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優しさ




 「急がなくてもなくなりませんよ」


 「夏休みだよ?日頃のストレスを気にして買いに来る人多いんじゃないの?」


 「夏休みという理由なら確かに増えそうね。でもストレス云々で買いに来る人はそう多くないと思うわ。最近なんてネットで買う人も増えてるようだし」


 私がここに来るまでに調べたところ、売り切れの商品は多かった。それはアロマ系の話に限らず、この夏で使うだろう日用品や海や森で使うだろう品物も。だからこうして足を運んで買いに来るという人も、今の時代そう多くはないだろうと思っている。


 「ネットねー。なんでもネットで買い物してると、ホントにダメ人間になりそうだよね。今は高校生って肩書きとあんたたちと買い物に行くって理由があるから、こうして買いに来てるんだろうけど」


 「未来が見えていることはいいことよ。貴方が素晴らしい大人になるとは思えないから」


 「それはこっちのセリフでもあるよ」


 「どんぐりの背比べですね」


 「あんたも入ってるからね」


 いつもと特別変わったことのないこの会話も、1ヶ月前はまだ見えなかった未来だ。こうして隣に並んで買い物に行くことも、駄弁で言い合いすることも。だから改めて思う。長坂くんへのお礼は、きっと形で返すようなことではないんだと。


 私たちの関係がずっと続くこと。そして私が幸せを得て過ごすことを見せること。これが私に長坂くんが付き従う報酬なのだから、少しずつ少しずつ私も心を開いて返したい。


 「それで、場所は?どこにあるのか分かってるの?」


 「今向かってるわ。と言いたいけれど、残念ながら場所は知らないわ。私、ここに来たの初めてだから」


 「マップ見ますか。私もここに来たのは久しぶりですし、アロマ系の商品を買いに来たのは初めてなので分かりません」


 「適当に歩き回るのもいいと思うけどね」


 「無計画で出かけそうな貴方には旅行は無理ね」


 「行きたいとこが明確なら計画立てれるよ」


 そんなことを言うが、碧は基本計画を立てないらしい。理由は単純で面倒だから。ホテルを予約したら、それ以外は何もかも適当。だから営業時間を確認することはないし、電車どれに乗ればいいのかなんてことも調べないんだとか。


 一緒に旅行に行きたくないランキング圧倒的1位の考えを持つ変人なのだ。


 ちなみにその被害を最も受けているのは私の隣に立つ久下さんだ。その話も久下さんから聞いた。


 「口だけだと何とでも言えますからね」


 「そう言うなら、いつか旅行する時私も計画立てるの手伝ってあげるよ。それでホントだって思わせてやる」


 「手伝ってあげる、と言う時点で終わってるわ。最初から私が計画を立てるから、ということにするなら、雀の涙程度は信じたのに」


 それでも多分私は信じない。


 「まぁ、こうなったらもう私は旅行の時に計画は立てられないってことで邪魔者になる。だったら私抜きで計画立ててね、よろしく」


 ニコッと、元々そういうことにするつもりだったようで、もし旅行に行くなら全てを託したと中々人としてどうかと思う発言をする。だが、これもまた親友としての信頼から嫌われることはないと確信しているからだろう。


 「不思議ですね。何故それで私たちと成川さんが一緒に旅行に行くという考えになるのか、私には心底理解できません」


 「それは親友だからだよ」


 「親友は魔法の言葉じゃないわよ?たとえ親友だとしても、旅帰りの車の運転中に助手席で貴方に寝られたら、多分私は信号待ちの時に貴方を撲殺すると思うわ」


 「……本気に聞こえる」


 「私は多分ではなく確実に撲殺しますね」


 「……まぁ……行く人全員で計画はしっかり立てようか」


 もし本当に、素で計画も立てないで自分勝手に振る舞って私たちと旅行に行くのならば、多分その前に友人にすらなっていないだろう。


 今この場に居る時点で、碧も無計画ながらその他でしっかりと旅行に行く意味を見出してくれている存在なのは分かる。例えば、誰よりも旅行中に楽しそうにする、とか。


 自分の立てた計画で、自分より他人が喜ぶことはきっと途轍もない愉悦だろう。そうなら計画を立てたいと思うのも分かる。


 久下さんが優しいだけかもしれないけれど。


 「あっ、あそこありそうですよ」


 殺意に怯えている碧を見ず知らず、久下さんは元気に目線で店舗を見ろと合図した。


 「アロマショップ。名前の通りね。見つかってよかったわ」


 「へぇー、オシャレ。私には似合わないな」


 「ドンマイです」


 「貴方には可愛さが欠けてるから仕方ないわよ」


 「慰めてすらくれないのが親友か。泣けるね」


 別に顔に関しては整っているから、可愛いとか美人とか褒め言葉を今更言うことはない。それに自分のことは自分が分かるように、碧も少なからず自分の容姿の良さを理解している。


 それ故に男子の視線や声掛けに敏感なのだから。


 しかし、それでも完全な優越感もなければ、鼻にかけるほどの良さとは思ってないらしく、容姿を褒められて心の底から本気で嬉しいと思ったことはないのだとか。


 碧に珍しいほんの少しのネガティブな部分だ。


 「さっ、早く買いに行こう」


 そう言いつつも、決して走ったり早歩きをしない。


 「悪いわね。急いでいるのに走れなくて」


 だから根付いた癖が、久しぶりに戻った幼馴染相手にも出てしまった。しかし碧はそんな私を見て、卑屈な私を嫌そうに見て言う。


 「あんたまだ気にしてんの?結はともかく、私はあんたの足について出会って1回も可哀想とか悪いとことか思ったことないから。そもそもあんたみたいな性格の人間を気にすることないっての」


 「私も思ったことありませんよ。楽しいとか幸せとか感じる時に、足が悪いからという理由は必要ないですから」


 「……ありがとう。急いでそうだったからつい、悪い癖が出たわ」


 「別に。急ぐのは、目的を達成したらそれだけ後は自由にあんたたちと動き回れる時間になるからだよ。あんたは体力がないだけで、足に負荷をかけ続けるとダメってわけじゃない。なら、何も気にすることはないよ」


 ただただ暖かな言葉だけが返ってきた。何故そうするか、という理由に全て答えがあって、それは全て私の足が悪いという理由からではなかった。


 気にしていなかったと言えば嘘になるだろうが、それでも意識しないで私を普通の人として扱ってくれるのは、私にとっては嬉しかった。それに、過去に伝えていた足がどう悪いのかということ、それを覚えていてくれたのも嬉しかった。


 「素直になった成川さんは可愛いですね」


 「いつも可愛いの間違いでしょ」


 「ふふっ。そうかもしれません」


 私が気負っていたら素直に本心を伝えてくれる。私はいい友人を持ったらしい。


 「ありがとう、2人とも。これからは気にすることなく歩くことにするわ」


 「いつもと変わんないじゃん」


 「よかったです」


 苦しかった4月までの16年間。私はこれからその分の幸せを受け続けられるのだろうか。少しだけ、未来に興味を持てた。

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