リン、薬屋イバで仕事する 5 カイル調剤長のひとり言
後半カイル調剤長の視点
リンは、仕事の合間にバイロンなどの見習いと調剤の話をするようにしむけた。みな認定試験に向けて勉強しているからだ。
試験対策の資料をカイル調剤長から仕入れて小出しに話す。特にバイロンの苦手なところはみんなで学習する。
認定試験だからみんなで学ぶ方が効率的だと学習意欲を高める。お茶やお菓子を用意してリンも一緒に学ぶ。
さすがに貴族や薬師の息子は教育をある程度受けているだけに、要点さえわかれば、座学は十分なとこまでこれた。
調剤実地試験は、基本の傷薬や初期の回復薬を何度も作るしかない。見習い生がお金を出し合って、仕事終了後調剤訓練をおこなった。
カイル調剤長は、こんなにまじめな見習いは初めてだと喜んで、後片付けさえちゃんとすればよいと許してくれた。
知識と技術も身についてくると、担当薬師との関係も良好になっていった。
ミーナさんは勉強会は全然興味がない。皆の調剤練習の片づけなど残業してまで手伝う気がない。きれいに片づけておけばとやかく言われない。
ミーナさんから見れば見習いに上手く使われていると思っているようだ。実はその反対だが、ばれてはいけない。
私は薬屋イバのカイル、調剤長を長年やっている。
リンという調剤室の助手がはいってきた。掃除や記録などの担当だが成人前の女の子だ。そんな子に何ができる。当てにしていなかった。
読み書きや計算ができるなら、自分の事務仕事でもやってもらって自分の調剤の時間を増やせれば良いぐらいに思っていた。
仕事を始めてみればミーナなんて論外だった。下手な見習いより仕事ができる。作る商品に合わせ薬草の準備が手早い。薬草の洗浄がきれい。薬は薬草が基本だ。書類仕事など片手間ぐらいの働きだった。
薬師の中には仕事に慣れると、自分で薬草を準備しなくなる者がいる。薬草が新鮮で揃っているか、きれいに洗われているかも気にしなくなる。
必要な道具の準備や手入れもしなくなる。些細なことだがそれらが大切。
同じ薬草を使っても薬師によって、A級からD級のランクの商品になる。同じ薬草でDランクばかりでは、仕事を辞めてもらう。慈善事業ではない。薬師認定試験に受かればよいと思っている者があまりに多い。
誰もリンの特異性に気が付いていない。共に調剤すれば俺でも、Aランクの調剤薬が楽にできる。そして今は、見習い生と共に認定試験の勉強をしている。
リンは、見習い生を応援しているように見せかけている。知識欲が高いので、誰よりも合格に近い。彼女の様なものが薬師になって欲しい。
誤字脱字報告ありがとうございます