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愛の告白




 それでも関わり続けられるのは、俺の極まった付き人精神が答えなんだろう。俺が何も口出ししなければ、相手は好きなように行動できる。その根付いた良くない考えが、俺をドMのように成長させた。自業自得だな。


 悪いことは今のとこないから別にいいんだけど。


 「下を見ると怖いから、上とか横を見るといいわよ」


 「それでも怖いよ」


 「ガキね。ワガママ言わないで従って景色綺麗とでも言いなさいよ。雰囲気を分からない子供じゃないんだから」


 「おっと?ここが高い所だからって私が殴らないとでも思ってるのかな?いつでも右手は拳作って、あんたのご尊顔に強烈なキスをしに行けるけどね」


 「浅いわ……ホントに浅い。私が殴られるならそれを守る下僕が存在することを忘れたの?」


 一応奴隷は流石に行き過ぎたということで、元に戻って下僕扱いになった。多少の人権は認められたらしい。


 「最強じゃないか。どんな悪口を言って怒らせようとも、七生くん相手だとどうしようもない。ストレス溜まる一方だ」


 「だから日頃の扱いが、七生くんへの鬱憤晴らしです」


 「それなら甘んじて受け入れようかな」


 それでも碧とかには反撃を受けているので、帳消しということにもならないが。


 「折角景色が見れるのに、私と七生に対しての不満を口にするなんて最低な女たちね」


 「あんたが殴らなければこうなってないから」


 「被害者面だけは得意ですからね。悲劇のヒロイン気取りなんて時代遅れな」


 特にこの3人の殴り合いはいつどこでも絶えない。誰でも殴るしどこでも殴る。景色が綺麗な外を見たくても、観覧車の中で罵詈雑言を初めとした不倶戴天祭りが開催される。雰囲気を楽しむことなんて、この関係だと不可能なんだろう。


 それは千隼も思っていたようで。


 「……どこでスイッチが入るのか、私には分からないな。やはりこうして傍観者になる方が好みだ」


 唯一の普通。時々変になるし、殴る時もあるが、3人を横に並べると普通に見える現象から俺に必要な存在だ。癒し枠でもあるし。


 「そんなお前が1番好きだ」


 「あら、浮気は死罪よ?」


 杖の持ち手を首に掛けて、微かな殺意と共に目を向けられた。


 「なら浮気させないように性格を変えるんだな」


 「お断りよ。貴方の進言なんて許されないんだから」


 「なら浮気します」


 「っそ。後で手錠と鎖を買いに行かないといけないわね」


 その2つだけで監禁というワードが頭の中にふわふわっと浮き出てくる。人を好きになることすら分からない俺には無縁とも言える浮気だが、それでも畏怖するのは元の世界の監禁のイメージが強いからかもな。


 「やっぱりしません」


 「いい判断よ」


 「躾完璧じゃん」


 「誰だってそうだろ。お前を手錠と鎖使って監禁するって言ったら逃げるのと同じだ」


 「いやいや、七生様に監禁していただけるなら喜んで監禁されますよぉ」


 「中指立てんな」


 満面の笑みで立てられた中指の威力はとても高い。結の笑顔の意味のない笑顔とは違う、明らかに分かる嫌悪の笑顔。似て非なるものだが、俺を敵視しての目としては全く同じだ。


 「そんなことしてると、もう夕陽が綺麗に見える高さに来ましたよ」


 結が外を見て言うように、見える景色の中で最もオレンジ色を放って存在感を示す大きな輝きがそこにはあった。


 「写真を撮りたいが、見事に逆光だな」


 「これは私たちの目で記憶するしかないわね」


 「簡単に思い出せそうなくらいの景色で助かる」


 初めて5人でテーマパークに行き、最後のアトラクションとして乗った観覧車から見た景色。意図して覚えなくても、この景色を忘れることはない。断言するくらいに。


 「こうして見ると落ち着くわ。疲れることもないと思うと、脱力してゆっくりしたい」


 そう言って欠伸を我慢しつつ俺の肩に寄りかかった。


 「ホント、七生が居ないとあんたって終わりよね」


 それを見て呆れるように碧が言った。


 「そうよ」


 否定しないで即答。目を閉じて眠たそうに声色も変化していた。


 「自立云々はどうしたんですか?」


 「してるわ。でも、貴方たちとこうして関わるように、七生とも関わり続けると思ってるから、その分自立のレベルがまだ低いのよ」


 俺がもし消えたとして。それが転移や死亡とは思わない。莉織の中には就職や進学で離れることくらいしかないだろうから、碧たちと同じ関係を今後も続けると思っている。それならどうしたって関わるのだから、絶対的な自立は不要と判断したのだろう。


