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テスト結果




 季節は夏へと移行した。そして6月から7月へとも移行した。それは既に1週間くらい前のこと。今は期末テストの結果が貼り出されるのを、おそらく誰よりも待っている女子生徒と共に待っていた。


 昼休みになってから貼り出されるらしく、もうすぐその時だ。残り1分もない。


 音川は普通だ。もっとソワソワするかと思っていたが、意外と勝ちを確信しているのか泰然とした様子は変化がなかった。そしてそれは成川も同じ。全部で9教科を受け、どれだけ得点を得られているのか、それは楽しみであり不安でもあるだろう。


 それでも変わらない態度は、お互い自分を殺してきたことがここで活かされているのかもしれないな。


 ちなみに答案用紙は既に手元に全てある。しかし音川と成川、そして久下と俺も何故かまだ見てはいけないという命令を下されているので、従って結果はハッキリしない。


 そんな緊張感のある中、ようやくチャイムは鳴った。既に教員によって授業中に貼られただろう場所へ向かおうと、音川は席を立った。


 「行くわよ、長坂くん」


 「うぃー」


 どこに行くかは明白。成川と久下の席だ。今も隣の席なので、仲良く談笑している2人のとこへ歩いて向かった。


 「おっ、敗北者じゃん。何?一緒に見に行きたいの?」


 ニヤニヤっとして勝ちを確信したようで、俺よりも先に音川を煽ることで気分を高めようとしたらしい。これで負けていたらどんな顔をするのか、盗撮という概念がなければ今頃カメラを起動していたのに。


 「言われてるわよ長坂くん。だから勉強しなさいと言ったのに」


 後ろを見て受け流した先で俺にぶつけてくるとは。鬼畜である。


 「無関係の俺を犠牲にするな」


 「あんたに言ってんの。その変な虫は土俵にすら立てないんだから」


 「お前もグサグサ刺してくんな」


 しかし、俺は勉強を教えてもらっても、予想では50位がいいとこだろう。2年生が300人弱なので上位ではあるが、中間テスト1位5位10位と話しをするのなら蚊帳の外だ。


 だからってこの性格の悪い女の煽りは赦さないが。


 「今回はお互いに自信はあるんですか?」


 心が潰されかけていると、笑顔で2人の自信を確認する久下が視界に入る。久下は小柄だから、近距離になるとどこか庇護欲が湧く。常に頭を撫でたりしたい感じだ。そんな久下からの問いに、2人は寸分たがわず答える。


 「あるよ」


 「あるわ」


 「それは尚のこと、結果を知ることが楽しみですね」


 よくなる関係値に、もう着地点は見えたかのように安心した瞳を向ける久下。念願の幼馴染復活は目下だ。


 「それじゃ行こうか。あんたの負けた時の顔が今からでも楽しみだよ」


 「自分の前に鏡でも見えているのね。私には勝てないからって現実逃避するなんて、情けないわ」


 そう言って先に出ていき、既に眼中にもない俺と久下は後からゆっくりと追うことに。


 「どっちが勝つと思う?」


 「分かりませんが、多分音川さんかと」


 「理由は?」


 「勝負ではなくても、音川さんは私の知る限りテストでは常に1位でした。でも、成川さんは5位や6位、7位や4位など決して1位を取れなかった。その差が、多分現れると思います」


 根拠はない。しかし、常に頂点で有り続けた存在と違う存在では、同じ条件下で勝負すると頂点で有り続けた存在が勝つ。比べるだけの情報がないからこそ、その考えが正しいと強く思えた。


 「そうか」


 「長坂くんはどう思います?」


 「俺も音川だな。あいつが学力勝負で負けるとは思わない」


 「理由を聞いてもいいですか?」


 「たった2ヶ月でも、あいつがどんな人間で負けず嫌いなのか知ったつもりだ。その上で、あいつが単純な学力で負けるとは思えない。それだけだな」


 これもまた根拠はない。でも、近くで見ていると真剣に勉強と向き合い、勝つと決めて取り組んだ姿勢は敗北を微かにでも匂わせなかった。


 口だけでなく実力が身についているんだと確信した。そしてその勉強が、長坂と勝負で勝つ為なら更にバフとして働きかけることも分かった。


 だから俺は、結果を見に行くことではなく、結果を見た2人の関係を見に行こうとしているだと、この瞬間に気づいた。


 「あっ、さてさて、私が1番前かな?」


 前でギャーギャー言い合っていたが、貼り出された100名までの順位表を見てそれを終える。しかし走って見に行こうとしない。音川の足のことを理解していて、一緒に見たいからこそのちょっとした優しさとライバル心の行動。


 流石は幼馴染だ。


 「お前たち、窓の外見ながら近づけば?その距離だと視力良ければ名前もう見えるだろ。一緒がいいなら手を引いて連れてってやるぞー」


 「そうね、たまにはいいこと言うじゃない」


 「今だけね。普段は使えないけど」


 「……使えないって言われるくらい、お前に関わってないだろ」


 「この前より優しい言い方になってるので、少しは打ち解けているんですよ」


 「そう思いたいな」


 ということで、相変わらずの辛辣に心を砕かれそうになりながらも、俺が音川、久下が成川の手を引いて順位表の上位まで連れて来た。


 「私も今回頑張りましたが、限界でしたね」


 「それでも凄すぎて顎外れそうだ」


 既に俺と久下は勝敗を知った。だから驚くんだ。音川と成川の次、3位に名前があったのは久下結なのだから。


 合計880点。


 「何、もう着いたの?」


 「はい。いつでも見ていいですよ」


 「ありがと。それじゃ莉緒、いい?せーので見るよ?」


 「ええ」


 これだけ聞くととても仲のいい友人同士なのだが、これでもまだ違うと言う素直になれない性格は、やはり難儀だろうな。


 そうしてついにその時が。


 「せーの」


 少し成川が早かったのは、それだけ先に見たい欲が強かったからか。逆に遅かった音川は、自信があったのか。その結果は反応を見れば判然とした。

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