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また今度




 そうして私たちはアロマショップへと向かった。夏休みということもあって、人混みはそれなりにあった。目立つのは子連れや若い男子だけ女子だけのグループ。老若男女居ても不思議ではなかったが、やはりお年寄りは少なかった。


 この暑さと人混み。特にショッピングモールでしか買えない品物をどうしても欲しくならない限り来ないだろう。孫なんか居ると別かもしれないが。


 「到着ー。色合い凄いねぇ」


 「アロマショップですから」


 「どういうのが好みなのか、見てみると分からなくなるわね」


 アロマオイルなのかアロマキャンドルなのか、それとも別の何かなのか。私の中の長坂くんは結構胡乱な存在として認識されているから、結果どれが好きそうだとか似合うだとか私の考えだけだと決めきれない。


 「リラックスしたいとのことなので、リラックス効果の高そうなのを選びましょう。それでも数は多いですが」


 アロマ全てがリラックス効果を持つわけではない。だからリラックスという単語に注目するなら、それだけで数を絞れる。それでもリラックス効果を持った商品は大半。似合うとか効果高そうとか考えていると、日が暮れそうな気がする。


 「やっぱり私が添い寝した方がリラックス効果は高そうで確実だからそうしようかしら」


 「逆にストレス増やすと思うけどね」


 「音川さんが添い寝したいだけですよね?」


 「どっちも正解かもしれないわね」


 曖昧にして濁すが、依存していることは2人も知っていることなので、各々答えが正解か否か簡単に分かっていることだろう。


 「私たち3人で七生に合いそうなの買えば?それで1番よかったのを後で聞くとして、その方が私たちが一生懸命七生のことを思って選んだんだよって伝わりそう。莉織がそれ伝えてくれたら尚よし」


 「何故ここでも勝負をしたがるのかしら。それと私任せなのはどうなの?」


 「別にいいでしょ。あんたが1番七生のこと好きなんだから」


 「好き嫌い関係あるの?」


 「1番好きな音川さんがもしも選ばれなかったら、その時の傷心は大きいでしょうね。面白いですけど」


 「本性見えてるわよ」


 ここでの好きが、誰1人として恋愛感情として思ってないのは、それだけ長坂くんと私たちが恋愛関係に発展すると思ってないから。


 女友達のようにスキンシップは取るし、会話だって弾む。親友のように紛れ込み、しかし楽しく時間を過ごせることに誰も不審に思わない。


 そんな摩訶不思議な存在を、私たちは恋愛対象として見れていなかった。


 今は。


 「まぁ、私が勝つことは当然よ。だから挑んでもいいわ」


 「あいつのイメージから何となく答えは導き出せるよね」


 「敢えてここは難しいと言っておきましょうか」


 「保険?見た目と同じで考えもダサいんだね、あんたは」


 白のワンピース姿でどう見ても似合っていて人の目を惹く風采の久下さん。そんな相手に勝負は既に始まっていると言いたげに、碧は言葉で殴りかかった。


 「ここ最近ずっと成川さんを殺したい衝動に駆られているんです。いつかそれが爆発しないことを願っててくださいね」


 「かかってきな、小学生」


 右手でクイックイッと煽ると、その瞬間目を細めた久下さんは右手で握りこぶしを作り、鋭く碧の腹部に決め込んだ。


 「――っ!?……そんなに痛くない」


 しかし力はそんなに込められてなかったようだ。驚き具合から見ても体が過剰に反応しただけの様子。


 「次は当たる前に緩めないので」


 「……まぁ、今回は勘弁してあげる」


 「力の差がハッキリした瞬間だったわね」


 ここは武道場ではなくショッピングモールのオイルショップ中。女子高校生が殴って殴られ傍観しての絵面はとても似合ってない。注目はされないが、不審な目で見られることは覚悟のうちだ。


 「ったく、か弱い乙女のお腹にパンチとか有り得ない」


 「自業自得です。あと、か弱い乙女は私の方です」


 「見た目ではそうかもね」


 残念ながら世の中は見た目が重視される。第一印象と同じで。だから久下さんの雰囲気も相まって、か弱い乙女の言葉に似合う人は、自然と久下さんになる。これが現実。


 「さて、気を取り直して長坂くんにお似合いのアロマを探しましょう」


 「あいつ何が好きかなー……何も知らないから分かんなさ過ぎる」


 「とにかく気持ちがこもってそうならなんでもいいのよ。長坂くんだって好きな匂いとかないかもしれないんだから」


 「従えてる主様がそう言うなら、フィーリングかぁ」


 「そうよ」


 結局長坂くんはなんでも喜んでくれる。だから懊悩することは時間の無駄だ。リラックスと言っても、そんなに何かに苦しめられている様子もないのだから。


 それにしても、真剣に探すのは意外だった。本当に本心から喜んでほしいと思って選んでいるようにも見えて、やっぱり私だけの長坂くんではないんだと改めて思った。


 それに、何も知らないから、何も分からないからと、今度あいつに色々聞こうかな、なんて呟いた碧に、私ももっと知りたいと思うようになっていた。


 これから知れる。けれど今知っていたい。そんな贅沢な願いは叶わない。それでも私は、今後長坂くんが離れないことを確信して、アロマキャンドルを探した。フローラルな甘い香りのキャンドルを。


 それからというもの、私たちは長坂くんへのプレゼントを探すのに10分使った。各々会計を済ませ、帰宅しようかと思うと、せっかくだからご飯食べたり他のとこ歩き回ろうということになった。


 だから私たちが別れることになったのは、思っていたよりも遅い17時過ぎだった。楽し過ぎて時間経過が早くなって、別れるのが寂しいくらいだ。


 「2人とも、今日はありがとう。楽しかったわ」


 私と2人の家はそれぞれ遠い。電車に乗って帰るので、駅でお見送りだ。


 「こちらこそ楽しかったです。また遊びましょう」


 「次は夏祭り?楽しみにしとくね」


 「ええ」


 「あんたは帰り大丈夫なの?いつもの過保護が居ないけど帰れる?」


 私の目の前に立つ人も中々の過保護だけれど。


 「大丈夫よ。明るいし人は多い。足が悪くても躓くことはないから安心して」


 「ならいいけど。それ、ちゃんと七生に渡してね?」


 「分かってるわ」


 「普段は荒々しいのに、こういう時は律儀なんですから。本当、長坂くんのことが大好きですね」


 「嫌いじゃないってだけ言っとく。あいつの前では嫌いって言い続けるけど」


 嫌いになる要素がないのだろう。それはここに居る3人全員が理解していることだ。


 「そんじゃ、電車来るし私たちは帰るよ」


 「次は夏祭りでお会いしましょう。またね」


 「またね」


 久下さんから発せられた初めてのタメ口。またね、だけでも破壊力があるように感じたのは、普段の立ち振る舞いから想像がつかないから。こういう人は、不意に異性を落とす気がするので、これから先少々厄介だ。


 と思う私だが、心の中で何故厄介だと思っているのか、その根本的な意味は理解していなかった。


 こうして、私の親友たちとの初めての外出は終わった。ひたすらに喜悦を感じて、笑って煽って喧嘩して。そんな日常を経験したことが、私にとって外出が特別な時間となった大きな理由だった。

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