リン 薬屋イバで仕事する 4
調剤室の仕事に慣れた頃、ミーナさんに呼び出しされた。
「リンは、だいぶ仕事に慣れたみたいだけどいい気にならないでね。ハーストは、私と付き合っているから、手を出さないで」
「私は、仕事以外ハースト様とは、話などしていません。そんな余裕もありません。ミーナさんの邪魔はしません。約束します。でも、エミリーお嬢様がさっき調剤室に来てましたよ」
「えっ、なんでお嬢様が調剤室に来るのよ。ハーストもお嬢様じゃ断れないかも、ちょっと見てくるわ」
ミーナは慌てて控室から出ていった。
ミーナさんは、仕事は適当だけど、それなりにこなしている。調剤室の評判も悪くない。ただ、結婚に焦っているのがいけない。隠しきれない気持ちが言動に出ている。人の気持ちは、押されれば引きたくなるのが恋心?誰か言っていた。しばらく、ハーストとエミリーとミーナの三角関係で揉めていてほしい。
リンが仕事に慣れた頃、見習い生の一人パイロンと話すことが増えた。パイロンは、ローストの息子。もうすぐ薬師試験を受ける見習い生。合格後は、ローストのいる薬種商会に勤める。
事務仕事をしているときに個々の従業員の履歴書を確認しておいた。
ローストは、薬種商会を経営している。自分では薬師の資格を取らず経営に専念している元からいた薬師が、ローストの経営に異をとなえ辞めてしまう。自分の所で薬を作れない。名ばかりの薬種商会である。小さい薬屋から安い金で薬を脅し買いして、高値で売りさばいている。パイロンは、親に言われて、いやいや薬師の資格を取ることにしたようだ。
縁とは不思議なものだ。生きていくため、食べるために夢中になって働いてきた。ゴンばーを懐かしむことはあっても、ローストと関わるなど考えていなかった。
ゴンばーと一緒にいる時に、「リンは物覚えが良い。幼子のようでない。余りに辛いことがあったせいで、子供の心を置き忘れてきたのかもしれない。世間では可愛げないと言われるだろうから、気を付けるんだよ」と言われた。
ゴンばーの家で目覚めた時、体は、動かなかったけど思考は出来た。自分が誰だかわからなくても ゴンばーは、良い人だとわかった。貧しい暮らしも苦にならなかった。ある意味、当たり前の生活のように思えた。リンは目覚めた時から体は子供でも、思考は大人だった。だからこそ、思い出した記憶の中の人達がリンに関係あるようには思えない。
ゴンばーは、自分の死後のリンの行末を気にかけてくれていた。お金を残して、薬屋で働けるようにしてくれた。記憶を思い出さなくても生きていける。ゴンばーとの思い出だけでも、あるだけで幸せだと思う。
それでも、リンでない、リンの中の何かが記憶を探している。いつの間にか、ローストにつながる方法を探していた。孤児としてのリンの幸せがゴンばーとの生活なら、もう一人の女の子の幸せを探すためにローストを探るしかない。そして、ローストにつながる方法がすぐ側にある。
やるなら慎重に進めなければならない。そのためにもパイロンを大いに利用させてもらおう。まずは、薬師認定試験に受からせなければならない。
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