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 映画が終盤を迎えていたから目を離さないだけで、中盤序盤なら普通に目を離して音川の隣に座ろうとしていた。クライマックスこそどういう展開で謎が解けるか、それは些細なことですら見逃してはいけないこと。だから今回はそうした。


 結局観ていて驚くようなことは何もなく、どうやら欺かれたのは俺だったようだ。


 「これはどういう内容の映画?」


 隣に座ると、しっかりと声が聞こえた。しかしまだ若干の恐怖はあるらしく、俺が隣に居るだけでどうこうなることではないとハッキリ分かった。


 「家族にも友人にも恋人にも捨てられた主人公の性格がひねくれて、騙されるくらいなら騙す側になってやる!って人生欺き大会を始めるって内容」


 「そう。貴方の未来の姿ね」


 「辛辣だな」


 実際今、捨てられたということではないが、家族も友人とも離れ離れになり、恋人は存在しなかった元の世界と比べると、今の俺と言えるのはあながち間違いでもない。


 その上で、未来でも同じことが起こるというのなら、俺はこの世界に来たことを心底後悔することになる。それだけは嫌だな。


 「もう終わったの?」


 「そうだな。お前がこの部屋に来た時には全てが解決してた。だから後はそれらの解説が軽く挟まったくらいだ。結果主人公は家族と友人の大切な人を欺き決別させ、恋人に多額の借金を背負わせることに成功ってとこだ。復讐相手が結構クズの権化だったから、観る側は気持ちよかったぞ」


 どこぞの先輩とは段違いにクズだったので、途中までは気分悪くなったりしたことがあったが、それでも今はそこを乗り越えてよかったと思う謎の爽快感があった。


 非人道的な行為を含めた人に対しての暴言暴力は、元々俺は嫌いだ。だから作り物に対しても嫌悪感があったが、今ではそれは食わず嫌いだったと分かった。今回が当たりの映画だっただけかもしれないが。


 まぁ、バットエンドになるなら嫌だけど。


 「面白いとだけ言ってくれたら、私も後で観ようと思ったのだけれど」


 「それは残念なことをしたな。面白かったからつい共有したくなったんだよ」


 「次からは気をつけなさい」


 「はいはい」


 ここに来た理由が、孤独に雷の音を聞きたくないから。それなのにいつも通りの高飛車な態度は変わらない。普通の人間が相手なら、今頃付き人なんて辞めてるだろう。


 顔の良さに惹かれたり、付き人がドMなら耐えられそうだが。


 「次は何を観るの?」


 「決めてないな。今のは続編ないし、今のとこ特に観たいと決めてた映画もない」


 今回の映画は久下と別れてから帰宅途中にスマホで偶然発見した高評価の映画。それを観てみようと思って今に至る。だから俺が探して何かを観るということはしたことがなく、どういうジャンルが好みなのかも把握していないので、未だに俺はこの世界に大半無関心なことを理解させられたくらい困り者だ。


 「っそ。なら、適当にテレビつけて私と喋りましょう」


 大きくとはならずとも、俺が隣に来たことで、多少なりとも恐怖が薄れているようだ。


 音川は基本なんでも分かりやすい。例えば今の「っそ」という「あっそ」の短縮バージョンを発する時は、いつも通りだったり、素直になれなくてツンツンする時の発言。そして「っそ」に比べて丁寧に聞き取れるよう優しい声色で言う理解した時の「そう」は、気落ちしていたりネガティブになっている時の発言だ。


 だから恐怖が薄れていることも分かる。


 「最近喋り過ぎて何も話すことないんじゃないのか?」


 「そうでもないわ。今日、貴方がどこに行っていたのかとか私は気になるから」


 「あっ、そうか」


 一応家を出る時に音川に外出するとだけ伝えていた。だから音川は俺が誰とどこで何をするのかを知らない。


 「でも俺の外出なんて聞いても面白くないだろ」


 「面白い面白くないは関係ないわ。それに、確かに短時間なら興味ない。コンビニやスーパーで買い物をしたと分かるから。でも長時間は気になるのよ」


 「過保護かよ。下僕を大切にしてくれて泣きそうだ」


 俺の記憶違いでなければ、この家に門限は存在しないはず。何故か長時間姿を見せないことに深く追求されるので、尋問されている気分になる。


 しかも真隣に居るので、いつ何をされるか分からない現状。布団から手錠や包丁が出てきてもおかしくないだろう。その時は集中させてもらうが。


 「今日は久下にお礼だって言われてこのパジャマと私服を買ってもらったんだ。だから端的に言うとデートしたってことだな」


 「久下さんと?あぁ、私と碧の件でってことね?」


 「そういうこと」


 「なるほど。ということはこのパジャマも久下さんが選んだの?」


 「そうなるな」


 「流石ね。貴方に似合ってるのを選ぶなんて」


 思っていたより気にしてない様子。予想では「誰が久下さんとデートをしていいと許可を出したの?」くらいの冷え冷え発言をされると思っていたが、案外俺にも自由はあるのかもしれない。


 「その感じ、久下って服選びのセンスあるのか?」


 「父がアパレルショップの社長で、母がスタイリストだから、着飾るものに関しては文句なしよ」


 「へぇー。それは凄いな」


 「よかったわね、センスいい人に選んでもらえて」


 顔は見えないが拗ねてそうな雰囲気が声から伝わった。


 「センスだけじゃなく性格もいいからな」


 顔も。


 「っそ。性格の悪い主様で悪かったわね」


 更に拗ねた。弱りかけの心に、更にダメージを与えることは愚策だったかもしれない。


 「そんなことは言ってない。どっちも好きだからな」


 「ご機嫌取り?」


 「卑屈音川の対処方法はまだ見つけてないんだから、そんなにネガティブに思うなよ。お前と久下は同じじゃないだろ?どっちにも違う好きがあるんだよ」


 「……本心?」


 「本心」


 「……ありがとう」


 信頼度は高い。だから真面目に伝えると音川はすぐに信じてくれる。それなら冗談も聞き流してくれてもいいのだが、ネガティブは難儀なものだ。

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