第21話 元大賢者と子供たち
エセシオン王国の王都セイオス。王城内にて。
私はミラン。リーナ(リリローナ第三王女)様の専属侍女である。リーナ様から送られた緊急の手紙を国王陛下に届けるために陛下の部屋に急いでいた。
「早くこのお手紙を陛下にお届けしないと」
本来ならば侍女が王様に直接会いに行くなどはあり得ない話なのだが、緊急の印がある王女の封書だけは受け取った侍女が直接王様に渡すという段取りになっている。
「おや、きみはたしかリリローナの侍女だね」
私が振り向くと、1人の男性が立っていた。ナルス第二王子だ。
「父上の部屋に行くのかい? なにやら緊急事態のようだね」
「は、はい。ナルスさま、急ぎますので失礼致します」
一礼して通り過ぎようとすると、ナルス王子は私の腕をつかんで、無理やり体を引き寄せる。
「きゃっ! な、何を…」
「まだ話は終わっていない。それはリリローナからの手紙だろう。渡しなさい」
「い、いけません。決まりでは私が直接陛下にお持ちしなければ、リリローナ様からお叱りを受けてしまいます」
「ふむ、王族であれば問題あるまい。さあ、早くわたしたまえ。それともこの私が信用できないとでも?」
「い、いえ。そのようなことは…ですが…」
ナルス王子は私から強引に手紙を奪い取った。
「私が自ら届けてやろうというのだ。侍女ごときがでしゃばってはいけないよ。かわいい妹の手紙だ。すぐに父上に届けてやる安心するがいい。」
◇◇◇
「こっちじゃ! ぼうずども!」
朝っぱらから元気のいい大賢者のおじいさんが僕らに手を振っている。
「おじいさんどこに連れて行くのかしら?」
僕らは町はずれの海岸線を歩いている。おじいさんが暇なら付き合えと言われてついてきたのだ。
どのみち今日は山越えの物資を買いそろえなければならないので、もう一泊はしないといけなかった。
できれば余計な寄り道はしたくないのだが…
「ああ、あの虫メガネ…わし気に入っとんじゃがなぁ…」
とかブツブツ言い出したので、朝のみ限定で了承したのであった。
まあこんな早朝では店も開いていない。
「ほうほう、朝から別嬪さんを見れてわしゃ幸せもんじゃわい」
「もうおじいさんたら、朝から何言ってんのよ」
そんな2人の会話を聞きながら、僕はふと海の方に目を向けた。
海岸の沖合には例の怪物アイランドタートルがみえた。凄まじくデカい。まったくもって島である。こんな怪物を退治できる人間なんていないのだろう。ただ去るのを待つだけというのもよくわかる。
「ほれ、着いたぞい」
おじいさんの指さす方向には1軒の教会が建っていた。随分と年季の入った建物のようで、ところどころに補修された跡がある。
「あ~ケンジャだ! ケンジャがきたよ!」
教会の中から、小さな子供が何人か飛び出してくる。うん、元気いっぱいだ。
「おじいさん、ここは?」
「ああ、ここは孤児院じゃよ。リマンは港町として栄えておるが、反面旅の道中で子を捨てる親も多くてな」
僕も聞いたことがある、リマンは海路の中継地点の要所だ。人は多いが出入りの激しい町でもある。希望に満ちた人たちもいればそうでない人たちも多い。各領地から生活苦などで逃げてきた人もたくさんいるのだ。許されることでないが、小さな子供は両親が生き残るために捨てられることもある。
「さてと嬢ちゃんや、こっちへ来てくれるかね」
おじいさんは自分の周りで飛び跳ねる子供たちと一緒に僕らを教会の中の一室に連れて行った。
連れていかれた部屋は、病室のようだった。ベッドがいくつかおかれており、子供たちが寝ている。
「あら、ダリアルスさま。こんにちは、今日も来てくださったのですね」
部屋の中にいたシスターがおじいさんに気づいて、挨拶をしてきた。ていうかおじいさんダリアルスて名前なのか、なんかイメージと違うな…
「この子たち…」
リーナは、ベッドに寝ている子供たちをみて声を漏らした。
シスターの話によると、ここにいる子たちは満足に治療を受けることができていないらしい。その日の食事を確保するので精一杯なのが現状とのことだ。
一番良いのは回復魔法を受けることだが、そのためにはかなりの金銭が必要になってしまう。
「嬢ちゃんや。すまんがこの子たちにヒール(回復魔法)をかけてやってくれんか。宿代をサービスするでな」
「おじいさん、それは構わないけど。わたし大賢者さまを上回るヒールなんて使えないわよ」
「ああ、わしヒール使えん」
んん? 使えない??
「え? だって元大賢者でしょ…?」
僕は思わず会話に割り込んでしまった。
「ぼうず! わしを何歳じゃと思うとるんじゃ! 魔法なんぞほとんど覚えとらんわい!」
うわぁ、逆ギレした。
まあかなりの高齢だし、しょうがないか。だから僕らを連れてきたのか。
「てなわけで、嬢ちゃんや。頼めんかのう」
リーナは、静かに頷いて子供たちのもとに行き【光の加護】を発動して回復魔法ヒールを惜しみなく使い始める。彼女の性格から全ての子を治療する気だろう。
さて、ではその間、僕は何をするかというと。
外の子供たちと遊ぶことにした。鬼ごっこだ。
子供たちと走り回っていると、おじいさんが教会から出てきて子供たちにお菓子を配りはじめたので、ぼくも一休みする。
「ほれ、おぬしもどうじゃ。なかなかうまいぞ、わしのかわいい孫娘の特製クッキーじゃ」
ありがたく頂こう。パリッと、うん美味しいや。
「おじいさんは、なぜ賢者になったの?」
「わしか? わしは自分のやりたいことをしてたら勝手に大賢者になってたわい。若いころは魔法に没頭してたからのう。あとは冒険者になって、遺跡を探しまわって古代アイテム集めも楽しかったのう」
「自分のしたいことをする…」
「なんじゃ、なんか悩んどるのかぼうず?」
「うん、いやなんだか色々あって、自分が何をすべきかって考えていて…」
この旅の目的はリーナを守るためだ。しかし無事に彼女を王都に送り届けたあとは? ずっと僕の心の奥にあってモヤモヤしている感覚。う~ん、わからない。
「ふむ、何をするべきかではなく、おぬしが何をしたいかを考えたほうが楽しいぞい」
「何をしたいか…」
「まああせらずともよいわ。ぼうずはまだまだ先があるでな、ゆっくり考えてみろ。まったくあんなムチムチ超絶美人を手に入れておきながら何の悩みがあるんじゃ。贅沢なやつじゃな、ほれ治療は終わったようじゃぞ」
リーナも外に出てきて子供たちとクッキーを食べていた。僕に気づくと笑顔で手を振っている。
「さてと、じゃあ僕たちは買い出しに…」
――――――ズドン!!
その時、地震のような揺れと轟音が海岸に響き渡った。




