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邂逅の時




 「はぁ……今更不満なんてないわ。貴方が居ないと私は泣き出すみたいだし」


 「他人事かよ」


 陰口でもなく、常日頃から音川には同じことを言っているので今更傷つくとかそういうことはないのだろう。自覚もあるようで、むしろそれを楽しんでるドSを感じるくらいだ。


 「色々と聞きたいことはあるけれど、まぁ、それは聞かないことにするわ」


 昨日の夜と今のデート。噛み合ったのだろう。


 「莉織……なんでここに……」


 問いかけではないことは、声の小ささから分かった。音川を見て目を細めてすぐ、それは自分の罪悪感から普通の大きなクリっとした目へと戻った。


 「すみません。音川さんを誘って帰宅していたら、偶然2人を見つけまして、いい機会と思って一緒にお邪魔しに来ました。ちなみに席は店員さんに確認済みなので、お隣にお邪魔します」


 そう言って本当に計算外のことでここに突然来たことを話す久下。見事音川を手のひらの上で操ったらしい。親しくはなれずとも、友人になる手前まで近寄れただろうか。


 「それは全然いいんだけど、気になるのはこの2人だろ。普通に気まずい雰囲気だしてるから、連れて来るのはよくなかったんじゃないか?」


 敢えてそう口に出して2人の反応を見る。音川は泰然としているが、成川は少し気まずそうに黙ったまま。


 「私は性格がよくないので、こうして無理に合わせようかなと、せっかくだし思ったんです」


 「久下に対する俺の理想がどんどん崩れていくんだけど」


 「理想は理想ですから。私はマスク美人なんですよ」


 ふふっと笑うと、何故成川と友人になれたか分かる気がした。音川を超えるSっ気を感じるのだ。お淑やかで鷹揚。しかしその仮面の下にはミステリアスな何かが隠れている。興味をそそるが、なんか怖くて手が出せない。


 「まぁとにかく、ずっと立ってるのも大変だろうし、隣空いてるから座れば?」


 そう言いながら、俺は久下の腕を優しく掴んだ。


 それはつまり、俺の隣は久下で反対は音川が座れという強制の合図。


 「では私は遠慮なく」


 拒否することも無く、久下は目の前の気まずい2人を観察する意図を込めたように笑顔で隣に座ってくれた。音川はそれを見て少し考え込むと、2秒経過して成川の隣に座った。


 しかしこの状況、よくないと思っているのは成川だけだった。音川は一度拒絶した久下と、何も聞かされずにここに来ることは考えにくい。だから予め俺たちが見えたことを伝えられて来ている。承諾したということは、これをチャンスだと捉えてるということ。素直になって元に戻るチャンスだと。


 「何か頼む?音川と久下」


 タブレットを渡そうかと、俺の隣に置いてるそれを渡す前に問うた。


 「私は家に帰って食事を済ませるので大丈夫です」


 「私は……そうね……1つ聞くわ。これは長坂くんが碧を呼んで始まった話し合い?」


 「うん、そうだな」


 「なら大丈夫よ。どうせ碧が長坂くんの奢りってことにして、それに甘えて沢山注文しているんでしょう?その1つや2つ、私が食べても構わないと思うわ」


 「は、はぁー?な、なんで私の品をあんたにあげないといけないの?」


 幼馴染というのは本当なんだと確信した。長い間、お互いは全てに於いて懸隔していた存在なのに、音川は絶対の面持ちで成川の行動を当ててみせた。


 幼い頃の関係がそれだけ強固で、記憶に残る価値の高かったことなんだろう。とても羨ましい関係だ、


 「長坂くんのお金なら、それは私のお金でもある。嫌なら貴方が食べなければいいのよ?」


 「そ、それは違うでしょ。いや、違わない?ううん、そんなことより、な、なんであんた普通に私に話しかけてきてんの?意味分かんないんだけど……」


 吹っ切れた者は強い。同じく素直じゃないことを知ってる幼馴染だから、お互い牽制しつつもどちらも吹っ切れないと心の中で信頼していた。


 しかしその信頼はいい意味で裏切られた。それを感じる成川は、たった今劣勢であり、素直になるチャンスでもあった。


 「別に。私は仕方なく話してるだけよ」


 「あぁ……」


 隣で久下が残念そうに呟いた。俺も同感だ。音川は完璧に吹っ切れたわけではなかった。まだ心の中で根付いた素直になれない気持ちが溢れ出たのだ。


 ってかよかった。もし隣が音川だったら今頃無言だったかもしれないし。それに久下っていう唯一の癒し枠が居ることで、今日の辛辣な発言が浄化される気分にもなる。


 「お待たせしました」


 そこでようやく注文の品が届く。俺はピザを頼んだだけ。少食なので全然足りる量だ。しかしカフェでも済ませようと思えば晩御飯も済ませれるとは、オシャレに気を使う人にとってはファミレスや回転寿司、バイキング形式のお店より重宝されるのだろうか。


 「ほら、やっぱり沢山頼んでるじゃない」


 サンドイッチやその他注文の品を見て、呆れたように音川は指摘した。


 「私の勝手でしょ。文句ある?」


 「ないわ。ただ、カロリーを気にしないのはどうかと思っただけよ」


 「それも私の勝手でしょ」


 「ええ。だから私はそう思ったことを口にしただけよ」


 「ふっ、負けてやんのー」


 「はぁ?」


 「って久下が言ってました」


 「えぇ?すみません成川さん」


 何故私に振る?という疑問から、そういうことにしようと受け入れるまで僅か1秒。久下は結構面白いタイプの性格をしていることを確信することができた。


 しかしまぁ、成川は睨むと怖い。俺に対する特別な嫌悪感を発しているからか、オーラだけで押し殺されそうだ。


 音川を巡った嫉妬だから、普通なら可愛いって思うだけなんだけど。


 「……わけわかんない」


 何も決めていない成川にとって、この状況の整理がつくのはまだまだ時間を要するのだろう。その間に食べ終わろう。

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