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透明の板

「迷惑かけました。安全対策用の魔道具の誤作動でした。もう部屋に戻って頂いて大丈夫です」


 調剤棟の食堂に避難して3時間ほどたって、リッツさんからの報告があった。先ほどまでシャルルの声しかしなかった食堂が一斉に騒めいた。研究時間を三時間も無駄にしたことへの苛立ちが主だった。どれだけ仕事漬けかと感心してしまう。リンは三時間何だかんだとリンに話しかけるシャルルには閉口した。


「リンさん、夕飯一緒に食べませんか?ここの夕飯のコース料理も美味しいですよ」

「いえ、わたしはいいわ」


「夕飯食べないのですか?体に悪いですよ」

「自分で作って食べるから」


「わぁ、手作りですか?わたしも食べたいなー。ご一緒できません?」


 よくも三時間も話した上にさらに付きまとう気満々の様子にリンは閉口した。それでなくても他人が部屋に入ったのに誤作動だと、いい加減な発表にリンは頭にきている。


「シャルルさん、今日初めてお話したのに部屋に押し掛けるのは、失礼ではないですか?」

「えー、こんなに仲良くなったのに、シャルル涙が出ちゃう」


 勝手に泣いてくれ。


「わたしは仲良くなったつもりはありません。人の噂も悪口も仕事の愚痴もすべて、共感するものはなかったです。それにどんなに親しくても部屋には招きません。研究中の書類や試作品などが置いてあります。常識ですよね」


「うっ、」

「シャルルさん、隠していますが貴族ですよね。夕飯のコース料理は貴族限定ですよ。いつも早く私が部屋に戻るから知らないと思ったのかもしれませんね」


 

 シャルルを食堂において急いで部屋に入る。部屋の中には先ほどの匂いはしない。奥の工房に入る前に部屋の中を見て回った。父の作った魔道具が他にもあるかもしれない。食器棚に本棚、置物裏に鍋の中、いかにも掃除しているふりしてあちこち見て回る。次に工房の中も見て回るが特に見知らぬものはなかった。


 棚に隠した魔道具をお風呂場に持っていき再生する。この魔道具の素晴らしいところは動いたものを追いかけて画像を残す機能が付いている。何もなければ、リンが戸を閉め工房を出た時で止まっているはずだった。


 画像は戸を閉めて、工房を出るリンの後姿で一旦停止したのち、エスぺラン侯爵家の大奥様が映り込んでいた。何度も何度も錬金窯に魔力を込めているようだ。手に何か持っているようだが細かいことは分からない。魔道具を隠すために網布をのせたせいだ。慌てたから失敗してしまった。


 リンの研究のメモ紙など動かしていない。ただ錬金窯を触っているだけだった。しばらくして、大奥様は工房を出て行った。大奥様の後姿が消えた時点で画像は止まった。


 大奥様は何がしたかったのか分からない。最初の面談の時錬金窯を取り上げればよかったのに、今更調べに来るなど意味が分からない。リンは風呂場から工房に戻り魔法カバンから透明の板を取り出した。光に当てたり斜めにしても透明の板は透明のままだった。リンの魔力を流してもそれは変わらなかった。分からないものは分からない。


 気分転換に夕飯に美味しいパンでも作ろうかと透明の板をひょいと錬金窯の奥に置こうとしたとき透明の板に文字が浮き上がった。


【変換せよ】


 リンは慌てて透明の板を目の前に戻した。透明の文字は消えてしまった。透明な板をゆっくり錬金窯に近づけた。それでは文字は浮かばない。さらに錬金窯の真上に持ってきたら、【変換せよ】と文字が浮き上がった。文字の上を撫でるとまるで本のように新しい頁が開き記号が現れた。


〇▽□、○○▽△▽□。・・・・〇○○■◇、▽△■◇□▲・・・


 何か文章が書かれているようだが、リンには全然分からなかった。指を動かして次の頁に移ると【変換せよ】と大きく書かれている。変換するとは何を変換するのか分からない。次の頁も記号だらけで読めない。今夜は諦めて、リンはパンをつくって、夕飯を食べることにした。シャルルの長い話で疲れたのかもしれない。

 

「エスぺラン家には秘密があるの知ってる?」

「跡取りの長男はどうしていなくなったか知ってる?」

「跡取りの長男には子供がいる?」

「リンさんの調剤技術は誰から教わったの?」

「リンさんのご両親今どこに?」

「リンさんは特別なレシピ帳なんて持っていない?」


 三時間の間に所々挟むエスぺラン侯爵家の話題。リンが不機嫌になれば直ぐに話題を変える。リンが空返事をしていると、そこにエスぺラン家の話題が入る。シャルルも大奥様も何かを探っていることだけは分かった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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