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年頃の




 「長坂くんは本当に私への反応が面白いですね」


 心の底からの笑顔だろう。そう思うことにするが、そんな暖かさを含んで目の奥も澄んだ笑顔を見せて言った。それは年相応で、見た目通りの幼い喜悦を感じたようだ。


 「……楽しんでもらえたなら満足だ」


 「これからもずっと変わらない長坂くんで居てください」


 「いいや、俺はお前を知って怖いと思うことがなくなるように関わる。絶対に」


 その方が今より絶対に楽しい。その確信は、今音川という存在を知り始めて幸せを感じ、充実した生活を過ごせていると思っている俺の経験から生まれたものだ。


 「それは残念です」


 「お前がこんな性格だと知ったら、多分それでも好きな男子は多いんだろうな。むしろ増えたりするかもしれない」


 「そうなんですか?まぁ、長坂くんに特別に見せているだけなので関係ないですけど。長坂くんだけ特別ですよ?」


 「そうやって言葉で誑かして男を落としてきたのか?」


 「これも長坂くんにだけ言った言葉なので、そんなことはありません。私に惹かれている人が多いことも知ってますが、それに関しては心底どうでもいいです。それにたとえ誑かしたとしても、誑かされる方が悪いですから」


 「うわぁ……怖っ。俺を惹きつけて久下の沼に嵌められそうになってるのかって思うな……」


 もう最近はこれが平常運転なのかと思っている。結構豪快で好きな性格だからいいが、久下に好意を抱いている人には聞かせられない悪人の発言だ。


 それでも我を貫き通すのは、他人に自分の道を決められたくないからか。


 人から好かれる才能を持っていると、それだけ嫉妬の目を受けるのだろうが、それすら気にした様子はない。むしろどうでもいいと切り捨てている。それはきっと、両手に存在する川川コンビと、もう1人の友人だけで満足しているからに違いない。


 「長坂くんに好かれたいと思うことは当然ですよ。でも、だからと言って誑かしたり無理に好かれようとはしません。私は本当の私を知って尚、関わってくれる人に好かれたいので」


 「何かそう思うようになった理由がありそうだな」


 「ありませんよ。ただ前にも言いましたが、私を勝手に神格化して幻滅されることに辟易しただけです。それと、その時からです。私の口が悪くなり始めたのは」


 「へぇー。大変だな、可愛いっていうのは」


 絶対になりたくないな。男より女の方が力の弱い世界で、可愛過ぎる顔で生まれたくない。きっとその場合、男に対して何をされるかという不安が多少なりとも付きまといそうだ。


 考えるだけで嫌だな。男のカッコ良過ぎる顔も同じく。


 「本当にそうです。でも、可愛い私で生まれることができたから、そういう境遇の人と関われたので、私は今の人たちとの関係を後悔したことはなく、大好きだと思えてますよ」


 「そうだな」


 最近よく笑うとこを見るが、それが今の発言に直結していることなのは簡単に分かった。


 日頃の学校生活が成川と友人1人だけの久下にとって、音川という存在と、音川と関わる成川という存在は途轍もなく巨大だったんだろう。


 それにしても、俺の周りの友人は皆女子。しかも3人共に優艷。社長令嬢としてのイメージにピッタリの容姿に性格。2人は上から目線で下僕扱い。1人は同じ目線から口悪くドSを見せる。


 そんな人たちと出会えたなら、それ以上俺だって求める友人はない。それだけで、過去に友人も居なく仕える主だけが唯一の心の拠り所だった俺は満たされているのだから。


 似た者同士、類は友を呼ぶ、だな。


 「ホントに2人が大好きだよな」


 「じゃないと学校行きませんから」


 「そんなにかよ」


 でもそれくらい、他人に自分の本性を知られないで関わられたり視線を向けられることは嫌悪対象ということ。幼い頃から多くの人と関わる機会があったからこその、独特の価値観。好かれている側の俺は心からよかったと思えるな。


