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成川という少女




 翌日、俺は放課後に玄関にて待ち伏せをしていた。誰を?それは音川の幼馴染であり、久下の友人である成川を、だ。


 昼休みや休み時間は音川と一緒なので、そんなに時間は確保できなかった。しかし放課後は違う。部活もしていない成川は、俺と同じく暇人。久下からバイトもしていないと聞いているのでそれは多分確定。よく一緒に帰ってるとも聞いた。


 この事を音川に伝えていて、突然会うと気まずくなりそうだからと今日は1人で帰ってもらうことにした。なので今は俺1人。成川より先に教室を出たので会うことは確実だ。


 それから欠伸とともに待つこと5分。成川は1人で玄関へやって来た。久下はこの時の為に、用事あるからという設定にして先に帰らせると言っていたので有言実行というわけだ。


 ちなみに俺の第二の連絡先交換者は久下だ。


 ローファーに履き替え、成川はカバンを持ち直すと歩き出す。雰囲気から音川よりも迫力を感じて難敵だと確信。同時にすぐそこにまで歩いて来た成川と目が合ってすぐ睨まれた。


 久下の友人……なんだよな?それで音川の幼馴染……人違いか?


 久下と真逆のような人。確実に俺を好ましくないと思った瞳は、この世界で初めてだ。転移後すぐのカツアゲ野郎たちとは違った嫌悪感。唾棄と言えるくらいだ。


 しかし怖気付いたら負け。俺に敵意を持つ理由を考えれば、音川のことがそれだけ好きなんだという解釈も可能。そういうことにして、俺は恐る恐る近寄った。ビビって一歩だけ。


 「何?」


 すると声をかける前に反応されて、俺は思わず発言に困った。時が止まる。無意識に俺は思考を初めて的確な答えを出そうとしていたのだ。


 「あぁ……成川碧(なるかわあおい)さん……ですか?」


 初対面で自分から問いかける時は敬語を使うのだろうか。生まれてから使ってこなかったが故に今ここで混乱することになるとは。勉強は大切だと身に染みるな。


 敬語面倒だな。やーめた。


 「そうだけど」


 「俺は長坂七生。これから用事ないなら、俺と近くのカフェでお話デートしないか?」


 「しない」


 「音川に関する話なんだけど、興味もないか?」


 即答して帰ろうとするのを、即答されることを分かっていた俺は音川の名を出して無理に止める。


 「莉織の話?なんであんたが私に莉織の話をするの?」


 「付き人として、色々と知る必要があるんだ。幼馴染だったことは知ってる。だけどそれ以上を知らない。だから聞こうかなって誘ったんだ」


 「あっそ。でも興味ないから、さようなら」


 「音川はお前を突き放したこと、後悔してるって言ってたぞ」


 再び足を止める魔法を放つ。久下から聞く情報から、成川も音川と似て罪悪感を持って決別している。だから音川が悪いと思っている、そして後悔していると聞けば、嫌でも自分だってそうだと思って止まるのも必然だ。


 「……何が言いたいの?」


 「さっきも言ったけど、俺はお前から音川についての話を聞きたい。これから支える付き人として、過去のことも何故性格が変わったのかも、俺は知る権利がある。だからデートに付き合ってくれと懇願してるんだ」


 「そういうことじゃない。莉織が後悔しているから何?遠回しじゃなくて分かりやすく言ってよ」


 「だから、それはデートに付き合ってくれたら教える。等価交換といこう」


 「…………」


 知りたいのはお互い様。けれど成川は悩んだ。久下以上音川未満という頭脳を持つと久下が言っていた。久下は昨年度の学年末テストで学年10位、音川は1位。上位も上位の賢さに挟まれた頭脳で、冷静に何を考えるか。俺は口が開かれるのを待った。


 「分かった。あんたの奢りで付き合ってあげる」


 「それは嬉しい答えだな」


 承諾されることは知っていた。久下も拒否することはないと言っていたので、今のは悩んで嫌々感を出すアピールだといい方向に解釈する。


 奢りに関しては俺のお金であって俺のではないので、別に気にしない。困ったらその時は道端の雑草でも食べて生きる。


 「それじゃ行くか」


 「待って。あんた莉織はどうしたの?」


 「気にしてどうするんだ?」


 「それは……あれ……いつも一緒だから気になっただけ」


 あぁ……音川だ。音川を感じる。この素直になれない反応。似すぎてもはや面白い。


 「音川は1人で帰宅だ」


 「大丈夫?今頃コケて怪我でもしてたらあんたの責任になるけど?」


 「コケると思ってるのか?俺よりもお前の方が今の音川について詳しいと思ってたんだけどな。まぁ、色々あったっぽいしやっぱ気にしてないか」


 「……別に」


 こいつすんごいツンデレだな。もう音川のこと大好きなの漏れ漏れだぞ。


 もしこれで隠しているつもりなら、さらけ出した時の俺の処遇が怖い。過保護になって俺を付き人として認めないと標的を変えてきそうだ。


 まっ、そうなったら説得するか。


 「気にしなくても、あいつは元々1人で生きれるやつだ。俺が居なくても帰れたんだから杞憂だぞ」


 それに久下が一応接触すると言っていたので、成功していると今は一緒に教室で歓談している頃だろう。だから気にしない気にしない。


 「気にしてないし、心配もしてないって」


 「へぇー、そうなんだなー」


 もう素直にならないことは見え見えなので、ツンツンした成川を見て楽しませてもらうことにする。


 そうして、俺たちは初対面なのに何故か普通に近くのカフェへと入店しに向かっていた。

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