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何を買うか




 「ショッピングモールって久しぶり。そんな行かないけど、来たらそれなりに時間潰せるよね」


 長坂くんにプレゼントをするため、ショッピングモールでリラックス効果を含んだ何かを買おうと足を運んでいた私たち。家からそう遠くない場所にあったので、タクシーを使うこともなく歩いて来た。


 「来る相手が私だけですからね」


 「それはあんたもでしょ」


 「いえ、私は他クラスに友達が居るので」


 「いつからそうやってイマジナリーフレンドを作るようになったのかなぁ?小学生ならこれから友達増やせばいいんだよぉ?」


 「私の体と交友関係をバカにしますか……ふふっ。ぶっ殺しますよ?」


 明らかに就寝前とはレベルの違う殺意の籠った声と目。身長147cmの後ろに人殺しの権化を飼っているかのような威圧感。やっぱり久下さんに暴言は似合うし似合わない。


 「私の方が強いから殺されないっしょ」


 「どうでしょう。無防備な成川さんになら私も勝てますよ」


 「強い弱いを単純に力だけで比較して勝ち負けを決めているその低脳っぷりが、やっぱり学年2位なんだって思うわね。滑稽で笑えてくるわ」


 「はぁ?何?あんたなら勝てるって言いたいの?」


 何も長坂くんとだけ喧嘩したり対立したりするわけではない。碧は気に入った人や懐いた相手限定で、こうして正面から口論を始める。


 「どうしてこうも学年2位が頭悪く思えるのか私も分かりませんね」


 心底呆れたように、昨日今日での溜まった思いをため息と共に吐き出した。久下さんの第一印象からだと想像もできない光景だ。


 「不正したんだわ。それで学年2位。不正しても勝てないなんて更に滑稽極まりないわ」


 「言ってくれるね。その清楚で可憐に見えるよう染めたうっすい金髪と、腰まで伸ばした長すぎて鬱陶しい黒髪どっちも刈り取ってやろうか」


 「成川さんも染めてますよね?」


 「これは地毛で金茶色なの」


 「首に髪先がチクチクする髪型の方が嫌よ」


 「ショートボブね?でも可愛いからスーパーロングよりかは全然いい」


 話が脱線したが、日本人は圧倒的に黒髪が多い。色素は若干薄いが、久下さんも本当は黒髪で私も黒髪。そんな中で、碧は地毛で髪色が金茶色。両親は日本人で祖父母も日本人。謎の遺伝で髪色は地毛で金茶色。不思議だ。


 ちなみに、久下さんが髪を染めている理由は碧が言った理由と全く違う。本当は、幼い頃に髪を染める機会があって、そこで間違えて真っ白にする予定が薄い金色になったらしく、それ以降気に入って常に髪色を染めてるのだとか。


 「私に可愛いなんて必要ないわ」


 「同じく。既に私たちは可愛いですから」


 「それはそう」


 「ん?私たちの中に成川さんは入ってませんよ?」


 「はぁぁ?!」


 「自意識過剰ね」


 長坂くんが居ると私たちの反撃もないので目立たなかったが、実は結構碧は反撃される。しかも反撃された瞬間に人数差で敗北するので、仕方なく負けを受け入れる流れにもなる。


 「まぁ、別に間違いでもないけどね。女の子は生まれた時から可愛いんだし」


 「現実を見ましょうよ」


 「あんたのその風采からそんな言葉が出てくるなんて、人は見かけに寄らないね」


 柔和なイメージを悉く打ち破る久下さん。今では長坂くんにも把握された闇の部分。隠すつもりは毛頭ないらしいが、人は見た目で第一印象が決まるというように、話す前から人のイメージが決まるので、こうして話して久下さんのイメージが一変してしまうのは必然の流れだろう。


 人間って不思議よね……私も碧も久下さんも長坂くんも。


 「それで?何か買う目処は?」


 反撃に屈した碧は、ここに来た理由を再確認するように何を買うか聞いてきた。


 「何にしようか移動中考えていたけれど、リラックスする物になるとマッサージ機とかで高価な物しか浮かばなくて。でもいいのが1つ浮かんだのよね」


 「何?」


 「アロマ系ですよね?」


 「流石、女子力高くて可愛らしい久下さんね。答えを聞くだけで考える気もない人よりよっぽど優秀よ」


 「……そういうの疎いんだよ」


 碧は言わなくても態度で分かる通りの性格や知識を持っている。だからこういう女子が好みそうな物や事にはとても疎い。何故この場に付いてきているのか分からないくらいに疎い。なので答えが出ないことくらい分かっていた。それでもイジりたいのは私の性だ。


 「使ったことないんですか?」


 「ないよ。普段使うものなの?」


 「私は疲れた時に好みの匂いを嗅いでますよ。入浴中だったり就寝前とかに」


 「私は使わないわ」


 匂いにどうにかできるストレスではなかったから、そういうのを試した経験はあっても使用し続けることはなかった。だから今どきのアロマオイルやアロマキャンドルがどういう効果を齎すのか、自然と興味が湧いたのだ。


 「ふーん。私も使おうかな」


 「買っても意味あるんですか?」


 「んー、最近はどこかの下僕が居るからそうでもないかな」


 「貸さないわよ?」


 「こうなるから、私も自分用に買おうかなって」


 私の長坂くんであることは間違いない。私が使用権を持っていても、それもまた間違いない。絶対に。何があろうと。


 「それでも成川さんがストレス感じるとは思えませんけど?」


 「今は夏休みだけど、学校始まると男子が居るからね。色々と執拗なのはストレスだよ。あんたたちも分かるでしょ?」


 顔がいいから分かるだろ?と。


 「分からないことはないですが、気にするのも面倒だと思えば気になりませんよ」


 「私は近寄って来ないから分からないわ。物好きが少し居る程度で、それも今は長坂くんが居るから気にならないわ」


 「メンタル強いって羨ましい」


 「貴方も強いじゃない。毎回長坂くんと口論しても気落ちしないし」


 「あれはストレス発散中だから、どっちが悪かとか考えてないんだよ」


 「まぁ、そうよね」


 誰が見ても仲良しの喧嘩にしか見えない。そんな喧嘩を毎回のようにするのも凄い。


 「その、アロマ系の何かはどこにあるの?早速行こうよ」


 外出を楽しみにしている姿を見るのは初めて。碧とは学校での交流ばかりだったから、こういうプライベートを過ごさせるのは、恥ずかしながら口にできないくらい嬉しい。

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