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的中した




 「自信つけても、使いどころなかったら無意味じゃないですか?」


 「七生にくっついた時に太ってると思われてないって思えるから、それだけで十分だよ」


 「俺にくっつく前提なのか」


 「そんなことをよく私の前で言えるわね。最近はもうそんなに気にしなくなってはいるけれど」


 この世界というより、この3人の距離感がおかしい。共にパーソナルスペースは広く、更に男に対しての嫌悪が顕著に見られるという3人が、何故か触れることに抵抗なく関わってくれる。


 害がないと思われているのはいいことだが、何がどうして3人をそうさせているのか、未だに不明だ。


 「本当に長坂くんのことを気に入っているんですね。私と仲良くなった頃を思い出します」


 「久下の時もこの距離感だったのか?」


 「はい。いつも私にくっついてました。中学生の頃はまだ身長差もそんなになかったので、休み時間は特にバックハグ状態でしたよ」


 「私の時は常に荒々しかったわ。私と別れて寂しくなったのかしら」


 「どうだろうね。寂しかったからにしては、今こうして莉織じゃなくて七生に触れる理由の説明にはならないし、私も分かることじゃないから。言えることは、七生がおかしいってことだけ」


 変わらず俺に対して普通の人間に対して抱くような優しい言葉を言うことはなく、俺という存在が悪いかのように語気強めに言った。それに不快感がないことも、成川の感じるおかしいことに関係しているのかもしれないな。


 「後々分かるんじゃない?今は今で満足過ぎるくらい充実してるんだし、悪いことでもないからこの関係を私は続けたいよ」


 美味しそうにパクパクチョコバナナを食べ、きっと全員がそう思っているだろうことを代弁した。


 「そうですね。不思議なことも悪いことではないなら、私もそう思います」


 「続けてもらわないと今は困るわ。これからずっと長坂くんに依存するわけにもいかないし、そろそろ自分の足で立てるようにならないとだから」


 「よく分かってるな」


 もしこの現状を含め、俺の元いた世界で支払うべき代償の1つの理由がこの状況だったとしたら。そう考えてしまう俺が居た。


 このギフテッドだけでなく、この世界で音川と出会ってから幸せな人生を歩むことの代償に、俺は元の世界で命を失ったのかもしれない。そう思う俺が居たのだ。


 だから確信に近い思いを抱いているんだ。俺はこの世界で生涯を終えるのだと。


 その仮説すら知らない3人は、だから心底不思議なのだ。俺が現れて事が上手くいくように仲を戻せたことが。こうして俺に対して普通の男ではないように、自分の性格と相性のいいように接していることが。


 きっと正しい。そう思えるくらい、これまでの充実は確かなものだった。


 これが本当だったらどれだけ嬉しいか。何か確かめる方法あったらいいんだけどな。


 そんな、夏祭りに不似合いの仮説について夢中になっていると、音川が足を止めたので全員止まった。


 「ふぅ……やっと見つけたわ」


 「これがあんたの言ってた気になること?」


 りんご飴を食べ終えた後に言っていたことを思い出した。何やらウキウキと話していたな、と。それがこの射的という遊びらしい。


 「そうよ」


 「……何か嫌な予感する」


 「流石私の下僕ね」


 射的で使うものは玩具の銃。そこにコルクなどを詰めて撃ち、景品を落とすと自分のものになる。しかし、玩具だからこそできることもある。そう、それが。


 「あれを使って、長坂くんのギフテッドがどれだけ凄いのか試したかったのよ」


 「こいつサイコパスだろ」


 どうしてそういう思考に至るのか。俺のギフテッドを確かめたいのは分かる。しかし、だからって射的の銃で確認とか、普通に考えて思い浮かばない。それをニコニコして言うから、久下のような恐ろしさを感じるのは必然だった。


 「一応聞くけれど、無理ならしないわ。でも止められると言うなら、それを見たい好奇心があるから承諾してほしい」


 命令ではないから、本当に無理ならしないという選択を選ぶつもりだと伝わった。


 とはいえ、俺のギフテッドは脳の処理速度が異次元になるだけで、先程の成川を救った時に説明したよう、体は止まった時間の中で動かせない。これも同様で、避けるということは可能でも、距離によってそれは変化する。銃口を額にゼロ距離でつけられると、避けれるか怪しい。


 んー……でもどうせ当たっても死なないならいいか。


 「分かった。止めれるからそれを証明する」


 「えぇー、できんのー?カッコつけて当たったら2つの意味で痛いよ?」


 「できないなら承諾しない」


 「本当に大丈夫なんですか?」


 「引き金を引く瞬間の指の動きと腕の筋肉の動きで、いつ撃たれるかっていう予測ができる。だからその瞬間に動けば当たらない。大丈夫だ。当たりそうでも頬に当てることはできる。失明とか飲み込む心配もない」


 心配するだろうことは前もって杞憂だと伝える。実弾を何万発も撃たれた経験を持つ俺からすると、撃たれると分かっているだけ十分だ。


 「それと、避けたらどっか弾飛んでいくから、右手で捕ることにする」


 「私が言い出したけれど、ホントに止めれるの?」


 「うん」


 無理なら俺も頷いてない。


 「なら撃つわ。日頃の感謝を込めて」


 「それは声で優しく伝えてくれると嬉しいな」


 「あぁ、カッコつけて後に引けなくなって、痛い目見るやつだ。ドンマイ、七生」


 「俺も射的しようかな。それでその時銃口をお前に向けたい」


 「それって遠回しのプロポーズ?私が欲しいってこと?」


 「ポジティブ過ぎだろ」


 目が顔が雰囲気が、成川ではなく可愛げのある女の子へと変化していた。しかし、それを成川がしていると思うと似合わなくて違和感しかない。でも少し可愛いのは普段見れない俺の脳が錯覚を起こしているんだろう。そういうことにする。


 「イチャイチャしてないで並ぶわよ。そして景品誰が多く獲るか勝負よ」


 「いいですが、途中で弾が実弾に変わって成川さんを狙いそうな雰囲気ですね」


 「そうならないといいわね。でも勝負なら勝負する相手が死んでしまった場合、私の不戦勝になるのかしら。だったら別の後処理が大変になるわ」


 「待って待って、普通に死にたくないからイチャイチャ止めます。そして並びます」


 そう言って最後尾に音川と俺、成川と久下が隣になって並ぶ。待ち時間は1分といったとこか。現在射的中の客が終わると俺たちだ。


 「ふふっ」


 待っていると、突然久下が笑った。小声で思い出し笑いのように。それに若干引き気味の成川は聞く。


 「え?どうしたの?」


 「いえ、少しくだらないことを思いまして」


 「くだらないこと?」


 「はい。さっき長坂くんが音川さんに対して嫌な予感を当てたじゃないですか。だから射的だけに的中した、と思って」


 「「「…………」」」


 「……え?」


 聞いた3人思うことは同じだろう。そんなに射的だけにというわけでもなければ、そんなギャグっぽいことを久下が言って笑うことが、面白いを通り越して違和感になった。だから反応できなかった。何も言えなかった。


 それに、笑いながら楽しそうに伝えてくれた久下は、その様子を全て消して、このなんとも言えない空気感に驚いていた。

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