気にする
そんな久下に怯えながら、俺はお好み焼きと焼きそばを食べ終えた。その時点で動きたくないくらい満腹だったが、他3人は違ってまだまだこれから動ける様子だったので、それを見て自然と回復させる。
「そろそろ甘いの食べたいよね」
「りんご飴食べながら言われても違和感しかありませんよ」
俺と成川はまだ食べていて、音川と久下は既に食べ終えている。それでもまだ食べれますよと言わんばかりの余裕は、特に久下のような小柄な女子には違和感を感じる。
「なんて言うかな、こういう砂糖っぽい甘いじゃなくて、チョコバナナとかの甘いのが食べたい気分なんだよ」
「その気持ち分かるわ」
「なるほど。では、買って来ましょうか?」
「いや、もう休憩したし、食べ歩きしよう」
「いいわね。私もちょうど気になることがあるから、他の屋台を見たいわ」
「それじゃ、私たちが食べ終わったら行こうか」
「うぃー」
いつもならどっちが先に食べ終わるかの勝負をしかけそうだが、もう食べ終わりそうな自分と、まだ半分残っている俺のりんご飴を見て止めたか。
そもそもさっきから食べる速度を俺に合わせてくれてもいるようなので、先に食べ終わって俺を急かさないように配慮してくれているとしたら、やはり成川の好感度は高い。
その後、急ぐことはなく、3人の普段の会話に耳を傾けて、俺は食べることに集中していた。そして食べ終わる。成川は俺の30秒前くらいに食べ終わっていた。
優しいんだよな、なんだかんだ。
「ごちそうさま。待たせたな」
「美味しそうに食べるのを眺めれたから、いい待ち時間だったわよ」
「それはどうも」
この3人と一緒に居ると、悪いことをしても罪悪感を持たないくなりそうで怖い。何もかも赦されそうなのは優しさを強く感じるからだろうが、この先優しさが他人の罪悪感の基準を下げなければいいな。
とはいえ、善悪の区別はしっかりとついているので、明らかな悪には徹底的に否定の価値観を持つ。だから些細なことが大きなことに繋がらない以上、そう気にすることでもないが。
「さっ、行くわよ」
テーブルの上に集められたゴミを回収し、近くのゴミ箱に入れると動き出す。気になることがあるというのは、夏祭りが初だからこその何かだろう。それに嬉々として向かおうとする姿は、セラシルとは全く違った幼さがあった。
「さっき通った場所にあったよな?そこに戻るくらいなら俺1人で買ってくるけど?」
「そんなに離れてないから一緒に行くわ。私たち3人になると変な虫が寄ってくるかもしれないし」
「それもそうだな」
男が1人でも居れば話しかけないという選択を選ぶ虫も少なくない。それよりも、1人で買いに行かせるという選択を選びたくないのが本音だろう。
元の世界では孤独の時間が多かったし、自分から動いてセラシルの期待に応えるよう努力をしていた。だからこうして暖かく俺を思いやってくれるのは、それはそれで嬉しいことだ。
それでも根付いた付き人精神は消えそうにないが。
そういうことで、仲良く4人でチョコバナナを買いに行き、無事俺だけ列に並んで4人分購入した。ペコッと頭を下げて感謝されると、それぞれ持って再び歩き出す。
そしてそのチョコバナナを見ながら成川は言う。
「チョコバナナ見てると、これを食べてもどうせ莉織と結は太らないんだなって思うから、なんだか食べたくなくなってきたよ」
「成川さんが食べたいと言うから来たんですよ?」
「そうだけど……」
「走って帰ればプラマイゼロよ」
「浴衣で長時間走れる人見たことないけどね」
摂取カロリーを消費カロリーが上回ればいいだけ。しかし走るだけでは到底摂取カロリーを上回れない。しかも浴衣なんて、走り始めて10分で倒れる未来が見える。
「まぁ、美味しいからいいんだけど」
「気にしないで食べれるともっと美味しいですよ」
「強烈なパンチだな」
今の成川に気にしないことは不可能だ。だからそれを分かっていて言ったのだろうが、中々威力は凄まじかった。
「家に帰ったら結の顔つきのサンドバッグ作って毎日殴ることにする」
「そう言うけれど、そんなに気にしてないでしょう?」
「どうかな。最近夏休みだからって夜遅くまで起きてて、それが理由で怖くて体重計には乗ってないから」
夜更かしで体重は増えない。だから聡明な音川と久下に加えて、俺もすぐ理解した。夜更かしするから何か夜遅くに食べてるんだな、と。
「どうせすぐ気にならなくなるわ。夏ってそういうものよ」
「この2人と関わったのが運の尽きだよね。なんでこんな完璧たちと出会ったんだろう」
「お前も結構な完璧だけどな。そんな悩むことじゃないくらいには」
確かに音川と久下と比べて劣ることはあるかもしれない。しかしそれでも普通ではない。それは学力とコミュニケーション能力が証明していて、その裏には相応の努力が存在する。成川だって普通じゃないんだ。
太ってもないしな。
「常に勝負しようとする子供っぽいとこがなければ、長坂くんと同意見よ」
「私もです」
「でも、お前たちだって負けず嫌いだからいつも成川の勝負に挑むんだろ?それなら同じ子供っぽいやつらになるんじゃないか?」
「……ノーコメント」
「私もノーコメントです」
「仲良しだな。結局、3人共に同じ横並びってことだ。誰かが特出してることなんてない。客観的に見てる俺が言うんだから、威張りあってもそれは変わらないからな」
もし本当に気にしているなら、自分より上だと認めた相手に成川の性格だとこのような親友関係を築かない。もし誰かが特別で、自分より上だと認めているなら3人共に気を使う。そんな3人だから、今何も気にすることなく心の底から言いたいことを言って笑えてる時点で、そもそも何も不満はないのだ。
それでも成川が色々不満を口にするのは、比べている対象が音川と久下という完璧と認める2人だけで、共に不満を勝負として冗談として消化してくれるからだ。
仲良し故の不満じゃない不満だ。
「でもまぁ、成川が1番太ってるのは揺るがない事実だけどな」
「いいこと言われて気分よくなってた時間返して」
だから俺も、普通に成川をイジることに抵抗はない。
「次お泊まり会でもした時に痩せてたら返してやるよ」
「それは褒めてくれるってこと?」
「さぁな」
「まっ、別にいいけど。私は少し太ってもまだ平均より全然細いからね」
「そうだな」
音川と勝負をするなら悔しい。しかし、勝負をしないなら別に何も悔しくないし痩せたいとも思わない。それが成川の考え。他人と自分を比べることはしなくて、その上自分が満足いく体型をしていることを自覚している。
お泊まり会では、腹部に触れられることを全く気にした様子もなかった。それよりか、成川から触ってと言われるくらいだった。
ただ不満が生まれるのは、音川という自分と比肩した存在と勝負する時だけ。だから勝負という概念なしでは、結構満足しているのだ。
「でも、次のお泊まり会があるなら、その時に褒めてもらって自信つけるのもありかなー」
「ご自由に」
もう自信はあるだろうに。




