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反撃




 「別に理由あっても、私はやっぱりそういうことが好きな変態的趣味としか思えないよ」


 「だとしたら、俺はお前には絶対仕えないから、その点でも音川に負けてるな。敗北者になりたい趣味があるならそう言えよー」


 「次は勝つし。それにあんたが下僕とか落ち着かないっての」


 「お互い様だな」


 「あんたってそういう悪いとこもあるんだから、何か莉緒に対して邪な気持ち持ってんじゃないの?」


 そう言われることは予想していた。音川はお世辞抜きで可愛い。外見だけでもそう思えるのだから、男1人がその顔に釣られて邪な気持ちを持っていることを疑われることくらい、誰だって気になることだろうからな。


 「残念だけどないな。俺は誠心誠意尽くしてる付き人の鑑だ。そもそもこんなワガママな性格に、どんな邪な気持ちを持てって言うんだよ。そっちの方が俺にとっては難しいね」


 「まぁ、確かにそうかもね」


 「貴方も納得するなんて最低ね」


 腕を組んでふんっとそっぽを向く。これを本気でするから可愛いと思う。


 「そんなこともないだろ。ちゃんと守るって約束もしてるんだから」


 「守る?それはまたプロポーズのような言い方ですね」


 「そんなに?」


 「はい。とはいえ、私たちは付き人が居てもおかしくない立場の人間ですから、そこまで珍しい発言でもないかもしれません」


 「それでも学生が学生に言う言葉ではないわね。まぁ、気分はいいからどうでもいいのだけれど」


 音川、成川、久下、言わずもがな金持ちの子供だ。金持ちの子供を守るために雇われたボディーガードなんて、界隈ではそう珍しいことでもない。


 実際クラスメイトには居なくとも、隣や更にその隣のクラスに付き人は存在する。守るということを口にして約束してないだけで、心の中では守らないといけないと思っているのなら口にしたかしてないかの違いだけ。そう驚愕でもないだろう。


 「そういう趣味なんでしょ。ね?」


 そういうことにしろ、とも言いたげだ。


 「かもなー」


 「私にもその下僕の恩恵欲しいなー」


 「適当に雇えばいいだろ。それでもお前に仕えたいと思うのは下心丸出しの変態だけだろうけどな」


 「ならあんたピッタリじゃん」


 言われて瞬時に右腕を成川の首に巻き付けて引き寄せた。体は密着して離れられないよう力も込めた。


 「いっそ、お前の思ってることを事実にするのもありかもな」


 「えっ、な、なにすんの?」


 仕返しされると弱いことは既に知っている。だから慌てても俺は離さなかった。


 「下心丸出しの変態に似合ったことだな。そうすれば、お前の言ってることを受け入れるだけでいいし、お前は考えを改める面倒も減るだろ?」


 「えっ?……待って待って、冗談、冗談だから!もう言わないからぁ!!」


 「それは前聞いて嘘って知ってるからなー」


 首に巻いた右腕。その先の右手から、この前のように顎から頬をガシッと掴む。今度は普通に喋れるくらいの力だ。


 「さて、下心丸出しの変態はここで何するんだろうな。ご尊顔を舐めるのか?それとも服脱がせるのか?」


 「どっちもしない!長坂七生は紳士!紳士で素敵です!!」


 「これ、嘘言ってる時の成川さんですよ」


 「えぇ!?そこで裏切るのぉ!?結!――あぁ、じゃもう莉緒でいいから下僕を止めて!!」


 「私の下僕が貴方に触れているのは心底不快だけれど、じゃもう、と言われては見て見ぬふりするしかないわ」


 「だってよ」


 先程まで味方だったのに、いつの間にか敵に。なんなら裏切らないようで優しいの塊と思われた久下が、真っ先に自分から裏切るとは。


 「もぉ!!ごめんなさい!私は好きな人とファーストキスしたいからぁ!!!」


 「紳士で素敵な俺は対象者じゃないのか?」


 「うっ……そ、それは……どう答えても逃げ道ない?!」


 「だな」


 「……もう……分かった!好きにすれば!別にあんたならファーストキス取られてもいい!!」


 覚悟を決めたようだ。だがその覚悟は見るからに分かりやすかった。俺が本気でしないと思ってることに賭けて、吹っ切れた様子だったのだ。


 「変態は唇にキスするんじゃなくて、顔を舐め回したりすることだと思ってたんだけど、まぁ成川のファーストキス貰えるなら貰っとくか」


 「え?……嘘嘘、冗談ですよね?ねぇ?!嘘嘘嘘嘘ぉ!」


 っと、正直どこで止めようか迷っていたが、思っていたより反応がよくて楽しかったので可能な限り楽しませてもらうことにした。


 顔を近づける仕草をほんの少しだけすると、左手を出して力加減を考えて軽くデコピンをした。


 「――痛っ!」


 「うるさい。お前とファーストキスなんてこっちが嫌だね」


 「……え、えぇ?」


 逃げようと必死だったので、ソファに吸い込まれるよう態勢が崩れていた成川。それでも綺麗な顔を保てているのは流石、顔だけはいい女、といったとこか。


 「お前じゃ力で勝てないんだから、そこ理解して喧嘩売るんだな」


 惚けたように目は合っているのに合ってない感覚。何もされなかったことに安堵しているかと思ったが……。


 「はっ!ホントは何もできなかったヘタレのくせに!」


 すぐに元気になるのは成川らしいな。


 「はいはい、そうですよー」


 これ以上刺激しなくても満足しているので、機嫌がいいことを理由に今はこれ以上はイジらないとする。


 「……ふぅ……疲れたし危なかった……」


 「自業自得ですよ。でも見てる側は楽しかったです。あんな成川さんを見れるのは、多分長坂くんと居る時だけだと思うので」


 そう言う久下は今も尚笑顔。途中声を出して笑っていたくらいなので、相当幸せだったのではないだろうか。


 「……それはそうかもね」


 「やっと終わったの?」


 これはまた珍しい。久下の背中に抱きつくようくっつき、肩の後ろから顔を見せるという仲良し態勢で俺を見る音川。久下とはそんな距離感なのかと、もしかして戯れている間に近づいたのだろうか。そこは気になるな。


 「それじゃ次は私の番ね。長坂くん、私も同じことを経験したいのだけれど」


 「なんでだよ」


 「いいですね、私もしたいです!」


 「今日1番の元気に悪いけど、これは成川が嫌がるからやったんだぞ?それを経験したいとか……普通じゃないって」


 音川の経験に応えたいし、久下の元気にも応えたい。しかし、今のは成川を懲らしめたくてしただけで、善意からイジりたいと思わない俺は多分演技すら無理だ。


 成川含め、やはり普通ではない考えを持っているんだと改めて分かった。成川が嫌がることを求める2人……疲れるなこいつら。

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