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リン、エスペラン侯爵家の大奥様と会う

 リンは元気の良い男性に案内され応接室に向かった。

「君、ここで働くの? 俺リッツ。よろしくね。何でも聞いて」

軽い調子で話しかけてくる。ノアさんの所で少しは人慣れしたが緊張してしまう。


 応接室と言っても華美な装飾もない事務所に近い部屋だった。お茶を飲みながら待っているとフリッツさんが入ってきた。


「実はリンさんにここまで来ていただいたのは、会ってほしい方がいます。リンさんの錬金釜は、リンさんの身内のものですよね。その錬金窯は特別に作られた物です。一目でわかりました。 代々このクイーン領で錬金調剤師を育てる、エスペラン侯爵家の特別な錬金窯です。


 先日の話から気になっていたのです。エスペラン侯爵家では人探しをした時期があります。リンさんが探しているお身内でないかと思いました」

 

 先ほどのリッツがノックをし、来客を案内してきた。フリッツさんはすぐに立ち上がりドアの側に行く。つられてリンも立ち上がる。

「突然失礼しますね」

グレーの髪をきれいに結い上げた老齢の女性が現れた。一瞬空気が張り詰める。


「大奥様、よくおいで下さいました」

フリッツさんさんが深々と頭を下げる。高貴な方かもしれない。

「いいえ、私が家族の反対を押し切って出てきたのです。とりあえず座って話をしましょう」

老齢にも関わらず、美しい所作でリンの前のソファーに腰を掛ける。静かにリンを見つめる。リンは挨拶をするべきか悩んだ。しかし、リンが声を上げるより早く、目の前の老婦人が話し出した。


「初めまして、わたしは昔ここで、薬師をしていたの。貴女も薬師ですか?」

「はい」

「貴女の師匠は誰かしら?」

「国の東の街の裏街で薬師をしていた方が私の師匠です。師匠は私を拾って、育ててくれました。生きるすべを教えてくれました。

師匠の死後、薬屋で働きながら薬師認定資格を取りました。モーリアス家の薬種商会セレスタの調剤室でしばらく働きました」


「モーリアス家・・セレスタ・・・。錬金窯はそこで?」

「はい、調剤室の中に開かずのドアがありました。私の魔力に反応してドアが開き、その部屋の奥に錬金窯がありました」

「魔力に反応・・・。あの子は慎重な子だから機密は魔法で隠したのね」


「私は拾われる前の記憶がありませんでした。あの錬金窯に触れた時、私は家族からサフィーと呼ばれていた。幼いサファイアが 白いバラの咲く庭園のテラスで優しい両親に囲まれていました。それが今の私と同じ人物かは分かりません」

老婦人は大きく目を見張り驚くも声を上げることはなかった。


「苦労されたのね。錬金窯はあなたが使いなさい。これはエスペラン侯爵家の特別な窯です。誰もが使える物ではありません。慈しんで、大事に使えば必ずあなたの力になります。貴女の記憶はきっと貴女のものですよ。強い衝撃を頭に受けたりすると記憶を失うことがあります。


 でもそんな事たいしたことではない。過去に振り回されず、前を向きなさい。貴女には、その力があります。ここでもっと深く学んでください。今日は突然でしたが貴女に会えてよかったです。フリッツさん、お世話掛けました」


そう言って、老婦人は立ち去って行った。フリッツさんはそのまま老婦人を送っていった。一人残されたリンは何が何だか分からなかった。

 てっきり身内に会えるのではと期待してしまった。だが、リンにしても記憶にない身内に感激はしない。リンの中のサファイアが喜ぶかと期待しただけだ。


「驚かせたね、まさか大奥様が見えるとは思わなかった。なんか思い出した?」

少し探るような声をフリッツさんはだした。

「いえ、全然思い出しません。身内と言われてもピンときません。大奥様も気にしていないようでした。たまたま魔力が似ていたのかもしれません。錬金窯の使用許可を正式にいただけただけで良かったです。そんなに特別なものとは知りませんでした」


「そうだね、血の魔力で個人識別をするくらい個人に合わせて作られている。君もここで使い慣れるとその違いが分かる」


その後。調剤室の説明と雇用の契約を済ませリンは家に戻った。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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