色々と
「それにしても結と幼馴染か……」
鷹揚として可愛らしさ全開の第一印象を持っていた結。今では魔女として、裏の見えない底の見えない女子として君臨する恐怖の存在だが、それでも抜けない善人と癒しの雰囲気は、早乙女千隼と全くの逆に感じた。
凸凹がハマって仲良くなったのか、それとも普通に関わって関係が良かったのか。何にせよ真反対にも思えた闇と光のような性格が幼馴染なのは、結構意外だった。
「まっ、それなら何とかなるか」
夏祭りでこの関係に人数が増えるか減るかの話をしたが、こんなにも早く1人追加されるとは。
しかし結の幼馴染なら時間の問題だったかもしれないとは思うが。
色の濃いメンバーになりつつあり、5人も居て男が俺だけなのもそれはそれでどうなのかと思ってしまうのは、莉織と出会った流れから仕方のないことかもな。
いつか俺にも男の友人ができることを願いながら、俺は帰宅準備を終わらせて図書室へ向かった。
1階の端っこ。人が利用するには少し寂れていて人気のない場所。それでも利用者数はそれなりにあるようで、17時に閉まるまで人が居ることは珍しくもないんだとか。
そんな図書室へ入室。外から見て分かったが、今は莉織以外に人は見えなかった。司書さんも居ないし、今は職員会議なので誰も居なくて当然だが。
「来たぞ」
一瞬ほんの少しビクついたが、それでも本を見ていた。
俺が入って来たことに気づかないくらい集中して何を読んでいるかと思えば、聞いたことも見た事もない文学本だった。それについて話されても分からないので聞くことはしない。
「思っていたより早かったわね。誰も居ない教室で堂々と浮気して、たくさん話して色んなことをしていたでしょうに」
「お前が何を考えているのか一切分からないけど、良くない勘違いをしてそうなのは分かるから否定しとく」
「それもそうね。貴方じゃ早乙女さんと釣り合わないわ」
「お前と仲良くできてるなら普通に釣り合うとは思うけどな」
「あら、よく言うわね。それは早乙女さんを下に見すぎよ」
「そうは思わないけどな。お前が劣ってるとこなんて身長くらいだろ」
「さぁね。どうかしら。性格は早乙女さんの方がいいわよ」
「それは確かに。――痛っ」
言って即、理不尽にも杖でふくらはぎを叩かれた。もう誘導尋問だったと思う。
今日は理不尽に叩かれる日か。
「帰りましょうか。そして何を話したのかも話せる程度聞かせてもらうわ」
「そのつもりだ」
立ち上がって本を持ち、すぐ後ろに戻す。入口から少し離れた場所にあるこのテーブルの後ろの本を取ったということは、それなりに真面目に探したのだろう。暇つぶしも有意義にしようと時間を大切にする気持ち、一度死んだ俺にはよく分かる。
今日は相手の気持ちが分かる日でもあるな。
「早乙女との件だけど、色々と話して今後仲良くしたいってことだったから、もっと騒がしくなるかもな」
「色々と話したって何?」
「着眼点おかしいな。仲良くしたいことについて深堀りしろよ」
「早乙女さんと仲良くすることは分かってたことよ。だから今後についても考えてるわ。そういうことで、私が今知りたいことを聞いてるのよ。疚しいことは何も話してないのよね?」
「さっき話せる程度のことって言ってたけど、建前かよ」
やっぱり優しいな、なんて思ったのが恥ずかしいくらいだ。
「お前の気にする疚しいことは何もありませーん。気になるなら早乙女に聞いてこい」
「ならいいのよ」
「そんなあっさりしてるなら最初から聞くな」
何がしたいのか。音川莉織の取扱説明書を早く欲しい。音川茂にでも頼むべきだろうか。
「それで、何を考えてるんだ?早乙女と仲良くする魔法でもあるのか?」
「ないとは言わないわ。でも今は言わない。いつか分かることだし、言わなくても死なないから大丈夫」
「お前は俺に物事を伝える時死ぬか否かで判断してんの?本物の下僕でももっと詳細聞いてるぞ」
「面白い。1点よ」
「何点満点で?」
「1万」
「ふざけんな」
これでも一応、早乙女と関わる時にどうしたらいいのかを莉織なりに考えて、仲良くなろうとしていることは知っている。俺と早乙女が話すということを聞いた時から、既にその未来を決めていたのだから、それだけ楽しみだという表れでもある。
その興奮の余波が、こうして俺を下僕として扱うことなんだとも知っている。
「でもまぁ、お前がこうして人との関わりに乗り気なら0点でも嬉しいけどな」
「貴方が上から目線なのは許せないわね」
「そんなに上から目線じゃないだろ。どれだけ俺を下に見ることに敏感なんだよ」
「冗談にそんなに真面目に返すなんて、貴方おかしいわ」
「俺も冗談なんだけどな」
俺が居たとしても、莉織の将来は心配だ。居なかった時は今も1人寂しく誰からも関わりを持たれない性格を貫いていただろう。だが今は俺が居て何とかなると思っていたが、どうやら思い上がりだったかもな。
俺がこうしてしまった張本人だとしても、もっと感謝して冗談で下僕扱いする頻度を減らしてくれてもいいのだが。それをしないのもまた、莉織らしい、か。
「さて、家に帰ったら一緒お風呂入って一緒にご飯食べて一緒に寝るわよ」
「冗談なのかホントなのか分からないけど、どちらにせよ断る」
「冷たいわね」
結局家に帰っても、一緒にご飯を食べるだけで、一緒に風呂に入って寝ることはなかった俺たちだった。