薬屋イバのひとり言
リンが働くことになった 薬屋イバの思い
薬師師匠のお嬢さんの苦境を助けられなかった。
だから お嬢さんから託されたリンを街で生きていく助けをしたい
薬屋イバの店主イバは、ゴンばーとは、長い付き合いだった。ゴンばーは、イバの師匠にあたる薬屋のお嬢さんだった。顔が良いばっかりに悪い貴族に目をつけられ妾に寄越せと無理難題を吹っかけられた。
仕事(調薬)が出来るできた親孝行の娘だった。娘が可愛かった両親は、いろいろ手を尽くした。
心労が重なり両親が倒れ、店が苦境に陥った。自分さえ我慢すればと、娘は、自ら妾になった。娘を助けられなかったと、両親は悔やんだ。時を置かず心労で亡くなった。
数年もしないうちに貴族は浮気が正妻にばれた。娘は無一文でたたき出された。傷だらけの痩せこけたお嬢さんは、両親の死さえ知らされてなかった。
美しかった栗色の髪は一晩で白髪になり、姿は老婆のようになっていた。
どうにかお嬢さんを薬屋イバまで、連れて来た。お嬢さんは、街で暮らすのを怖がった。それなら自分の目配りが出来るところを探した。
薬師の資格も持っていたので、裏町に小さな店を手配して、暮らしていく手伝いをした。
生きる気力のなかったお嬢さんは、自分からゴンばーと名乗り、裏町で細々薬を作るようになった。生きていくために始めた薬作りが、生きがいになるのに時間はかからなかった。
そして、5年前子供を拾った。
訳ありなのはわかっていた。長い一人暮らしのお嬢さんにとって、初めてできた身内の者だった。リンには、1年ほど寝たり起きたりと手がかかった。それさえも楽しむようで笑顔も増えた。
お嬢さんは子供が起きられるようになったら、家事や調薬を教えていた。教えは厳しかった。それでも子供が可愛くて仕方ない様子は、胸温まる思いがした。リンは親であり、おばーであり、師匠であるお嬢さんに懐いた。良く学び良く働いた。
いつか自分が死んだら、リンを預かってほしいとお願いされていた。お嬢さんの躾や調剤は、厳しかった。その腕があれば、街でも生きていけるだろう。あとは リン次第。自分も息子に代替わりする前でよかった。
まずは、店や奥の家の下働きとして雇った。リンが、裏町では、男の子として身を守っていた。ゴンばーは、女の子は、攫われ売り飛ばされるのを心配していた。
自分が贖うことが出来なかったことが、リンに起きるのではないかと思ったから。
拾われて一年後、リンがやっと動けるようになったとき、女の子には、見えなかった。さらわれる心配などいらないと思ったが、ゴンばーは、男の子にすることを譲らなかった。
リンは裏町にいる時と違って、驚くほど身ぎれいにした姿で薬屋イバを訪れた。裏町で薄汚れていた姿しか知らなかったので、驚いてしまった。裏町の姿のままでは、店で雇うことが出来なかった。前もって準備していたのか?
リンを雇って働かせてみれば、10歳にして家事ができる。汚れ仕事も嫌がらず良く働く。気働きが出来る。いつの間にか古参の女中に可愛がられていた。
ゴンばーに躾られていたせいか、裏町育ちでも言葉も動きも乱暴ではない。
これなら店の方でも働けるかと試してみれば、クルクルと良く働く。
リンは愛想も良い。お茶も上手い。文字が読めて、計算もできる。薬草の種類や薬の用途も理解していた。お嬢さんは、本気でリンを薬師にしようとしていたのかもしれない。
リンよ、無理はしなくて良い。自分の足で立てるようになるには、時間がかかる。ゆっくり歩き始めればいい。焦るリンに声を掛けたい。
リンには、お嬢さんの思いを受け継いで幸せになってほしいと思った。
誤字脱字報告ありがとうございます