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第14話 マキアス、コルナ村のピンチに動く

 ゲリナを出発して2日後、王都へ進む僕らのうしろにはマーサ親子の馬車が続いていた。


『畑が増えてきましたね。マキアス様』

「ん? ああ、そうだね。エレニア」


 周りに畑が増えてきたのは村が近づいてきた証拠だ。


 僕が馭者席にて手綱を握りつつ周りをみていると、後ろの荷台から賑やかな声が聞こえてくる。

 マーサが先ほどの休憩時に僕らの馬車に乗り込んできて、リーナと荷台で会話を楽しんでいるのだ。なんでもガールズトークなるものをするとか言ってたな。


 実のところ僕は剣の鍛錬と魔物討伐などばかりしてきたので、女性との接点がほとんどなかった。

 本来は領主の息子であれば社交会デビューして、女性とのコミュニケーション能力もつけていくのだろうが、僕の父はその手のことをほとんどやらなかった。「剣の強さがものをいう、剣の強さが人生を決める」というのが口癖だった。


『マキアス様、考え事ですか?』


 スキルプレートのエレニアが静かに話しかけてきた。


「うん、そうだね。ちょっと父上のことを思い出してね」


『父上? ゲイナスでしたか? マキアス様のような超絶有能な方を追放するなんて信じられませんけどね』


「父上は剣にしか興味がないからね。でも僕を厳しく鍛えてくれた人でもあるんだ」


 剣を極めることが家訓であり領主の務め、剣で領民を守れ、有事の際には剣で王国を救え。昔からずっとそう教わって育てられてきた。


 しかし現実は非情で、剣のスキルを授からなかった僕は父上から追放された。世界が終わったような気持だった。

 正直なところもはや生きる意味もないのかと考えていたけど、リーナを助けることになって、そしてエレニアに出会って、剣以外の道を歩んでもいいような気持ちになりはじめている。


「エレニアには感謝しているんだ。追放されたスキルのおかげでリーナを救えたでしょ。そして今も大活躍してくれてるじゃないか」


『ふふ、マキアス様の才能がわたしを輝かせんてるんですよ~。だれでも使えこなせるスキルではないんですから』


「才能か…リーナを無事に王都へ送り届けたら色々な場所に行ってみたいな。剣の修行は続けるけど、それだけじゃダメな気がするんだ」


『マキアス様…』


「まあ、偉そうに言ったけど、僕もまだ明確な目標ができたわけではないんだけどね」


『ふふ、わたしはマキアス様にどこまでもついていきますよ~。それにMSEがでてきたということはおそらく…』


「え? エムエスイー? ああ、工場のときのやつか、たしか火災の原因かもとかいってた」


『いえ、なんでもないです。とにかくマキアス様はコード操作の経験をどんどん積みましょう。私がみっちりとサポートしますからね。手取り足取りイチャイチャと、むふ♡』


 サポートにイチャイチャは不要だが、でもエレニアの言う通りだ。


「そうだね、既存のコードもまだうまく使えてないからね」


【風力創成】は慣れてきたとはいえ、まだ微調整がうまくいかない。【水分創成】は最近獲得したばかりで実戦経験不足だし。【隕石創成】にいたっては破壊力が強力すぎてうかつにつかえない。剣でなくても道は険しいな。


