薬師殺しの部屋 1
リンは順調に薬を作成した。リッツの鑑定でもすべてランク S だった。驚きを隠せないリッツ。
「リンは凄いね。この部屋では今まで、ランク S の製品が作られたことがないんだ」
「どういうこと?」
「ここで働いている薬師はそれなりに仕事が出来ると自負している。それは仕方ないよね。それなりに努力しているから。そんな者が得意の調剤をしてもここでは、ランク S の評価を得ることができないんだ。理由は分からない。この部屋は20年以上前に天才薬師が使っていた部屋らしい。その人の呪いじゃないかと言われている・・・冗談だよ今どき呪いなんてありえないけど」
「20年前からこの部屋を使った人はいないのですか」
「何人もいたけど、なんか上手く出来なくて部屋を変えた。部屋を変えれば問題なく調剤が出来た。だから『呪いの部屋』なんて言われてるんだ」
「20年前の薬師の名前は?」
「詳しいことは分からない。ただ実力試しにここで調剤をして、打ちのめされる訳。出過ぎた鼻を折られる。それなのに君は簡単にランク S を出した。どういうことだ」
「ここにある薬草から器材に至るまですべて最高の物だからじゃないですか?」
「えっ、この部屋の物は全部20年前から変えてない。最新ではないよ」
「変えてないんだ。最新がすべていいとは思わないけど、ここの物は凄く考えられて作られた道具だと思う。20年前だとしても、見劣りしないわ。
薬草を刻むナイフ一つでも研ぎが十分で切り刻んでいるときに切りつぶすことはない。鍋にしても底が均等でない。火の当たる底の外側が厚く中心部はごくわずか薄くなっている。均等に火力が回るようになっている。
漉し布は目が均等で洗い残しがない。これ特殊な布だと思う。今は圧力をかけて、素早く漉してるけど、力加減では不純物迄押し出されることがある。
錬金窯は魔力の馴染みが良い。よほど長い期間使われてるものだと思う。錬金窯が一番古いけど最新の錬金窯より貴重だわ。一つ一つが特別に作られたものだ。ここを使っていた薬師専用だから他の人に合わなかったのではないでしょうか」
「自分の個室の工房に使う物をここに置いていたということか?ということは通勤者か?でもリンはどうして使いこなせる?」
「わたしは最新とは程遠いところで、薬師の仕事を覚えました。すべて、自分の目と手で仕事をしてきただけ。リッツさんに分からないことは私にも分かりません。ともかく合格でいいですか?このままこの部屋を使っていいですか?」
「あっ、ごめん。ここは君の調剤室だからこのまま使ってくれ。この壁に魔力を流せば君以外は出入りできないから。外から声を掛ける時は外の呼び鈴を鳴らす。
まだ昼まで時間があるから残ってる薬草で、出来る限りの調剤しておいてください。この引き出しの中に簡易鑑定器があります。使ってもらって良いです。お昼はどうしますか?」
「初めてなのでご一緒しても良いですか」
「じゃ、先に昼食にして、昼食後は調剤した結果をまとめるから」
「カードを持参すればいいんですよね。調剤服は脱いでいくんですよね」
「べつに着替えなくていいよ。俺なんて、いつも同じ服だよ」
「皆さんが使う食堂に調剤の服では・・・」
「調剤服は、汚染防止が付与されてるから心配しなくていい。まあ、女性は別の意味で着替えるけどね」
リンは気持ちの問題と思い調剤服は脱いでいくことにした。見栄えの良い服でないがリンは気にしない。それより初めての仕事の成功が嬉しかった。
誤字脱字報告ありがとうございます。




