第36話 王様からの呼び出し
「リリローナ様、お迎えに参上致しました」
きらめく鎧と兜、はためく王家の紋章旗、精鋭中の精鋭王国騎士団が一斉にリーナに膝まづいている。
「騎士団副団長ガルタス、表をあげなさい。よく来てくれました。」
リーナが凛とした顔といつもと違う口調で騎士団長に礼を言う。長旅で忘れかけていたが、リーナはこの国の第三王女リリローナ姫なのだ。
『へ~さすがはリーナ、伊達に王女を名乗っていませんね』
なんかエレニアがすっごい上から目線でリーナを褒めている。しかし、本物の王女さまなんだなぁ。
なんだか、一気に現実に戻された気分だ。旅の最中のリーナはどちらかというと1人の友人って感じだが、今は一国の王女だ。僕にはわからない重圧やら責任を背負っているんだろう。
大事な友人が遠い世界に戻ってしまうような気がして、ちょっと寂しくもある。
「いやいや、何を考えてるんだ僕は、無事にリーナを安全な場所まで送り届けたんだ。これ以上ない結果だよ」
リーナは王女に戻る、僕は新たな旅に出る。それでいいじゃないか。
王女様は着替えをするらしい、騎士団には専属の侍女もついてきたようだ。ひとしきり副団長さんと話をしたあと、リーナは侍女と共に豪華な馬車に乗り込んでいった。王城に戻るのに今の旅人風な服装じゃまずいのだろう。
リーナは馬車に乗り込む際に、僕に軽く手を振ってくれた。僕も軽く手をあげてこたえた。
とたんに、騎士団のみなさんから圧のかかった目線が僕に容赦なく突き刺さる…怖い…敵じゃないのに
なんか僕がいるのも場違いな気がするし、そろそろおいとました方がいいのでは。なんて考えていると副団長さんが僕に声をかけてきた。
「マキアス殿ですね?」
彼はリーナを護衛したことへのお礼もろもろを丁寧にしてくれた。
「リリローナ姫にうかがいましたが、剣術とは別にずいぶん珍しいスキルをお持ちだそうですね。是非ともいちどお手合わせ願いたいところですが、そういうわけにもいかず誠に残念な限りです」
今はリーナの護送が最優先事項だからね、でも精鋭騎士団の副団長かぁ、とてつもなく強いんだろうな。むしろ僕の方が稽古をつけてもらうことになるだろう。
「ところで失礼ですが、そちらのご婦人は?」
副団長はエレニアに視線を向けて、僕に問いかけてきた。
『はい! わたくしエレニアと申します! マキアス様の妻です!』
「違います!! 僕の従者でメイドのエレニアです」
僕は速攻で女神の意味不明なボケを訂正する。さっきメイド設定にするって打合せなんだったの。
「え? あ? はい、なるほどマキアス殿の従者殿でしたか。いや…あまりのお美しさに、奥方様と言われても信じてしまいますな。」
ほら、副団長さん混乱するでしょ。そういうノリは王族関係の人にはしちゃダメなやつだから。
『まあ、お美しいだなんて、やはり私とマキアス様ってお似合いなのかしら?』
「マキアス殿も隅におけませんなぁ、姫さまにくわえて、このような美しいレディと3人旅とは羨ましい限りだ。おっと口が滑りすぎましたな、どうぞこの話はご内密に」
「え、ええ…」
なんか副団長も変なノリがはじまったぞ。このままだと、いつエレニアのボロがでるかわからないので、そうそうに切り上げることにする。
「それじゃ、僕らはここで…」
精鋭の王国騎士団が来たのだ、もはや僕の出る幕はない。リーナに一言掛けたかったけど、先ほどから騎士団ののみなさんが、周囲を警戒しまくって凄まじくピリピリしているし、変に僕らが絡まない方がいいと判断した。副団長ガルタスさんに一礼してその場を去ろうとすると、副団長殿が僕の行く手を阻むように前に出てきた。
「え? あの?」
「マキアス殿! 貴殿を行かすわけにはいかない!」
副団長ガルタスさんは僕に一枚の紙を差し出してきた、なんかすごく重要そうな仰々しい紙を。すごく嫌な予感がするが仕方なく渡された紙に目を通す。
「えと、マキアス・ルイガイアに告ぐ、王都セイオス王城への登城を命ずる。エセシオン王国 国王 マキシス・ロイ・エセシオン…!!!」
僕はワナワナと震える手を必死に抑えながら、副団長に聞く。
「あの、ガルタスさん? この最後にあるごついでかい印は?」
「ああ、マキアス殿。それは王印だ、国王陛下自らがお書きになられたということだ」
「へ? 陛下みずから…へぇええ…なるほど…」
――――――あかん! これ本気のやつやん! 絶対逆らえないやつやん!
やばいぞ! 陛下はブチ切れているに違いない! 何がバレたんだ!
僕はフル回転で脳みその過去検索をする。
宿屋の「顔面鼻血王族侮辱罪」、コルナ村の「王族無許可抱上罪」、いや「王族パンツ放逐罪」なんて2回ほどあるし、直近の「王族ばいーん罪」もあり得る。
陛下にしてみればリーナは大事な娘だ。そんな娘に「鼻血」だの「パンツ」だの「ばいーん」だの。そりゃブチ切れもするだろう。
「エレニア…僕はおわったよ…今までありがとう」
『え? 何の話ですかマキアス様? マキアス様! マキアス様!』
「やっぱり、さっさと去ればよかったんだ…王女ばいーん罪からは逃れられないか…土下座の練習しておけばよかった」
僕は明後日の方向を見ながら誰にも聞こえない小さな声でそう呟くのだった。