 この世界しか知らないで、更には摩訶不思議な現象を信じないからこその低レベルの自立。


 しかしそれで良いとも思った俺だった。


 「七生も人間なんだし、絶対じゃないんだからね?自立は大事だよ」


 「それは君も言えないと思うが」


 「そう思いながら言ったよ」


 莉織には劣るが、碧もそれなりに俺に対して距離が近くて触れてくる。依存しているとは思わないが、何かに触れて心を落ち着かせるような癖があって、それを俺にも多用していることは把握済みなので、莉織のことを指摘すると自分に返ってくる。


 自覚しているだけまだ軽傷なのだろう。


 「いつかする予定でも、私はまだ七生に掴まるわ」


 「なら私も七生くんに掴まります。隣失礼しますね」


 「害虫を追い払うのは私の専売特許よ」


 「そんな冷たいこと言わずに」


 「面倒な女に囲まれる七生も大変だね」


 「ノーコメントで」


 関わる相手に面倒の差はあっても、友人なら差はない。全員が総じて面倒とは思わないのが俺だ。それを伝えても信じないだろうし、こうして関わってる時点で答えを出しているようなものなので敢えて言わない。


 「もう1番上だ」


 まだ俺との関係も3人に比べて薄く、触れることに対しての興味も然程ない千隼。俺たちの話に入ることはなく、ただ外を見て左右にゴンドラが確認できないことから頂点に来たことを教えてくれた。


 「ホントだ。でも何も特別することないから残念だよ」


 「愛の告白でもしましょうか?」


 「私は同性に興味ないから」


 観覧車を使って頂点に来たら告白なんてのも世の中では行われるらしい。一瞬のタイミングだが、吊り橋効果とか有効的に使えるのは賢いのかもしれない。


 「なら俺がしようか?」


 「じゃ、お願い」


 「冗談でも許されないことはあるから、そこは弁えているわよね?」


 端的に言って、ぶち殺すぞ、と。


 好かれるのは嬉しいが、依存から来る異常な執着は、こうして付き人として下になってから関わり始めた今、失敗したかなと思わせられる。


 莉織の穴を急に埋めた結果がこれだ。いつこれが恋愛感情になってもおかしくはないだろう。そうなった時俺は――。


 「……このゴンドラで血祭りに巻き込まれるのは嫌なんだが」


 「ふふっ。明日のニュースで有名人にはなりたくないですね」


 「だってさ。振られないで済むし、更には殺されないんだから一石二鳥だな」


 「受け入れてたら、それもまた一石二鳥じゃない?」


 「いや、その場合受け入れて1秒後に死ぬから得た物がなくなるだろ?」


 「よく分かってるじゃない」


 更に密着して執着ぶりを見せつける。これが本当だとしたら、今後も俺は大変な道のりを歩むことになるんだろう。本当に離れることができないような。


 それでも良いんだけどな。何も問題ないなら。


 「メンヘラ恐るべしだね」


 「その領域を超えてる気もしますけどね」


 「よく分からないが、君たちが楽しそうなのは分かる。私も長く付き合えば分かってくるのかな?」


 「お前は分からないで居てくれた方が好きだ」


 「これ実質愛の告白だよね?しかも二回目。浮気者だよ」


 「そうね。これは私と2人きりで話す必要があるわ」


 「何しても何言っても俺はお前からボコボコにされるのか。お手柔らかに頼む」


 たとえ景色が綺麗だとしても、ゴンドラの中は綺麗にならない。俺たちの関係は美しさでは感化できないし、感動を塗り替えることさえ不可能だ。


 俺たちらしく俺たちの思い出は色塗られるから、外的要因でそこに色を塗ることは何人も万物も許されはしない。


 だからこの空間も、外の景色から邪魔されない不似合いの荒れた空気感が漂う。俺たち特有の、莉織と碧を中心とした陽気で至高の空間だ。


 しかしそれは、終わりを迎えるのがとても早い。気づけば15分という刹那を過ぎて、乗ったゴンドラは地面へと到着してしまった。


 感動の共有。ゴンドラ内での喧騒。それぞれの辟易。愉悦の思い出。様々なことが起こった豊かな時間も過ぎ、19時前、俺たちは買い物を終えて帰路に着いた。

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