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帰宅後は




 テーマパークから帰宅したのは夜の20時前。それぞれ疲労の様子を表情で見せつつ何とか部屋の中に戻った。荷物に関しても落としたり傷つけることはなく、しっかりと役目を果たして俺もゴールだ。


 購入したのはクッキーや紅茶のティーバッグなど、この後適当に話しながら口に入れるだろう物ばかり。他は後日各々の家に配達するように頼んでいるので、現在お気に入りのライクマを机の端に置いて愛でる碧以外は手持ち無沙汰での帰宅だ。


 「やっぱり家って落ち着くよねー。何だかんだ1番好きなとこかも」


 そう言って脱力すると共に床と背中をくっつけるように怠惰になった。


 遠慮がないから思える気楽さ。自分の家のように、部屋のように寛げる空間がこの莉織の部屋なのだと、親友らしい関係値の見える発言だな。


 俺の隣に莉織。逆の隣に千隼。その正面に碧と結が床に座った。莉織の隣が碧で千隼の隣が結だ。


 「テーマパークに居る時は楽しさで忘れますが、こうして気が抜けると疲れを感じますね」


 「あれだけ俺の前で電車で寝たのに?」


 「寝たから増えた気もします」


 「私も疲れた後の電車は流石に眠気が襲うくらいだった」


 「それでもまだ眠いわ。もうベッドで寝たいと思うくらいには眠い」


 「お前たちらしく全力出し過ぎだな」


 この後のことを考えたなら、夜という眠くなる時間帯に眠気を誘う最悪の疲労という感覚を持ったことは良くないことだ。しかし、それを分かっていた、もしくは忘れるくらい幸福を得られたのならそれすらも良いことと思えるだろう。


 「七生、それ開けてー」


 「自分でしろよ」


 「今度からする」


 染み付いた下僕根性は俺の体を自然と動かしてしまう。莉織から言われたことではなく、碧から言われたことにも勝手に反応し、クッキーを開けていた。


 「ありがと」


 体を起こして一枚取って開けて食べる。ふわっきーのクッキーだが、ライクマに溺れている碧には食べられないとかいう感情も湧かなかったようだ。普通に顔から食べている。


 「美味しい。これでもう晩御飯食べなくていいや」


 「この疲れなら私もクッキーとかを食べるだけでいい。お米とか麺類とかは今日くらいは大丈夫だろう」


 「私たちは健康体ですからね。毎日健康に過ごしているご褒美もあっていいと思いますし」


 「晩御飯をクッキーにしたくらいでおかしくなる体調ならとっくに死んでるわよ」


 「……お前たちってもはや芸術だな」


 普通から逸脱した人たちだから、脂肪が平均より下なことを当たり前のように思っている。世の中には平均でも満足したり、平均以下になって漸く喜ぶ人も居るというのに、この4人は全員が平均より下の体脂肪率と体重になろうとも特別喜怒哀楽反応することは一切ない。


 強いて言うなら碧の莉織に対する勝負限定の不満だけ。それ以外で体型に関することで感情を見せたことを見たことはない。


 俺は虚弱体質故に痩躯になっただけなので、同じ立場に居ても4人に共感することもない。そもそも男と女で思うことも目指す先も大きく異なるので、比べることも無理に等しいが。


 「紅茶淹れるけど誰か飲むか?」


 クッキーも食べているなら紅茶も飲むかと、折角だからいる人分用意しようと聞いた。それに千隼と莉織が頷いて、碧と結はアップルジュースをお願いと頼んできた。それに応えてキッチンへ向かって用意を終えてまた莉織の部屋に戻った。


 「何か観る?こういう時静かなの気になるから、観なくても何か音を鳴らしてたいんだよね」


 「私は何でもいいわ。特に気になるものもないし」


 「私もです」


 「疎いから何とも言えないな」


 「おっけー。なら音楽垂れ流しでいい?最近よく聴くやつを適当に」


 「俺の意見は聞かないのかよ」


 「何言ってんの?あんたに権利なんてないから」


 「最高の扱いだな」


 真顔で本当だよ?と言わんばかりの圧。俺を対等な人間とは思ってもない目をしていた。


 それにしても、そうだろうとは思っていたが、こうも流れるように言われると扱いの悪さに何とも思わなくなる。


 というか、そもそも俺が意見を言うと思ってもないから、聞く必要もないと判断したのだろうが。


 そうして結局何も観ることにはならず、碧が適当に選んだ音楽が部屋の中で流れ始める。これ知ってる。どういう曲?興味あるな。なんて会話が起こるはずもなく、ただ流れるだけ。鼻歌すら歌わないのだから、本当に静かをかき消す音楽なんだと理解した。


 「何しますか……人狼ゲームでもします?」


 「集中砲火されそうだから俺は拒否する」


 「そうね。物理的に噛んでしまったら危ないもの。はい、ガブッ」


 「ほら、こうなる」


 左隣から左手が飛んできて俺の右半分の顔を食べるように掴んだ。それにされるがまま無防備に対応した。こういう傍から見ても俺から見ても可愛いと思えて、幼いとも思える行動を莉織がしたのは多分初めてだ。


 しかし特に言うこともないし驚くこともなく、俺たち5人はいつも通りの5人だった。見慣れた光景とでも言うのか。この可愛いワガママ社長令嬢は、それなりに初々しいと思うが。


 「なら人生ゲームはどうだ?見渡してみるとあそこにあるだろう?」


 「よく見つけたわね。2年前くらいに貰ったもので未開封よ」


 「逆に開封済みならあんたの寂しさが伝わって面白かったのに」


 友人が居ないのに人生ゲームを持っていて、更に開封済みということは1人で遊んだと思われるからそう言ったのだろう。親としたとか親戚としたとかあるだろうが、莉織の性格上有り得ないから。


 「やってみたいです。私したことないので」


 「俺も」


 「この機会に開封して遊ぼうかしら」


 「人生ゲームでも圧倒的なとこ見せようかな。ボコボコにしてあげるよ」


 「それで負けたら言い訳が大変だ。私は最下位にならないよう運を味方につけたいとだけ意気込みを言っておく」


 決して調子に乗らない千隼。負けフラグ関係なく堂々とした碧。初めてでウキウキとしたビギナーズラックを手に入れそうな結。そして眠気はどこかへ消えたような莉織。


 人生ゲームでも楽しむことは忘れないようで何よりだ。


 人生ゲームを取りに行ったのは俺で、開封してコマを持つと説明を読み終えて聡明たち故にすぐに理解して始まった。

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