 「そんなにです。さて、そんな話をしてると到着です」


 「ここか」


 中々のスローペースで到着したのは洋服店。人が着ることの可能な洋服が全て置いてあると言われれば信じるくらいの大きさだ。


 「洋服をどうするんだ?」


 「長坂くんに似合う服を買って、更に夜着る用のパジャマも買います」


 「俺に?それは嬉しいけどいいのか?」


 「先日お泊まりした時、私たち3人はパジャマで、長坂くんは1人上下バラバラの洋服を着てましたよね?なのでパジャマを買おうかと。そしてそれなら、半年くらい前まで病院で過ごしていた長坂くんに私服が足りないかと思って、一緒に買おうかと思ってたんです。なので恩返しにピッタリですよ」


 「なるほどな。言う通り私服は少ないし、パジャマなんて持ってない。そういうことなら助かる」


 音川茂に渡された私服だけでこれまで過ごしてきた。だから夏用の服なんて持ってないし、寝巻きだってない。必要最低限は揃えたから、残り足りないとか欲しいとか思う物は自分で買えと言われていたのをすっかり忘れていた。


 成川に引けを取らない怠惰ぶり。面倒を嫌う性格はそろそろ年齢的にも治さないとだな。


 「では行きましょう。今日は長坂くんを沢山着飾りますよ」


 「今日だけはマネキンになるか」


 ということで、久下の優しさに乗っかり、俺に似合うコーディネートを久下がしてくれることになった。失敗はないだろうから、マネキンになってあれこれ似合うのを見つけてもらうのは楽しみだ。


 店内に入ると、人が多いのが分かった。それでも気にした様子のない久下は迷わず進む。最初は何を着飾ってくれるのか期待を込めてついて行った。


 「そうだ、1つ聞きたいことがあるんだけど気分悪くしたらごめんな」


 「大丈夫です。何ですか?」


 「久下って身長のこと気にしてたりする?」


 後ろからついて行くと、どうしても身長が気になった。高校生にしては小柄過ぎて、それを今後も思い続けるだろうからもし口に出した時、気分を悪くさせたら申し訳ないと思って先に聞いた。すると足を止めて振り返って言う。


 「……はい。唯一のコンプレックスです」


 少しだけ声のトーンが落ちた。だが。


 「なんて、嘘です。全然気にしたことないですよ」


 「本気っぽく思わせるの上手いな。信じそうになった」


 「ふふっ。よかったです」


 「なら、身長とか聞いてもいいか?」


 「147cmです。体重は41kgなので、この胸にしてはスタイルいいですよ」


 「……お前がどんな性格なのか混乱するんだけど」


 見た目も相まって久下は音川成川に比べて胸は大きく見える。しかしそれでも多分2人と変わらないだろう。


 いや、そんなことはどうでもよく、普通に自分の胸がどうとか発言することが意外過ぎて何も頭に入らなかった。147cmの41kgは平均より下。身長以外に余計なことを聞いた気がして謎に罪悪感が湧く。


 久下、恐るべし。


 「私も年頃の女子高校生ということですよ」


 「そうらしいな」


 だからって特別思うことは何もないが。


 「身長を聞いてどうするんですか?」


 「どうもしない。ただ、この身長差でコーディネートするってなると、首とか腕とか疲れたりしないかと思っただけだ」


 「なるほど。流石紳士です。ちなみに長坂くんの身長は?」


 「176cmだから久下と29cm差だな」


 今の久下はサンダル。俺は厚底スニーカーなので更にその差は開いている。


 「大きいですね。これが約30cm差ですか……私って本当に小さいんですね」


 背伸びしても目線は俺の顎が限界。そんなに離れた身長差は、妹を持ったように感じてどこかホンワカするな。


 「まぁでも、キツいことはないと思います。なので次から次に遠慮なくその場で確認しましょう」


 「久下がそう言うならそうしよう」


 判断は久下に任せる。その方が確実だから。


 こうして俺はマネキンとなり、その時間は1時間ほど。これはどうあれはどうと、時々試着しながら結局、俺の私服と寝巻きはあっさりと決まった。

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