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ここでも




 「買いたかったら各々買った後に配達頼むこと忘れないで。ぬいぐるみとか持ち過ぎは危険だから」


 ライクマを見て癒されながら、選ばれなかったことに悲しみを共感してもらっている碧の隣で、莉織は言った。ライクマがそんなに気に入ったんだろう。ずっと頬に触れて遊んでいる。


 俺の時もそうだが、碧は頬が好きらしい。


 「そうか。ならこの子を含めて沢山お持ち帰りできるわけだな」


 「可愛いの好きなのね」


 「ああ。可愛いものも好きで、七生くんと結が知っているが、甘いものも好きなんだ。だから私の印象と違って似合わないと思われることも少なくないから、こうして人前で見せたこともなかった」


 思い出される出会った日の放課後のこと。帰り際に個数限定のケーキを買いたいと笑顔で言っていたが、他にも似合わないと思われている心配を持ちながら好きでいたことがあったとは。他人の印象も影響を与えるんだな。


 「あるよね、そういう似合う似合わないの印象」


 「でも私たちの前ではそんなの杞憂よ。そもそも千隼に似合わないことはないと思うけれど」


 「そんなことはないが、褒め言葉として受け取る。ありがとう」


 「貴方のホントを知りたいんだから、友人間の隠し事はなしよ」


 「分かった」


 友人間の。だから言いたくないことは言わなくていい。そういう意味を込めて伝えられるのはいい事だ。更に、本当に伝えなくていいと言っているところが、隠し事をしないで全てを教えろと強制していなくて優しい言い方に聞こえた。


 「莉織がふわっきー買うなら俺は残り2人?2つ?とにかく残りの子たち買うけどそれでいいか?」


 「私は私の部屋に全員入居させるから、貴方も貴方で全員入居させなさい」


 「うぃー」


 入居という言い方がとても可愛かった。莉織も高校2年生の女の子だ。年相応の好みがあるだろうし、碧が可愛いを好きなんだから、莉織も好きなんだと分かる。


 だから俺も、この可愛くていつの間にか枕にされてそうな子たちを制覇することにする。


 「私たち被り物探しに来たのに、すっかりぬいぐるみに捕まりましたね」


 「可愛いからな。私も久しぶりに欲しいと思った」


 「被り物なら探したよ。このカチューシャ可愛くない?」


 少し離れていた場所から戻ると、これはどうだと被ることなく頭の横に並べてどうだと聞いてきた。そのカチューシャは所謂猫耳で、普段のオラオラして噛み付く碧が楽しそうに持って見せると似合っているようにも思えた。


 「可愛いわね。でも私ならもっと可愛いわ」


 「残念ですが、私が1番可愛いと思いますよ」


 勝負を忘れるということが不可能な3人。今回は勝てると思って結も参加だ。


 「最強だな。結の見た目と雰囲気から、お前たちツンデレワガママ珍獣には勝ち目ないだろ」


 「なら千隼と七生は後ろ見てて。今から買って付けるから、誰が似合ってて可愛いか忖度なしのジャッジして」


 「面白そうだ。待とうか、七生くん」


 「千隼がそう言うなら」


 「負け戦に再び挑むとは。愚鈍ですね」


 「1人負けが見えてるわよ?大丈夫かしら」


 「ふふっ。私の可愛さは本物ですから大丈夫です」


 そんな言い合いをしながら、まだ買うだろうにカチューシャだけを持って3人で行ってしまった。何だかんだ3人揃って行くのが仲良しなんだよな。


 「七生くんは誰が勝つと思うんだ?」


 残された俺と千隼。気まずい雰囲気にならないのは、千隼が純粋にこの関係を楽しんでくれているからだ。


 「どうだろうな。カチューシャに関しては俺も初めてだから、正直誰が似合ってるかは分からない。千隼が付けてくれたら、間違いなく千隼だったのにな」


 「随分と私のことを好いてくれてるんだな」


 「飾らないで自分を見せるお前を好きにならない理由はないだろ?それに、お前には綺麗な目っていう魅力もあって、それを俺たちだけが知っていて共有できる。そんな秘密の関係のような今は、男子の俺にはめちゃくちゃ好きなシチュエーションなんだよ」


 「やはり、君は私と同じだからそう思うんだろうな。私も飾らない君が好きだ」


 お互い素の自分で関われているから好きなんだと。その通りだ。


 「でも俺がまだ何かを隠していることに、お前は気づいてるんだろ?それには何とも思わないのか?偽ってるとか」


 「性格を見て分かるが、君が君自身の性格を偽っているとは思えない。だから君の言うその隠し事は、君の中で性格に関係のないことだと私は思っている。それを言うか言わないかは、君が決めることだ。性格の偽りには何も影響はないんだから」


 俺の隠し事。それは異世界から来たということ。だから俺のこの性格に全く関係のないことだ。それを千隼は見抜いた。何をどうして見抜いたのか不明だが、正確に見抜く才能は素晴らしく、同時に恐ろしい。


 「流石は秀才だな」


 「何故か身についた、私もよく分からない才能だが、君から本音で褒められるのは悪くない」


 これも本音と確信して謙遜はしない。不思議だが、千隼なら普通だと思えた。


 「もっと気分よくなりたいが、どうやらもう来そうだ」


 「そうだな」


 足音が近づく。背中を向けているので誰かは確定しないが、いつもより騒がしいのはあの3人以外に考えられない。


 「戻ったよ。いつでも振り向いていいからね」


 「だってよ」


 「ではそうする」


 誰が同じ猫耳で似合うのか、そんな順位は多分決まらないだろうと思って、誰が可愛く見えるのかだけに注目しようと俺と千隼は後ろを見た。

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