凄い絵面
「ホント、楽しくて飽きなさそうな関係だ。見ていて自然と笑えてくる」
「千隼も参加したらどうですか?」
「いいのか?可能なら私も長坂くんに触れて落ち着きたいと思うんだが」
「え?貴方も私の敵になると言うの?」
「それは違う。ただ、見て分かるんだが、長坂くんは性格や感情が普通ではない。多分幼い頃から特殊な環境で育ったんだろうが、だからこそ欲がないように感じるんだ。男子だとしても、私たちに対して抱く邪な気持ちが全く見られない。そんな人は私も見たことも出会ったこともなくて興味があるんだ」
驚いた。千隼は人を見る目が備わっているらしい。
当然俺のことは千隼に話してない。友人に俺のことをペラペラと漏らす存在もいない。だからこれは完全な千隼だけの力で判断した内容。それが正解していることが驚き以外何だと言うのか。
しかもそれを俺に確認することもなく、自分で思ったことを確信したような言い方。幼い頃から会社のパーティだとかに参加していたら、このような洞察力観察力が身につくのだろうか。莉織たち3人に比べて、圧倒的な才能。俺の自慢もなくなりそうなくらいだ。
「俺もそれを聞いてお前に興味が湧いた」
「そうか。相思相愛ということだな」
「結婚式挙げる?」
「お前はホントに命知らずだな。莉織に殺されるぞ」
「いつでも準備万端よ」
「私は誓いの言葉を近くで聞く担当になりたいです」
とは言いつつも、莉織は不満なんてなさそうだし、最近は心に余裕を持って生活しているように感じる。結はいつも通り安全圏から俺たちを見守る。時々魔女になって姿を現すが。
「でもさ、今千隼が言ったように、七生って私たちがこうして近寄っても何も思った様子ないし不満見せないよね。性欲ないの?」
「不満だしムカつくし性欲だって普通にあるぞ」
「ホントは?」
「お前たちと関われれば別に何だっていいと思ってるだけだな」
性欲も人より欠落しているのは感じる。美少女という括りに入るこの4人を見て、更に関わっている今も、特別触れ合いたいとか肌を見たい触れたい、もっと先へ進みたいなんて思ったことは一度としてない。
ただ今を幸せに生きれればそれで満足。
そんな元の世界での【15年しか生きられない教育】が、こうしてそういった欲求を削ぎ落としたんだろうな。
「やっぱり病院で過ごしたことが影響しているんじゃないですか?」
「病院?なるほど、長坂くんは何か病に罹患していたのか」
「生まれつきの病で最近治ったんだ。だから生まれてから16年、病室以外で過ごしたことがないんだよ」
「そうか、それは悲しいな。今君と元気に話せているのは、今後も続くと思っていいのか?」
「再発はないから大丈夫だ」
「良かった」
それだけ聞ければ、俺だって良かったと思う。それでも、未だに俺の今後が不透明なのはどうするか悩みどころだ。元の世界へ戻るのか。違う世界へ行くのか。この世界で生涯を終えるのか。十中八九この世界で死ぬと思っているが、それでも絶対ではない以上は悩みが消えることはない。
「でも、私が触れても、私に触れても動揺しないのに、私にも普通の男子並に触れるよね。何とも思ってないんだろうけど、ホントは無意識に触れたいとか思ってるんじゃない?」
今もこうして、碧を拘束して全身で触れながらも、右手では頬をぷにぷにと触って無意識に遊んでいた。それをどうなんだと指摘されると、無意識だから答えが出ない俺だった。
「これはお前が1番太ってるから気持ちいいだろうと思っただけだと思うぞ」
「貴様は絶対赦さん」
「あっそ」
反撃しようとも主導権は俺が握っているので負けない。だから碧も口だけで、今も頬をぷにぷにされるのを許可している。
「なーんかもっと動揺してくれたら、楽しく遊べるのに」
「十分楽しそうだけどな」
「おっぱい触る?」
「唐突だな」
「ならどうぞ」
「……えぇ?」
いつの間にか立って、千隼と碧の横を通って来ていた莉織は、俺の左腕を掴むと自分の胸に触れさせた。それに時間を止めなかった脳は、普通に処理を終えていた。
「ちょっと失礼する」
そう言って今度は千隼が俺の左頬に手を伸ばした。右手がそっと体温を伝えてくれる。心地いいのは手と頬の感覚からか。それに加えて今は碧が体の半分以上触れているからかもしれないな。
「凄い絵面ですね。私も参加します」
次に結が俺の右頬に触れて、全員が俺の体のどこかに触れている状況が作られた。
「……何これ」
「確かに何の反応もないな。体温も普通で脈も落ち着いている」
「えぇー、莉織の胸だと無意味なんじゃない?もっと大きくないと」
「あら、一応この中で1番なのは私なのよ?」
実際本当らしいのは前々から聞いていたので知っている。差は大きくないが、しっかり比べたところ、碧の惜敗だったそうで。覚えてたのは、俺が男だからだな。
「人間に触れてるのに人間ではない反応をされると、七生くんの本当の姿が気になりますね」
「お前も魔女だろ」
「ふふっ、何のことでしょうか」
魔女だ。久しぶりに見た笑顔ではない笑顔。結の印象を破壊した最大で唯一の理由だ。
「もう離れてくれてもいいんだけどな。何もないこと分かっただろ?」
「胸を触らせたのよ?感想を言いなさい」
「とても柔らかくて素敵だった」
「普通ね。押し倒したくなったりしないの?」
「そうする俺なら今ここに居ないし、このバカを体を使って拘束してない。それに下着で感覚はよく分からないからな」
「それもそうね」
でもこれで分かったのは、俺が本当に男なのか怪しいということだ。今は性欲に限った話をしていたが、思い出せば睡眠欲も食欲もそんなにない。生きるという行為で必要とされる三大欲求全てが人より欠落しているのだ。
眠気は起こるし、長時間寝る俺だが、一度として二度寝をしたことがないし、起こされてもすぐ行動できるよう体は整っている。食欲も、常に何かを食べたいではなく、食べないといけないから食べているという感覚だ。
15年の教育ヤバいな……。
「改めて不思議な人だと分かった。君は私の好きなタイプだ」
「求婚なら今は遠慮するぞ」
「なら、未来では受け取ってくれるのか?」
「気が向いたら」
「その場合、修羅の道を歩むことになりますよ。いくら千隼でも、簡単に進める道じゃないので」
「そうだよ。私の二の舞にならないようにね」
経験したような言い方だが、誰1人として俺に恋愛感情を抱いている人は居ない。それは出会ってからの期間で理解している。




