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薬師殺しの部屋  2

 リンは既定の調剤をすべて、ランクSを出しリッツの試験に合格した。自分専用の調剤室を手に入れた。まずはここで働ける。強気でリッツに対したが、本当は不安で仕方なかった。祖母かと思った人は違うようだ。フリッツさんの期待には応えられなかった。せめてこの環境で自分の技術を磨いて辞めようと思った。


 リンはリッツと昼食のため調剤室の奥の食堂に向かった。時間的に早いので、食堂の利用者は少なかった。食堂の入り口に魔道具の手洗い器が置いてある。手をかざすだけで手をきれいにしてくれる。色々な薬草を取り扱って、薬を作る。毒草さえ使うことがある。手洗いは基本。


 首にかけたカードを光の機械に乗せる。昼食を取らずに仕事していないか確認するんだと、リッツさんが笑って教えてくれた。本当だろうか?一応食費は無料のはずだ。


 白いトレーを持ち、カトラリーのセットを受け取る。目の前に皿に盛られた料理が幾つもあり自分の食べたいものをトレーに乗せていく。スープは3種類、パンも3種類ある。リッツさんは、肉、肉、肉、肉入りスープにパンを選んだ。胸焼けしそうだ。


 リンは野菜炒めと野菜スープに小ぶりのパン、カットフルーツをお盆に乗せた。リッツさんはすたすたと左側のテーブルにトレーを置いてリンを手招いた。


「通路の左側は自由食。今みたいに自分で選んで、トレーに乗せて、ここで食べる。あっ、飲み物忘れた。パンの奥に子樽が並んでいるよね。棚の下に冷えたコップがあるから果実水、ワイン、エール、水、どれでも好きに持ってきていいよ。俺はワインにするけどリンさんは?」


「私が取りに行きます」

「今日は、大サービス」

「では、果実水をお願いします」


 リッツさんは手を振りながら、飲み物を取りに出かけた。椅子に座って、周りを眺める。自由食の席は一人席の人が多いい。本を読んだり書類を読んだりと仕事の延長のついでに昼食を食べる。

 

「お待たせ、果実水。自由食は昼食を楽しむ人は少ないだろ。通路の右側は、朝申し込むとランチとコースを出してくれる。追加料金は給料から天引きだから現金はいらない。お客や高位貴族なんかはほとんどコースだな。個室が予約できるから食事がし易いんだって」


「お高いのですか」

「まあそれなりに。一度行ってみる?」

「いいえ、いいです。一生利用することはないです。自由食で十分。今まで自分で作っていたので、誰かに作ってもらう食事は久しぶりです」


「リンさんは、料理できるんですか?」

「平民ですからできますよ。錬金窯でお菓子やパンなんて作っていました」


「錬金窯でお菓子?」

「ええ、ここに来る前にお世話になった薬師のご主人が、健康の補助食品の研究していました。ここにも短期間働いていたようです」


「ほー、なかなか面白い研究だね。また話を聞かせてください」

「調剤長のフリッツさんの知り合いのようです。わたしは直接知らないので、調剤長さんに聞いた方が分かるかもしれません」


 リッツさんは何でも興味を持つ人のようで、気になるとすぐに質問してくる。それに付随して色々教えてくれるのはありがたいが、リンには答えられないことが多い。


 入口から人が入って。真っ赤なドレスと紫のドレスの女性二人づれ。入ってくるだけでざわめきがした。。食事をしているリンのテーブル前にかつかつとヒールの靴音が止まる。


「リッツさんは、自由食なの?あら、新人さん?リッツさんも大変ね。いい加減損な役回りおやめになったら。自分の研究時間が減ってしまうわ」


「まして平民など何の利がないじゃない。あら、ごめんなさい。珍しくフリッツさんが連れてきたのが平民なんて、見る目がないんじゃない?貴女も、無理しないほうが良いわよ。フフフ、もう少しまともな服はないの?ここはエスぺラン侯爵家の商会なのに」


「ベルもジュリもとても淑女じゃないね。ここは職場、社交場じゃないんだ。仕事が出来れば他は関係ない。リンさんに失礼だ」


「あら、リッツも考えたら?ベルも私もエスぺラン候爵家の実孫なの!由緒正しい血筋なの。リッツ、腕はいいのにもう少し考えて行動したら」


 大輪の二人は来た時と同じように靴音を立てて去っていった。リンなど口を利くことさえ疎ましそうだった。何もしていないのに嫌われる。先が思いやられる。薬師殺しの部屋から出ないに越したことはない。昼食など寮の朝食から見繕えばあとは自分でどうにかなる。


「ごめん。驚いたよね。あの二人はここの経営にかかわってるエスぺラン侯爵家の血筋だけど外孫なんだ。次期当主は畑違いだからここを継ぐのは自分たちだと思っている。そんなの分からないのに」


「二人ともここで務めているんだから薬師ですよね」

「まあね、二人は薬師資格はもってるけど、ここだけの話、腕は今一つなんだ。だから腕の立つ婿が欲しいわけ」


「仕事以外で煩わしいことは避けたいです」

「騒いでいるのはあの二人だけ、気にしなければいい」


 初日から絡まれたのはリッツさんのせい。リッツさんは気が付いていないのか、気が付いてほっているのか。二人からは有力な婿候補に挙がっているようだ。これ以上リッツさんと関わらないほうが良いようだ。仕事以外で煩わしいのはほんとにごめんしたい。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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