本当は?
「お前……遠慮を知らないって言われないか?」
人気過ぎて入店に10分待ち、更にその間ほとんど会話もない状態から今に至る。その上で成川は奢りということもあってサンドイッチやカフェオレやパフェなど、普通の顔して頼んだので、普通に気になって聞いた。
「あんたが初めてかな」
スマホに目線はあっても返答は真っ直ぐ返ってくる。
「だったら既に俺の事嫌いそうだな。今日初めて話したと思うんだけど」
「莉織の付き人ってだけで嫌悪感があるんだよね。それに、なんかあんた見てると無性に……ね?」
それは思う。どこか相性が悪いというか。でも、どうも態度を悪く接されても気分を悪くすることはない感覚だ。不思議である。
「人を見た目で判断するとか最低だな。やっぱりお前も顔だけ整った変人かよ」
「はぁ?何?喧嘩売ってんの?」
適当な対応に呆れた様子から、一気にスマホから目線を俺へと変えて睨んでくる。普通に怖い。
「いや、違うっす。すんません」
「はっ、しょーもな」
嘲笑と共に言われた。これを世間では生意気と言うのだろう。分かった。こいつと俺は心底相性が悪い。だったらそれを利用させてもらおう。
「おい。この際だから言わせてもらうけどな、音川のこと気にして仲直りしたいとか思ってんのに、未だに恥ずかしくて言い出せないお前の方がしょーもないからな」
「はぁぁぁ?何それ。適当言わないで」
「この国は発言の自由が認められてんだろ。それにその素直になれない面倒なとこ、ホントに音川と同じだな。面倒の相手は定員1名なんだよ。さっさと仲直りして大好きって伝えろ面倒女」
「ムカつく。知ったように言うけどね、私の何が分かるって言うの?何が過去にあったか知らないバカが、適当言わないでくれないかな」
こんな喧嘩のようなことを言い合うが、周りを見れば分かるようにとても声を抑えて言い合っている。なので迷惑にならないし、なんなら更にヒートアップしても問題はないくらい周りも騒がしい。
「じゃ教えろよ。過去に何があったんだ?そこでお前はどうして嫌いになったんだよ。俺は音川から話は聞いてる。その点で俺の判断だと、お前も中々に悪いやつだと思うくらいのことしてると思ったけどな」
「じゃ言うけど、私はずっと莉織の隣に居た。足が悪いことで悩んでてもずっと居た。なのに莉織は悩むだけで私に何もしなかった。助けてとか手伝ってとか言うこともなく、私をまるで置物のように何も相談してくれなかった。だから私には何もできなかったんだよ。したかったけど、どうしたらいいのか、当時の私の年齢じゃ分からないのも当然なんだよ」
「なるほどな」
うん。くっそめんどいな、こいつら。
つまり整理すると、音川は成川が何かしてくれないかと待ってた。そして成川は音川から要求されることを待ってた。お互いに待ってたってことだ。
昔から素直になれない原因は詰まりに詰まってたわけだ。そして成長してこんなにも大きく育っちゃってまぁ。こんな泥濘に足を突っ込んだのは初めてだ。
「悪かったな、何も知らないで色々言って」
「分かればいいんだよ」
「それで?お前の音川に対する不満は分かった。一方的に切られた関係ってことも。そうだとして、お前は自分から音川を助けようと乗り出そうともしなかった。それに関しては俺には理解できないから続けて教えてくれ」
きっと成川も既に理解しているだろう。当時にまだ助けられる選択肢――自分から何をしたらいいかを聞き出してそれに応えることができたということをとっくに分かっているから。
だから敢えてそこをついて、自白させて自覚させる。目の前の音川の付き人に対して吐露し、関係を築き直すきっかけとして逃げられない状況を作る。
素直じゃないやつは、素直になれないだけで素直になると簡単に事が進む。堰き止めていた想いがほんの少しだけ流れればいいのだ。
「音川を信頼していたとはいえ、何故お前は自分から何もせずに待つだけ待って被害者になってるのか、バカな俺に教えてくれ」
被害者になってない。音川と同じ加害者だって理解している上で問うた。それに暫く考えると言う。
「……分かってるよ……そんなのとっくに分かってるよ」
「何が?」
「私だってバカなんだよ。今もこうして、私が悪いのに莉織が悪いって微かな気持ちが勝ってるように思って気を沈めようとしてる。それを自分でも分かってる。でも……どうしても素直になれない。どうしても、見捨てたのは莉織だからって思う気持ちが消えないんだよ……」
自分は酷く傷ついた。だから悪いのは音川だ。けれど自分は音川を酷く傷つけた。だから悪いのは私だ。その気持ちが交差するから、矛盾のように答えが出ない。この罪悪感は誰のせいにすればいいのか、この傷心は誰のせいにすればいいのか、はけ口を見つけられないで今まで過ごしたことによる最大の軋轢。
ツンデレだとか冷酷、感情の起伏がない、大人しい、落ち着いている。そんな人以外にも、陽気、活発、天真爛漫といった性格はあって無数だ。そんな人たちにも、素直になれない瞬間はある。
そんな誰にだってある気持ちを、ただ思い込みすぎて敏感になっている。だから答えを見つけられない。思春期の今、懊悩から抜け出せないんだ。
「で?教えてくれたのはありがたいけど、結局どうしたいんだ?」
「……分からない。謝りたいけど……」
それで済む問題ではない領域まで来たことを自覚しているらしい。酷いことをしたと思い込む姿、音川の善意と似ていて、これまたいい子なんだろう。ちょっと怖いけど。
「まぁ、確かにあの卑屈で面倒でワガママで顔だけ可愛いイカれた主様と、今更和解とかは……」
入口に背を向けてテーブルに成川と向かい合って座っていた俺は、背もたれに寄りかかった。そこで話しながら気づいた。真横に何故かタイミングよく我が主が来ていたことに。
「好き勝手言ってくれるわね。やっぱり貴方は路地裏のネズミが大好きということかしら」
「……これは……いつも言ってることだし見逃してくれない……感じ?」
こんな中途半端な関係で追い出されるのは避けなければ。




