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デジャブ




 本格的な夏も過ぎ去ることはまだまだで、9月に入った最近のことだが、まだ真夏日を記録する日があるくらいの今日、外の日差しはそれなりに強い。


 ベッドから起き上がって窓の外を見る必要もなく、部屋の中に届く陽光の強さで何となく感じた。それは学校へ通わせる気皆無の天候。今日が休日で良かったと思って起きたが、同時に月曜日が億劫に感じるのは当然とも言えた。


 「七生、リモコン取って」


 しかし別に真夏日だから、という理由で学校を嫌うことはここ最近はない。理由としては、日にちを重ねる毎に友人と関わる時間が有意義で楽しいと思えるからだ。


 夏休み前は、碧と結と仲良くなる前は、莉織と出会う日は、今こうして不満を然程持つことなく幸せを感じてこの世界に居られることが想像もできなかった。不安だらけの生活から一変した今、特に叶えて欲しい要望なんてのも思いつかなかった。


 「ねぇ、七生?リモコン取ってー」


 そしてそんな環境を整えたのは紛れもなく莉織だ。俺が支えたとはいえ、この先の未来のこと全てを打ち壊し、得体の知れない胡乱な俺に謎の信頼を感じて自分を変えたことは、今の関係を構築するにあたり最も欠かせないことだった。


 だから日々感謝はしている。付き人……いや、下僕として隣で同じ空気を吸いながら、同じことを経験して同じことを感じる。欠けた薄れた感情が、普通に戻るように経験を重ねているのも、間違いなく莉織のおかげだ。


 「おい、また前と同じで無視すんの?おーい!近いんだから取ってって!」


 しかし、俺の中で全く不思議に思わない点がないと言えば嘘になる。


 例えばそう、今のこの状況とか。


 体をこの前より揺さぶられて振り返りをさせないと、動きたくない怠惰な碧は俺を下僕として働かせようとしていた。


 「うるさいな。自分で動いて取れよ」


 「そう言いながら取ってくれるから、これに関しては七生が悪いよ」


 「なら次からは取らないからな」


 「それはその時次第だよ」


 確かにその通りだが、言い合っても碧が動くとは思えないので、最適解として俺が自ら動く判断をした。偶然この前のお泊まり会と同じ並びだったので隣だが、次からは隣にならないよう座るとする。


 「それで?何で俺もここに居るんだ?」


 莉織の謎。休日の今日、起きてから10分後に突然莉織の部屋に呼ばれると、何故かそこにはいつもの3人に加えて、早乙女千隼も居た。だから前回同様、何故?なのだ。


 「どうせ暇してると思って、折角なら私たちという至高の女子に囲まれたいだろうと思って呼んだのよ。感謝しなさい」


 「……いや別に休日寝て過ごしても良かったんだけど」


 「何?私に逆らおうと言うの?」


 「……そんなつもりじゃないです」


 まだ10時。朝の集まりにしてはそれぞれ早起きして来たんだろう。早乙女は知らないが、碧と結は遠いとこからわざわざ。


 それに強制的にその日の10分前に教えられると同時に連れ去られるんだ。俺の権利という権利が全て存在しないのはどうなんだろうか。元の世界より扱いは最底辺だ。


 「早乙女は良いのかよ。突然呼ばれて困惑してるんじゃないのか?」


 先程からソファの真ん中――莉織と碧の間に座ってパンを食べている早乙女。緊張も不安も見えないが、俺に仲良くしたいという話をしてから2週間強の今、少なくとも音沙汰なくこの場に居るのはどうしてなのか理解してない俺と同じ気持ちじゃないのかと思った。


 するとその問いかけに、美味しそうにパンを食べると言う。


 「あぁ……確かにそうだな。だが、結から説明をされていたから普通だ。お邪魔するよ、長坂くん」


 「そうか、前々から聞いてたのか。だったら俺にも教えてくれて良かったと思うんだけどな」


 「過ぎたことはどうしようもないわ。忘れて今楽しむことだけ考えなさい」


 「はぁ……うぃー」


 俺がその日予定を入れていたり、急な用事が入ることがないと確信しているからできる当日お誘い。こればかりは俺も回避する方法がないので、多分今後も同じようなことが何度も起こるんだろう。嫌ではないが、翌日が休日の日にはゆっくり寝れなくなったりしたら嫌と思うかもしれないな。


 ってか、早乙女普通に馴染んでるんだよな。


 「ところで、早乙女は話したのか?」


 「あっ、忘れてた。そうだな、ここに来たのはそれを言うためでもあったな」


 「……大丈夫かよ」


 3人と関われるくらいの変人なのは何となく察している。それでも俺は俺をまともな人間の部類に入ると思っているので、この4人と関わって思考がそっちに寄らなければいいと最近は思い始めている。


 「話した?何のこと?」


 「それを今から早乙女が言うんだろ」


 「なるほどね。何か楽しみ」


 「これは結にも隠していたから、多分初めて見ると思う」


 「私にも?」


 「そうだ」


 言いながら、この前見た手順で両目からカラーコンタクトを取り外した。そして見える、2週間ぶりの綺麗なオッドアイ。黒と薄藍色の澄んだ目だ。


 「これが話したいことで、結にも秘密にしていた私の隠し事だ」


 「えっ、目の色が違うってこれ、オッドアイってやつ?凄っ!めっちゃ綺麗!」


 「……驚いたわ。見慣れた黒も綺麗だけれど、色素の薄い左目はもっと綺麗に見えるわ……」


 「これが隠し事……ということは、小学校に通う前からそのカラーコンタクトをしてたんですか?」


 「そういうことだ。君と会うほんの少し前からだ」


 その話が本当なら、結と早乙女は小学生からの幼馴染ということだ。


 それにしても、やはりと言うべきだろう。3人は誰もがその目の美しさに感動し、否定的な意見もなければ冗談でイジることすらしない。目に見惚れて褒めて、自分が初めて見たオッドアイという稀有な存在に、頭の中はアドレナリンで溢れているんだろう。


 「なるほど。理由としては恥ずかしいから、といったとこですか?」


 「その通りだ。でも今回は、長坂くんが成川さんたちのことをいい人と言って、結とも仲がいいと知って、打ち明けてもいいと思ったんだ」


 ここの4人の信頼関係と知っていることはとんでもないな。簡単に理由を当てる結も、それを普通に受け入れる早乙女も俺の目には驚きだ。


 莉織と碧も同じだし、ここの関係値はどれだけ深いのか更に気になる。親友とはこういうことを言うのか。だったら俺はそんな親友にはなれなさそうだが。

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