私の後ろだからよ。それでも差が大きく見えない私の小顔を褒めてほしいわ。写真は十分綺麗に撮れてるから、流石私の下僕よ」


 「どーも」


 素材が良ければ、素人が撮っても綺麗に写る。俺はボタンを押しただけ。それを美しく思わせたのは、紛れもなく莉織たちだ。だから写真の美しさは自分たちへの評価と同義だった。


 「次、貴方も入って撮りなさい」


 「そうする」


 このテーマパークで最も贅沢な時間ではないだろうか。今の俺にはそう思えた。関わりが深く、どういう性格かも知っているからそう思うのだとしても、そう思えて今写真を撮ることが叶う時点で喜悦を感じるには十分だ。


 4人の間に入って写真を撮る。余計なものが混ざった気分だが、4人が歓迎してくれるのならそれでいい。


 「それにしても、あんたスマホ持ってきてたんだね。置いてきたのかと思ってた」


 「落とさないからな」


 「ビビって置いてきたけど、それなら持ってきたら良かったよ」


 自己責任だが、禁止というわけではなかったので持ってきた。ポケットに入るし、落とす心配もないから。


 「後で送ってね」


 「勿論」


 全員の連絡先は知っているのでそのつもりだ。


 その後ロープウェイに揺られながら外の景色を楽しむ組と外を見ない組で分かれて目的地に着いた。

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