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リン、嫌がらせにあう

 リンは薬師殺しの部屋で、順調に薬をランクSで作り上げていた。リンにとってこの部屋の道具は本当に使いやすい。薬師殺しと言われるゆえんが分からない。規定薬はほぼ昼前には作り終える。あとは自分の研究や新規商品の作成に時間を使える。


 ここの職場の人は、ほとんどが個人で仕事をするので、食事の時に話さなければ一日、誰とも話さない。自分の作る薬にこだわりが強く、それに費やす時間は惜しみなく使う人が多い。リッツさんのように周りを見て声を掛けたり、手伝うことをしているのは調剤長ぐらいだ。


 調剤長は、とても忙しい。リンたちは調剤という限られた仕事をしている。調剤長はこの大きな調剤棟のすべてを管轄していた。調剤に必要な材料から出来上がった薬の手配。個人依頼の手続きに依頼者との面談と受注など多岐にわたる。リンの迎えや調剤棟の案内が特別だと最近知った。数人の風当たりが強いのはこのせいだ。


「リンさん、今日の分終りましたね。薬草箱片付けましょうか」

「いいえ、その中の薬草は使っていません。そのまま返納します」


「えっ、薬草は?」

「まだ自前の物あるので、配達された薬草は使えません。箱を開けてみてください」


「なんだこれは!いつから」

「初日リッツさんが確認してくれた後からです」


「君は魔法カバンを持っているのか」

「ええ、父が残してくれましたから。それでも、底を尽きそうなので、薬草をどうするか考えているとこです」


「言ってくれ。こんなことは今までなかったと思うが、、、」

「平民の薬師などこんなもんではないですか?」


「あまり平民が来ることがないから、気が付かなかった。申し訳ない」

「大丈夫です。これくらいのこと、何処でもあります。出る杭は打たれる。ですから。ランクAにしとけば良かったかもしれません。でも私は、学びに来ていますから」


「リンさん、もう少し僕を頼ってください。薬草の件はこちらで確認します。他に何かありませんか?食事は?」


 リンは、リッツが言うように片意地をはっているのかもしれない。敵ばかりの中にいるとリンは思っている。薬師殺しの部屋に押し入ろうとした形跡があったこともリッツに伝えた。


 リッツは真剣な顔で、すぐに対処するが、身の回りに気を付けて欲しいと言いながら、薬草の入った箱を持って部屋を出て行った。真面目な顔で出て行くリッツの後姿を見ながら、この人の優しさも、風当たりの悪い原因だろうとリンは思った。


 リッツさんは、仕事が出来る。知識も豊か。人当たりも良い。次期調剤長と噂されてると聞いた。その上、独身と来ている。女性の目が行くわけで、そこに平民の薬師が顔を出したら、気分を害するということだ。なるたけ避けようと思っていても、リッツさんは指導係だから、何かとリンを気にかけてくれる。人の多い職場で働いたことのないリンには、人あしらいなど上手くできない。


 最高の技術をもった薬屋でも、高貴な身分を持った薬師でも、街の薬屋のいざこざと大して変わらない。リンは力が抜けた。

 身分が高いのはあくまで、親のお陰、今は同じ仕事をする同僚に過ぎない。何処にも勘違い人間はいる。パイロンの様な人を多く見てきた。そして、どこにでもいる。


 リンは、今日の分の仕事がおわったので、寮の工房に向かった。部屋の前に厨房のアリスが立っていた。いつも明るいアリスが少し困り顔をしている。


「アリスさんどうしたの?」


 アリスは口元に指を立て、部屋を指さした。魔力登録してあるので、勝手には入れない。アリスは、寮の食堂で働くリンより少し年上の調理補助。


 リンが朝食の時に、お昼の分のパンを持っていくのに気づき、昼用のサンドイッチをつくって手渡してくれた。リンの数少ない話し相手。アリスを部屋に招き入れる。


「わあー、凄い。薬師様はやっぱり凄いんだね。それなのに昼食自前で準備するの?」

「色々あるのよ。わたしは平民だからね」


「やっぱり、実は私がリンさんと食堂で、話すからと色々聞かれるんだけど何も知らないと言ったの。そしたら、部屋に入って、レシピ帳を盗んで来いと言われたの」



「アリスさんが勝手に個室の部屋に入れないでしょ」

「そうなんだけど、ここの個室の掃除を、有料で数人引き受けているの。一応許可貰っているから心配しないで。男の人はずぼらだか、掃除なんてしないから」


「そうか、ここに入る人は家から離れてるし、小間使いなど入れないからか」

「そうなの。でもね、わたしここ辞めさせられると困るんです。親に子供見てもらって、働いているので。夫がいないから、わたしが働くしかない」


 アリスは、他の街で結婚したけど夫を事故で亡くし、実家に戻ってきた。年老いた親に幼子を託して、屋台骨として働いている。逞しいお母ちゃんといった感じの人。声が大きいが人当たりが柔らかで、リンのこともすぐに気が付いてくれた。気が置けないひと。


 アリスの話では、ジュリア・レーガンが解雇をちらつかせリンの部屋からレシピを盗めと脅迫した。それは、リンが調剤長に優遇されるほど腕がいいと勘違いしたようだ。規定薬を順調に作っているから余計思い込んだ。自室の工房で、新しい商品を作っているならそれを自分の手柄にしたいと考えての行為。


 そこで、アリスとリンと話し合った。アリスは、掃除で部屋には入れなかったが、お茶に誘われ部屋に入ったが、工房には入れなかった。化粧品を貰ったので、これで、許してほしいと申し出る。


 リンが自分で、掃除や洗濯しているとは思っていなかったんだろう。バイロンの所で使っていた魔道具をしっかり貰ってきていた。リン一人が使う魔力など大した量ではない。リンが直接魔力を込めるから魔石を買う必要もない。お嬢様のジュリアには、便利な家事魔道具など知らない。


 以前作った爪に色を付ける液と唇の潤いを保つ軟膏と、髪の艶が出る洗髪液、どれも魔力を使わず作れるもの。詳細鑑定すれば材料は分かる。作り方もそれほど特殊ではない。ただ容器に特殊加工をしているので、いまは、それぞれにリンの魔力をわずかに帯びそのため錬金窯で作ったと勘違いするはず。最初から魔力を込めたら同じものはできない。


 アリスには詳しいことを言わず、三種類を二組わたし、一つは、自分で使って、意見が欲しいと伝えた。アリスに責が及ばないのが一番だ。追加で何か言われたらまた知らせて欲しいとお願いした。耐えてばかりでは、いけない。 火の粉は自分から篩い落とすと決めた。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手にわざと偽の情報を流して失脚とか破滅させるほうが早いかもしれないですな。
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