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期末テストで




 「――勝負して、負けた方が悪いってことにするよ」


 「ええ。当然の帰結ね」


 開き直ったのは成川も。そしてもう仲良しだろと突っ込みたい欲を抑えて、その結論に至った理由を聞いてみたい俺は問う。


 「勝負?どういうことだ?」


 その疑問に、隣に座る久下は楽しそうに頬を緩ませつつ、まるで自分の事のように代わりに答える。


 「成川さんと音川さんは幼馴染であり、昔から秀才でした。そして性格も穏やかで、何より負けず嫌い。なので昔はよく暇つぶしで勝負をしていたそうなんです」


 テストの成績から察するに賢いことは知っていたが、音川(学年1位)に匹敵する頭脳の持ち主とは。どこか俺と似た遠慮ない発言とオラオラ感から、どうも優秀という概念に似合わないと勝手に決めつけていたが、どうやら俺の何倍も苦労人らしい。


 「へぇー。勝敗は?どっちが勝ち越してんの?」


 「私よ」


 「は?私でしょ」


 まぁ、そうなるよな。


 「私の記憶では、成川さんは音川さんのこと、私が勝てない努力家と言っていたと刻まれていますよ」


 「ちょっ!結!」


 久下もいい性格をしている。しかし、それに対して素直に反応して焦る成川も成川だ。もう少し平然を装うということを身につけた方がいい。きっと嘘が苦手なタイプなのだろうが。


 「これでハッキリしたわね。今のとこ、私が上よ」


 「音川も成川のこと、私より頭の回転が早くて羨ましいって言ってたな」


 「あら、それは誰と間違えているのかしら」


 「あれー?音川じゃないっけー?俺の記憶ではそうなんだけど、違ったかなー?」


 違うのではなく言っていないのだから存在しない言葉だ。しかし、驚かないで反応を見せることが分かっていたからこそ、音川が強がっていると思わせることは可能だ。


 開き直った音川のことは、今現在誰よりも俺が知っている。


 「ふんっ!あんたも私を認めてるなんてね」


 「……面倒だからそういうことにするわ。長坂くん、家に帰る楽しみが増えたわね」


 標的は増えても家で対処可能なら対処するらしい。


 「何?イチャイチャしてくれんの?」


 「絶対にイヤ。帰ったら私の家事を全てしてもらうわ。言うことも全部聞いてもらう。それくらいはいいわよね?」


 面倒が増やされるのは困るが、それで音川と関われる機会を増やせるのなら別に苦ではないか。


 「はいはい。子守唄まで付き合ってあげますよ」


 「不必要」


 しっかり断られるので、余程マシンガントークしたことを後悔しているのだろうか。昨日は呼び止めてお喋り付き合えと言っていたのにこの変わり具合。思春期の心変わりは難しい。


 そんな会話を聞いていた2人。特に久下が気になったのか、疑問があるような面持ちで何かと思うと、それに気づかれたからか聞いてくる。


 「あの、もしかして音川さんと長坂くんは、同じ家に住んでいるんですか?」


 「え?そうなの?」


 純粋な疑問に、目の前勝負でいっぱいだった成川も重ねて聞いてきた。


 「そうよ。父さんがこれを拾ってきて、ことの成り行きで下僕になりたいというこれの扱いを叶えてあげたのよ。その代わりのように、これの過去については詮索するなと言われているけれど」


 「おい」


 「そうだったんですか。ミステリアスな人ってことですね。なんだかその魅力に興味が湧きました。それにいいことも聞けました」


 「え?これ扱いと下僕になりたい願いに関して何も思わない?」


 「ふっ。お似合い過ぎて何も違和感ないんでしょ。下僕になりたいなんて、そういう趣味があんたの中で流行りなのかなぁー?」


 「よーし、お前とだけは絶対に不仲で居てやる」


 「嬉しくて涙が出るよ。私からもそれを願いたいね!」


 中指を立てて目の前に向けてくる。日頃の恨みとしても強すぎて、過去になにか悪いことをしたと思わせられるくらい迫力はある。たった1ヶ月のこの世界。既に命に手が届きそうなのは、生前より危険の少ない世界と言えるのだろうか。


