ジュリア・レーガン 1
わたしはの母は、レーガン家の伯爵夫人。母にとってエスぺラン侯爵家の当主の姉という立ち位置はとても大切なものらしい。その娘のジュリア・レーガン20歳、母に似た金髪に近い髪にふくよかな女性らしい体型。とっくに格上の貴族に嫁いでいるはずだった。
母は、レーガン伯爵家に嫁に来たが、本当は自分が本家を継ぐつもりでいた。本家のエスぺラン家にはもともと優秀な長男の跡取りがいた。理由が分からないが、突然他家に婿に出てしまった。詳しいことは兄妹でも知らされていない。弟の叔父が急遽薬師の資格もなく家を継いだ。
古くから薬種商会を営んできたエスぺラン家が薬師資格がない跡取りなど前代未聞の出来事だった。本家の大奥様、ジュリアのお祖母様が、仕切っていると言っていいかもしれない。伯父さまは、経営学を学んでいたので、そちらを主に担っているらしい。
従妹のベルの母は、わたしの母の妹。幼いころから姉妹仲が良かったので、良く行き来していた。貴族学院に入るころベルが薬師を目指すと聞いた母は、わたしにも薬師になれと言い出した。それまでは、高位貴族に見初められるようにと教養に、淑女教育に力を入れていた。家の跡取りに兄がいるので私はいずれ嫁に出るとは思っていたが、薬師になれと言われ驚いてしまった。
母の話では、エスぺラン侯爵家の次代に薬師がいないから、ジュリアかベルのどちらかが薬師になれば、お祖母様に認められ、次代の侯爵になれると言い出した。現当主の子供はまだ幼い。先に何があるか分からないからと、母の勢いが止まらない。そんなころから、ベルとの付き合いが薄れた。ともに薬師の資格を取って、親というかお祖母様の七光りで商会に勤め始めた。
ベルも私も薬草など草に過ぎないと口には出さないが思っている。資格を取るのもお抱え薬師のもとでの修行。忖度ありの修行。いつも誰かが準備して、見ている前で数回薬草を触れば後は残りを他の人がやってくれる。一通りの仕事を身に着け、最低限の資格を二人は取った。それなのにお祖母様が商会の調剤室に採用してくれたのには驚いた。母は勘違いして、わたしがベルより優秀だと思っている。
ベルの仕事を見ても大したことはない。二人ともあと一年で、特級薬師の試験を受ける。これは決まりで、この試験の結果で、配属が変わる。仕事を辞めることも考えられる。さらに毎年実地試験がある。今年は特待で免除されただけで、来年はそれも受けなければならない。忖度はない。ここで、新商品を出して、売れ行きが良ければ優遇処置で試験が免除される。
ジュリアはベルほど華がない。自分をよく知っている。ベルは仕事より腕の良いものを婿に迎えることに方向転換した。此処には優秀な薬師がそろっている。ただ薬師の仕事にこだわりが強すぎてとても結婚したい対象ではない。良くてリッツさんだろうけど彼のことは良く分からない。よく気が付きあちこち手を差し伸べ、気遣いが出来るところを見ると高位貴族ではない。
ベルのあざとらしい振る舞いも浅ましく見えて、ジュリアは付いていけない。二人とも20歳。貴族なら結婚して、子供がいても良い年齢。それなのに学院卒業後最短で、薬師の資格を取り仕事に就いた。母の勢いに押され父は諦め顔だった。父は手に職があるから大丈夫だろうと言い出した。一生あくせく働くなどしたくない。
「この間の軟膏すごくよかった。香りが強くないから仕事にも支障がないの。ここで売っている?」
「いいえ、私の手造り。良かったら譲りましょうか?」
「いいえ、買いたいです。実家の母にも上げたいので」
そんな話声が聞こえた。新商品さえあれば、ジュリアは安泰。リンという小娘などすぐいなくなる。それなら私が上手く利用してあげようと考えた。これが貴族らしい振る舞いとジュリアは思った。
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