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経緯は?




 もう言わなくても分かるように、俺の主様は話し出したら止まらない。マシンガントークを始めてしまえば止める術は皆無だ。黙って聞くしかない。そして止まるタイミングもまた分からない。だから家に帰るまで、「何故私との会話をする約束を守らなかったのか」という議題が続くと、流石に音川莉織という人間の制御方法を熟知するべきだと思わされた。


 解放されたのは部屋に戻ってから。ご飯を済ませて風呂も済ませて、俺は正直今の選択を誤っているのではないかと思うくらいには、音川のワガママ説教に辟易していた。


 「コンコン、入るぞ。ありがとう」


 音川の部屋のドアをノックして暫く待ち、自分の声でもノックしてダメと言われないし、いいとも言われないので無断で入った。


 成川との関係を聞く必要があったからお邪魔した。部屋は1ヶ月前と変わらない綺麗に整理整頓された部屋。ゴミもなくて清潔感満載の理想の部屋だ。


 大型テレビもソファもテーブルもプロジェクターも、俺の知る一般的では想像もつかない物が沢山置かれている。部屋とは思えない造りなのは笑えるものだ。


 そんな事を考えながら、ベッドに寝転んで本を読む音川を見ながらソファに向かった。


 「勝手に入ってくるなんて、いつからそんなことが貴方に許されたのかしら?」


 「本日の私の問題行動に関しましては、心の底から申し訳ないと思っております。なのでこうして貴方様の大好きな付き人が話をしてやろうと、仕方なく、仕方なく来てやった次第であります。お許しいただけなくても、もう入ってるので命令には従えません。いや、従う気もないですけど」


 「歓迎するわ。これが貴方と私の最後の時間になることだし」


 「そんな、そんな嬉しいことを言われて、私長坂七生、涙が溢れて止まりません」


 「……ホント、生意気な下僕」


 「だろ?もうお前の話は帰宅から自室に入るまで聞いたからいいだろ。次は別の話をしよう」


 本題はそこにあると、茶番をいい感じに終わらせて次に進む。長居してもプライベート空間に他人を招くことを人は余り好まないので、必要な分聞いたら帰るつもりだ。


 と言っても、既に一夜を共にした関係上、もう些細なことかもしれないが。


 「別の話?道端に咲いている一輪の花がいつ咲いたのか気になるくらい興味あるわね」


 「全然じゃねぇか」


 「はいはい。で?何かしら?」


 「適当かよ……」


 比べることは失礼だが、やはり久下は性格が良すぎる。目の前の音川が悪人に見えるくらいに。決して音川は悪人ではなく、むしろ平均的な位置より上に立つ性格の良さをしていると思う。それでも霞ませる久下は、俺の中の普通をねじ曲げそうで関わり方に気をつけないといけないかもしれない。


 「まぁいいや。話だけど、単刀直入に聞く。お前、成川ってクラスメイトと幼馴染なのか?」


 限定しない。今と捉えるか、過去の話と捉えるか。それは音川の気持ち次第。だから様子を見ようと答える基準を音川に託した。


 すると本を読むのを止めて起き上がって俺を見る。その目は成川という言葉に反応して、寂寥さえ感じさせるようだった。


 「……誰から聞いたの?本人?……いや、ないわね」


 答えはなかった。しかし、性格を知っているかのように自問自答したのは僥倖だ。それだけのことを音川は覚えているということ。完全に否定し距離感を嫌って突き放したということじゃないのだと分かればいい。


 「誰から聞いたのかは言えない」


 しかし、音川ならば久下と結びつけることは容易いだろう。一度実行しているならそれだけ記憶が思い出させるはずだ。


 「昨日お前が食堂で言った、茶髪のショートボブの人がそうなんだろ?お前が人を跳ね除け始めた頃の被害者なのは予想がつく」


 「そうよ。私が一方的に(あおい)を遠ざけたから、それに対して怒りを覚えているのよ。だから睨んでくるの」


 碧って言うのか。


 「自業自得だな」


 「そうね。でも、私が1人の時、彼女は何もしてくれなかった。だから私は次第に自分を隠すようになって、最終的に彼女までも遠ざけることになった。だから貴方の考えるように、関係悪化は私だけが一概の理由じゃないわ」


 「そうか」


 話を聞けば音川が悪かった。けれどそうじゃないんだと、成川にも理由があると聞けばお互い苦労したのは判然とする。そしてお互いがお互いを悪いと思いつつ、どこか心の中では和解したいと思っていることも、久下の証言と俺の付き人としての視点から判然とする。


 ならばくっつけることは簡単だ。しかし素直じゃないなら、それなりの苦労はある。何かお互いが分かり合えるタイミングを調べる必要がありそうだ。


 「でも、お前はいいやつだ。全部じゃなくても、9割は自分が悪いと思ってるんだろ?」


 「……否定はしないわ」


 「なら、関係を戻したいとは思わないのか?」


 「それは……ないわ。だって私を先に捨てたのは彼女の方よ?戻るとしても、私から謝罪して仲直りなんて嫌よ」


 ここにも居たか……プライドが高いやつ。


 多分この感じ、類友関係だから嫌でも成川がどう思っているのか分かる。全く同じだろうな。


 「はぁ……戻りたいって俺には言うのに、成川には言えないとか……疲れるのは苦手なんだけどな」


 「無理しなくてもいいのよ。別に今だって碧が居ないと過ごせないことはないんだから」


 「そうかもしれないけど、俺は必要だと思うぞ。多い方が楽しいこともあるし、楽しいって思うのも人の数だけ増えるからな」


 「綺麗事ね」


 「たまには綺麗事でもいいだろ。それでお互いの蟠りが解消されて、その後に京楽に耽ることができるならさ」


 喧嘩別れをした。そんな生易しいことではなく、生前は次の日仲間が襲われて死ぬことも珍しくなかった。だから後悔は大敵だった。誰かと仲良くしていたら、あいつにこのことを伝えていたら。そう思って死んだ仲間を、数えるだけだが知っている。


 だから、綺麗事でもなんでも、とにかく戻りたいと思うなら、微かなその気持ちに向き合う適当な理由を見つけることが最優先なのだ。

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