 「ふふっ。もう仲良くなってるようで安心です」


 「ないね。こいつだけは私と相性悪いの分かるから、今後殴り合いに発展したら分からせてやる」


 「その時が楽しみだな。遠慮しないから、覚悟しとけよ面倒女」


 「そっちこそ、バカ男」


 語彙の強さというよりか、発言時のイントネーションの強さや言い方の強さなのだろうが、濁音を含む成川の侮辱の方が格段とダメージが大きいように感じた。


 しかし、実際俺は成川の格下の頭脳を持つ。だからバカなのは間違いなく、それを認めているのでそれ以上の反撃は俺が弱くなるので止めた。


 それにしても、こうして思ってることをズバズバ言ってくれるのは面白いな。うちに秘めない溜めない発言は、成川にとっても俺という存在は少なくとも助かる存在なのではないだろうか。


 相手が傷つかないことを、何となく感じているからこそ、きっと人を本気で嫌うことと俺に対する嫌悪は少し意味が違う気がした。成川の悪魔のような愉悦を感じた相好がそう言っていた。


 「静まったことですし、色々と脱線していたので元の線路に戻りましょう」


 「そうよ。それと、私の下僕を勝手にイジメないでくれる?」


 「言ったそばから脱線しようとするなよ」


 「そうだね。私が優秀だからっておもちゃ壊したらあんたも困るか。仕方ないからここらで赦してあげる」


 「…………」


 常に俺を下に見たい2人。冗談なのは分かっている。それに、下に居て仕えたいのは山々だが、全てに応える奴隷とだけ思ってくれるなよと、心の中で唯一の危惧を吐き出した。


 「んで?勝負ってどうするんだ?」


 昔なら追いかけっことか鉄棒、雲梯やブランコに乗って靴どこまで飛ばせるか、とかだろうか。どれもしたことないので、実際どれだけ行われているかは不明だが。


 「いいタイミングのがあるでしょ?今月下旬に」


 元に戻ってそこまで殺意を見せなくなった成川が優しく教えてくれた。今月末何があるか、学生なら避けては通れない絶対の期間。


 「なるほど、期末テストか」


 「期末テスト?それ、本気なの?」


 「何か問題?」


 「前回の中間テスト、貴方は5位よ?それにその前もずっと、学校の受けた同じテストで全て私が勝っているのよ?それなのにその提案は、少し不利にならないかしら?」


 マジで音川と久下の真ん中なのか。


 音川は正真正銘1位だ。それは即ち負けていないということ。音川の言うことは本当だろう。だからより、そんなバカな提案に、真剣勝負を挑むと思っていた音川は驚きを隠せない。


 しかしその発言を嘲笑うかのように返す。


 「それはあんたとの勝負に興味もなかったからね。でも今回はあんたと正々堂々勝負するってこうして決めた。ならそれなりに勉強するから、多分1位の名前は私に変わるでしょ」


 普通に勉強しても5位。その潜在能力は計り知れないだろう。今は高校生であり、長い期間の無知があるとはいえ、その差は簡単に埋まらない。


 けれど成川はそれを分かっているのに、何故か分かってないことがあった。それに音川も気づいた。


 「っそ。その自信はいいけれど不思議ね。何故私も貴方との勝負が決まって、本気で挑むと思わないのかが」


 そう。音川だって同じ気持ちなのだ。相手より上だと証明する機会。それを利用して幼馴染としての関係を取り戻す。その意気込みが強く強くあることに、成川は何故気づかなかったのか。


 「ふんっ、どうせそんなにでしょ。下僕と遊んで油断したあんたじゃ相手にならないよ」


 「言うわね。下僕と遊んででも勝てるのだから油断も何もないわ」


 「ふふっ、散々な言われようですね」


 「俺の味方は久下だけだ」


 「いつでも相手になりますよ」


 「どーも」


 ボロ雑巾のように扱われた後、女神が現れると心は一瞬で女神のものになる。隣の久下がこうも癒しの神に思えるとは。飴と鞭も意外と悪くないかもな。


 「これから3週間くらい、あんた必死に勉強しなさいよ?」


 「ええ。貴方に勝てるくらいに、いつもより手抜きでするわ」


 「その言葉、忘れないでよね」


 「強者の余裕だな」


 音川は1位。成川は5位。この差は明らかで、お互い手抜きの状態の順位。確かにどれだけの手抜きかは本人次第だが、それでも1位を譲らない頭脳を発揮する音川が今のとこ格上なのは勿論のこと。成川もそれを理解している。


 「なんとか穏便に済みましたね」


 「そうだな」


 こうしてなんとか穏便にしては、俺に謎にダメージが残ることとなった仲直り勝負の言い合い戦。しかし前向きに進もうとする2人を久下という女神と一緒に応援することができることになったのは、この世界に来て2つ目の幸運だと思った。


 ちなみにこの後、解散する時の奢りで成川に感謝されたのは意外だった。

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