不意なイケメン
そこに居るのは人間であって、猫耳を付けて本当に存在してくれたら嬉しいと思えるような人たちだった。右から順に碧、莉織、結で並んでいて種類は猫耳でも色が違ってそれだけのカチューシャを付けていた。
可愛くポーズすることもない。ただの誰が似合うかの勝負。見て即決したのは、俺の中で少しずつ変化が可愛く思えているからかもしれない。もしくは、胸に触れた影響かもな。
「俺の中では莉織が1番だな」
即答だ。瞬間的に3人同時に視界に入れると、答えが時間を止めることなく導き出された。
「あら……嬉しいわね」
選ばれると思ってなかったのか、明らかに驚きながら口角を上げて下を見たのはシンプルに可愛かった。
「私は碧だな」
そして敗北者は決まった。
「はぁ……これは私をイジメたいだけの勝負ですね。そうやって嘘ついてたら、この先困りますよ?」
「いや、俺は莉織が普段見せない姿を見れたギャップで本気で選んだから、結はマジの敗北者だぞ」
「私は結が可愛いということを既に知っているから、その影響でそんなに可愛いと思うことはなくなっててな。後は七生くんと同じ理由で、1番オラオラしている碧のギャップが大きくて可愛いと思ったんだ」
「……私の負け?」
「素直に認めなさい。可愛いばかりの貴方だからこそ、可愛いが似合わなかったのよ」
「やっぱり千隼が1番大好き!結は漸く最下位になれて良かったね。うんうん、私は嬉しいよ」
事実負けはしたが、でもこれは私情も含まれているので仕方のない決着とも言えた。俺は莉織と常に居て、どんな人かを知っているからこそギャップを感じた。逆に千隼は結のことを知っているから、まだ知らないことの多い碧に対してのギャップを感じた。
始まる前から無意識に決着はついていたのだ。
「可愛いだけが取り柄なのに、可愛いで負けたらどうするんですか……悲しくてこれから遊べません」
「カチューシャなら結が負けたが、これなら多分結が勝つと思う」
そう言って、頭の上半分が完全に覆えて、横から長い耳を垂らした被り物を持っていた。見た感じからもふもふしているのは伝わって、ウサギを彷彿とさせるような見た目に、可愛さ勝負の真骨頂とも言える動物の被り物ではどうだと。
「それは……可愛いが単純に勝つ被り物ね」
「私にはハードル高いよ。まぁ、それでも顔が可愛いから似合うんだけど」
自己肯定感が高くなった碧は無敵だ。ポジティブ思考でしかなくなる。
「皆さん揃って慰めてるんですか?」
「全然。なんなら日頃の恨み込めてるくらいだよ」
「これが最下位の気持ちですか。自慢げに言ったのに恥ずかしいです」
夏祭りのギャグとは違った羞恥心。下を見て過去の自分を殴りたい思いに駆られているだろう。そんな時、歩いて結に近寄った千隼は、勝手に似合うだろうと言った被り物を頭の上に乗せた。
「ほら、結構似合うじゃないか」
「今これ被ると本当に慰められている気分になりますよ」
「そう言わずに、人にはそれぞれの似合う似合わないがあるんだ。勝負で負けたとはいえ、可愛いことには変わりないだろう?恥ずかしいと思うことは何もない」
「ここにイケメンが現れたよ」
「こういう時のクールで純粋な人は魅力の塊よね。見たら同性でも惚れるわ」
「そうだな」
2人の言うように、今の千隼はスマートでカッコよかった。他人をイジるということは、自分がオッドアイでイジられることを避けたかった思いからしないのだろう。でも、今のイジることが悪いことではないと理解しているのも事実。勝負にノリノリだったとこからそう思える。
「まぁ、常に私は私を可愛いと思いますが、今回はカチューシャを付けると敗北するということを知れて良かったです。次からはこういった確実に魅力を爆増させる被り物します」
「普通に可愛くなろうとしてるじゃん」
「皆さんの前限定です」
自分の容姿に興味がなかったが、最近は俺たちの前で可愛いことを全面に出してくる。冗談の範囲だが、冗談でも言わなかったこれまでと比べれば、結も莉織と碧と同じように考え方が変化しているのだろう。
「千隼と七生くんは被り物買わないんですか?」
「私は結と同じのを買う」
「俺はどれ付けてもお前たちの引き立て役になるから決めてないな」
「だったら私と同じ猫耳カチューシャにしなさい」
「いいよ」
そうして決まった各々の被り物。俺と莉織と碧は猫耳カチューシャで、結と千隼はうさ耳もふもふのやつ。俺の見るに堪えない姿が鏡に映るが、これもまた4人と共に楽しんだ思い出に残るなら何も問題はない。いつか慣れるだろうしな。
ということで、被り物を購入し、他にぬいぐるみなどを後々家に届くように購入を終えると店の外へ。やはり人の数は増えていて、俺以外にも男性でカチューシャといった被り物を付けている人は多かった。
そんな中で付けなければならない状況の人は何人いるのか気になるが。
「さて、簡単に買い物も終えたことだし、アトラクションにでも乗りに行くわよ」
「どこ行くの?」
「私は自由エリアを希望するわ」
これはそれぞれが希望の行き先を言って多数決で決める流れだと誰もが察した。
「私も同じで」
「私もです」
「え?もう決まりじゃないか。私は恐怖エリアに行きたかったんだが」
千隼が言うと、3人揃ってギロっと睨んでくる。
「俺もー」
最初から恐怖エリアはあってないようなものなので、折角なら千隼に便乗して行く流れでもいいかなと思った。だが。
「恐怖エリアは今度よ。今日は自由エリアに決まったから文句は一切受けないわ」
「……なるほど、結だけでなく君たちも怖いのが苦手なのか」
「そういうとこは可愛いよな、この3人」
「そうだな」
「何か勝手に憶測で話してるけど、ただ自由エリアが1番遠いからこの後のこと考えて言ってるんですー」
「これだから頭の悪い人たちは困りますね」
お決まりの流れになって自由の発言すら否定される今、自由エリアに行って俺の自由が戻るのか試したいと思うのは普通の思考と言えるだろうか。いや、異常だろうな。




