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謎の




 「――痛ぁっ!」


 「自業自得ですね」


 「そうなることを分かっていないのよ、学年2位は」


 成川には敵も味方も居ないのだろう。しかし、ここに音川と久下と一緒に居られることだけがハイテンションの理由であり、痛いと言うのに笑う理由でもある。


 「手加減!手加減ってのを知らないの?」


 「バカに分かると思うか?」


 「そんなバカとは思ってなかった!」


 「ホント、お前は元気だな」


 不気味なくらいニコニコしていて、楽しいんでいるようで何よりだ。俺は成川の性格と相性が悪く、そして相性が良い。だから本気で嫌うこともないし、特別思うこともない。だからこうして戯れることに、異性としての抵抗はない。


 なんならこの前のように頬を右手だけでイジってやるくらいの気持ちは持っているくらいだ。


 そもそも、男だから女だからって人への対応を変えることはないが。


 「それにしても、あんたって普通にここに居るけど何とも思った様子もないし、なんか変だよね」


 ちょうど俺の考えを見透かしたように、タイムリーなことを成川が言った。


 「というと?」


 「そこらの男子なら、教室居るだけで視線向けたり、話しかけるとすぐ笑顔になって話してくるし、関わっても関わらなくても私たちに良いように思われようとする。だけど、七生はなんかそういうの感じないっていうか、可愛い私たちを見ても普通に関われるのは違和感を感じるよ」


 容姿が整っている。それだけで感じる何かがあるのに、俺にはそれを感じない。可愛いに興味がないのかと聞かれているようにも解釈できた。


 「可愛いのは顔だけだからな。それに、俺は音川に仕える付き人。信念持ってんだから、今更可愛い誰かに恍惚とさせられるー、なんてことはないんだろうな」


 大前提として、俺は守る人間が居る。そして守る役目がある。それがある以上、他人の容姿や関係、性格なんて心底興味がない。自分のメリットになるなら歓迎するが、そもそも異性としての魅力からくる視線や関わりたい欲なんて、今の俺には欠如しているからないと断言できた。


 「それにしては、何よりも久下さんを気に入っているようだったけれど?」


 鋭く指摘されたそれに、どこか不満も含まれているように感じたのは勘違いとは思えない。


 「癒し枠として、だけどな。日頃ワガママの権化と嫌悪の権化と関わると、その分癒しの権化と関わりたいと思うのは普通のことだろ?それに、久下だけ特別に思ってるなら、今頃久下にくっついて離れたくないって嘆いてると思うぞ」


 「いつも貴方が私にしていることだから、容易に想像できるわね」


 「嘘つくなよ。2人が信じたら困るだろ」


 「……もう17なんでしょ?大人になりなよ……」


 「引くな」


 「長坂くんはそういう人だと思ってませんでした……」


 「久下も信じるな」


 俺には敵しかいないこの場所で、何故呼ばれたのか未だに分からないな。サンドバッグなら物理的に用意してくれたらいいのに。それとも、普通じゃ呼ばないから、こうして遠回しに素直にならないことで感謝を伝えようとしてくれているのか。どちらにせよ、俺の勝手な解釈でしか気分よくなれないのは、少し悲しい現状だ。


 「たとえそんなことを莉緒にしてたとして、いつから一緒に住んでるの?それによってはどれだけくっついてたかも分かるし」


 「全くくっついてた期間はないけど、3ヶ月前からだな」


 「急に一緒に暮らし始めたんですか?」


 「そういうことになるな。過去、何かしらで関わったとかなく急にだな」


 「へぇー、過去も不思議なんだ。謎の男って感じでカッコイイね」


 「お前から言われるとバカにされてるようにしか聞こえないな」


 「これはバカにしてませーん」


 どっちなんだか……。


 「音川さんも、長坂くんのことについては知らないことだらけなんですよね?」


 「ええ。正直知りたいけれど、それは契約違反。いつか長坂くんが話してくれたりする気にならない限り聞くことはないわ」


 守ることは守る。俺が音川の足が悪いことを冗談でもイジらないように、音川も俺の過去がよくないことだと察して聞かない。元々性格は善人なので分かっていたが、最近ワガママや冗談の連続で忘れかけていた。音川は優しいんだと。真面目なとこは真面目なのだ。


 「そんなに気になるなら全然教えるぞ?別に悲しいことは1つもないから、知りたいだけ教えるつもりだけど」


 「え?」


 音川茂からは、過去を詮索するなと言われた。つまりそれは詮索されたくない何かがあるということ。そしてそれはよくないことなのだと無意識に決めつけるのは仕方のないことだ。驚く音川の顔も納得だ。


 だから、今後俺に対して可哀想な過去を持つ人間として認識され続けるのもどうかと思うので、ここは異世界人ということを隠して話すだけ話すのもいいだろう。


 「でも……私はよくないと思うわ。悲しい過去もありそうだもの」


 「俺の家族や親戚が居ないってことを聞いたからか?」


 「ええ。そうよ」


 「えっ、そうなの?」


 「それは……悲しくないんですか?」


 各々普通とかけ離れたことに驚きを見せる。少なくともこの世界では、親が存在して育て、親戚が居ることが普通だと知っている。だが、そうでない人間も少数存在することも知っている。


 だから敢えて家族を失った設定にした。その方が、可哀想な過去を過ごした人間が、しかしこうして好きなことをして今を心の底から楽しめているという事実を、音川に植え付けることができると思ったから。


 少しでも音川の今後のために、というわけだが、きっとその必要はなかったと今は思えるが。


 「悲しいとは思わないかな。捨てられたとか親が最低な人間だからって理由で居ないんじゃないからな」


 生前の俺の親もそうだった。俺が死んでこの世界に来る時には既にこの世を去っていたが、それを理由にこれから話すとするか。

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