リン 薬屋イバで働く 2
後半仕事仲間のアン視点
勤める薬屋でリンは、空いた時間に事務室に置いてある本を読むようになった。薬草の図鑑からは、種類や植生、取り扱いの注意。薬の本からは、薬の名称や使われてる薬草、使用方法、注意点など知らないことが多い。本を読むのが楽しくなった。事務所にも薬の調合の簡単な本も置いてある。来店したお客様に簡単な説明ができるように置いてある。
基本調合についての説明は、薬師が行う。ゴンばーの調合は、近くで取れる薬草を使った。足りないものは、他のもので代用していた。
それでも、大まかにはあっていた。ゴンばーは知識があっての代用だった。
ゴンばーは立派な薬師だ。
読み書き計算ができて、薬師の資格を持っていたゴンばーは、どうして街で仕事をしなかったのだろう。ゴンばーは自分の事は全然話してくれなかった。
店主イバさんは、知っているようだが話してはくれない。リンも無理には聞かない。訳ありな人間が裏町には多い。詮索もしない。それが人付き合いの基本だった。
仕事ができるようには見せない。出る釘は打たれる。同性に嫌われれば、いずれ仕事を失う。女は、恐ろしいのだ。妬み嫉みは、買わないことが肝心だ。男に媚びても一時のこと。
都合の良い女として扱われるだけだ。きれいな女、小金を持っている女、仕事ができる女になればなおさら男が寄ってくる。それも禄でもない男ばかりだ。金を、体を利用しようとする者ばかり。
身寄りのない孤児などゴミ屑以下だ。もっと力をつけないといけない。
「君、うちの薬屋で働かないか?」取引きのある他の薬屋の人から声をかけられる。
「いいえ、身寄りのない私を雇ってくれた、このお店に感謝しています」
「もう十分お返ししたんじゃないかい。うちの旦那さんが、君の事良くしてくれるよ」
妾か愛人か・・・こんな子供に声かけるなんてなに考えているんだ。
「ありがとうございます。勿体ないお話ですけど、私にはまだ13歳で子供なので・・・」
「リンちゃん、お店の方で呼んでるよ」
同僚のアンが声を掛けてくれた。
「呼ばれましたので失礼します。アンさん、ありがとう。今行きます」
はっきり言葉にしないで断る。相手に不満を持たせぬように。
「アン、さっきは、ありがとう。あそこの薬屋の旦那さん、お妾さん探してるみたい。奥さん亡くなってから独り身だから寂しいのかな?リンには良くわからない」
「リンは、可愛いから。孫みたいに可愛がりたかったのかな」
アンは言った。
女が一人で生きていくことが難しいのは、裏も表も一緒だ。結婚するか、娼婦になるか、修道女になるか、選択肢は多くない。
身寄りがない、仕事がない女性が良いとこの愛人、お妾、二号さんを希望するのも仕方ないのだ。
本妻を追いだして正妻にと欲を出す人もいる。上手くいくことは少ない。大方、別邸に住んでお世話になる。アンは、どちらかというと後方だ。
彼女は、親を早くに亡くし弟達を養ってきていた。やっと弟達が独り立ちして、自分の幸せをと思ったら、結婚適齢期を過ぎてしまった。
リンが下働きの頃、助けてくれたのがアンだった。アンには、幸せになってもらいたい。 アンの身支度を整え、服は、少し明るめに。男に媚びを売らず、おしゃべりを少なくさせる。
簡単な読み書きを教えて、書類係につけるようにした。同業者のお茶出しを率先してアンに譲る。
おっとりとしているが仕事ができる。気が利くアンは無事別邸の人になれた。
アンは薬屋で下働きをして、家族を支えている。弟より小さい女の子が、お店の事務室にやってきた。口数少なく、部屋の隅で黙々と書類書きしている。
お昼に一緒になっても、ほとんど話さない変わった子供だと思っていた。
しばらくして、薬草の図鑑を眺めている。図鑑なんかわかるのかと声をかけてみた。
「薬草は面白い。ここでの仕事にも役に立つ」
少し笑顔で返事をした。あっ喋れるんだ!と思った。そのうちぽつぽつ話すようになった。
お茶の入れ方や、接客の仕方、取引先の特徴やお茶、お菓子の好みなんて教えたら少し懐いてくれたみたい。
私には両親がいない。弟2人をどうにか独り立ちさせるまでと頑張って働いた。一度は身を売るしかないかと思ったが!それでは弟たちの肩身が狭い。弟を孤児院に預けないとならない。
悩んだ末、駄目で元々と女中奉公に出た。店主さんが、読み書きできるなら、
お店の方で働く方が給金が良い。自宅から勤めに出て良いと言ってくれた。本当に助かった。
勤めて5年弟達は無事に飯屋、鍛冶屋の見習いに入ることになった。3人で暮らした小さな貸家がガランとして寂しかった。
そんなとき、リンからうちと取引のある薬屋の旦那様のお世話の話を教えてくれた。このまま一生ここでは働けないのは分かっていた。
少しは見てくれはいいと思っているが男運がない。言い寄る男に騙されそうになった。それ以来若い男は好きに慣れない。
リンの言うとおりに服装や髪型変えて、化粧を薄くした。お得意さんの接客をしたら リンの話していた旦那さんと縁ができた。しっかり小金をためて、落ち着いた生活ができることになった
リンは不思議な人だ。体は小さいのに話すと大人と話しているみたいだ。ともかく不思議な子。でも感謝している。
『欲を出さず小金をためる』リンの格言らしい。
誤字脱字報告ありがとうございます