 エレニアとそんな話をしていると、前方から馬に乗った騎士らしき男がこちらに接近してくる。


「マキアス? どうしたの? 」


 リーナが荷台から御者席に上ってきた。

 僕は騎士らしき男が接近してくることをリーナに告げる。


「ずいぶんと慌てている様子だけど、何かあったのかな? ん? あれはたしか…」


「はあ、はあ…ま、マキアス様ですか!」


「君は…たしかノルタスだね」


 肩で息をする騎士は僕の顔見知りだった。彼には昔何度か訓練場で稽古をつけたことがある。


「は、はい、マキアスさま! ま、まさかここであなたに出会えるとは…女神さまは我々を見捨ててはいなかったようだ…」


「リーナ、ノルタスに回復魔法をかけてもらえるかな」


 ノルタスはかなりの傷を負っていた。鎧もボロボロで血泥がところどころにへばりついている。


 リーナの回復魔法を受けるノルタスから端的に事の概要を確認する。


「なるほど、コルナ村にイーゴナが発生して現在も討伐隊と交戦中ということだね」


 そして、ノルタスは1人虫の包囲網をかいくぐり、領内の騎士に助けを求めるため馬を飛ばしていたということだった。


「は、はい、マキアスさま。今はラーン副隊長が討伐隊の指揮を取っております。しかしイーゴナの数が多すぎて長くはもちません」


「ラーンか、彼とはよくイーゴナ駆除に行ったからね。しかし指揮官の兄上はどうしたの?」


「い、いえ、その…指揮官のソクア様は1人帰られました…」


「へ!? 帰る? 兄上! もしかして重傷を負った?」


「い、いえピンピンしてました。理由はわかりませんが、いきなり1人で帰られました…」


 えっと、意味がわからない!?


 部隊を置いて1人で帰る?

 残されるのは見習い騎士たちだぞ?


「最低ね…」


 ノルタスに回復魔法をかけ終えたリーナが、顔を歪ませて呟いた。


 後ろの馬車にいるマーサ親子たちも話を聞いており、不安な顔をして僕を見ている。自分たちの村が虫に囲まれているのだから心配になるのも当然のことだろう。


 とその時、ブーンブーンという嫌な音が聞こえてきた。


「―――イーゴナの羽音だな、2匹か」


 ぼくはゲリナの街で新調した剣を抜き、リーナ達には馬車に隠れているよう指示を出す。


 前方から黒い塊が2つ飛んできて、真正面の地面に着地した。


「ちょ! なにあれ! 気持ち悪い!」


 リーナが荷台の布から顔をだして、嫌悪感まるだしの声をあげる。まあ王都にはこんなのいないからな。


 イーゴナは言ってみればバッタだ。あの昆虫の。ただしサイズが普通のバッタとは違い人と同じくらいの大きさがある。雑食でなんでも食べるが、とくに麦がお気に入りだ。人を食べたという話は聞かないが、食事を邪魔する奴には容赦しない。


 僕は2匹のイーゴナに向かって、剣を構えた。


 イーゴナは勢いよくジャンプして飛び込んできた。僕は素早く横移動しつつ真横からイーゴナの頭部に斬撃を打ち込んだ。

 頭部を切断されたイーゴナはしばらく痙攣したのちに動かなくなった。


「まず、1匹」


 僕は集中力を高めて、剣を握りなおす。イーゴナはバッタと同じくその発達した後ろ足で地を蹴り、前方にジャンプ突進することが得意技である。

 ただし、前方にしかジャンプできない。もっといえば真正面にしか突進できないのだ。ゆえにイーゴナと戦う際は真正面にて構えて、相手がジャンプした瞬間に側面に高速移動して頭部を切り捨てるというのが定石なのだ。

 もっとも、突進してくるでかいバッタへの恐怖心に打ち勝たなければならないのだが。


 もう1匹も同じように真横から頭部を切り落とした。


「ふう、みんなもう大丈夫だよ」


 リーナ達も馬車の荷台から出てきた、マーサが泣きそうな顔している、そしてその両親も焦りの表情が強くでいた。



「よし! とにかく村の様子を見に行こう! ノルタス、馬に乗れるかい? 今から助けを呼びに行ってももう間に合わない。僕らと一緒にきてくれ!」


「はい! すっかり回復しました! さすがマキアス様、あの化け物を瞬殺とは見事な剣技です!」


「いや、僕は慣れているだけだよ。ノルタスもすぐにできるようになるさ。それよりも村に急ごう、騎士のみんなや村が気がかりだ!」


「は、はい! 」


 心なしか、ノルタスの目に活気が戻っているような気がする。そうだ、彼も領内の立派な騎士なんだ。3等も1等もそんなことは関係ない。


 僕らは村に向かって馬車を走らせた。


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