リン、薬種商会テドの見学
薬屋リンドウの前に馬車が止まり,御者が迎えに来た。
ドキドキしながら馬車に乗り込み30分ほど乗って、カエデ街の繁華街の商会の本店に着いた。
磨きこまれたガラスの向こうに店のエントランスが見える。鮮やかなバラの花が咲いている。
ドアを開けようとすると自動で開いた。思わずピクッとしてしまう。
開いたドアの前に調剤長のフリッツさんが待ち受けていた。
「いらっしゃい。疲れていませんか?案内前にお茶にしましょうか」
「いいえ、大丈夫です。素敵なエントランスですね。外から見るより中は明るいです。自動で開くドアも驚きました。魔道具ですか?」
「ここはカエデ街の本店です。来店客も多いからね。いちいちドアを開けるドアマンを置くのは大変なんだ。それに、秘密だけどね。店に悪意のある者には このドアは開かないんだよ。では、向こうでお茶をしながら、お話ししましょう」
話しながら、エントランス奥のドアを開けてさらに奥に入っていく。ゆったりとした廊下には、見たことのない風景の絵が飾ってあった。
きょろきょろしては不作法と思うが、初めてのことにリンの心は弾んでしまっていた。
しばらく歩くと、大きな窓から明かりが入って廊下の雰囲気がいっきに明るくなった。窓からは薬草畑がみえる。
広い!広い!ともかく広い。奥には新緑の森が見える。先ほどまで街の中だったはず。窓の前でリンは驚く。
「気づきましたか?驚いたでしょう。私達が今いるのは、カエデ街から少し離れた新緑の森の近くです。転移の魔法陣を使ったのです。
先々代が 魔法陣に詳しくて作ってしまったようです。それまでは、毎日数回 馬車で行き来していたのです。ただ、結構の魔力を使います。誰もかれも転移を使えるわけではないのです」
リンは転移には何も気が付かなかった。左右に並ぶ絵画に見とれていた。気が付いたら窓の風景が変わっていた。どう見ても街中ではない。
これが貴族が使う魔法なのかと、感心してしまった。リンはほんの少し魔法が使える。それでも、今までの生活はとても便利だった。
しかし、貴族の使う魔法はリンの理解を超えていて驚きだけだった。
窓越しの広い薬草園を眺めていたら、フリッツさんが話し始めた。
「ここの薬草はうちの商会で作る薬に使用してます。新緑の森から、魔力を多く含んだ風が薬草を育ててくれるのです。
リンさんもお店の裏の薬草に、魔力を含んだ水を上げていたでしょ。
さすがにこれだけの広さ、人の魔力では補えない。森の力を借りるしかないのです。魔力を好む種類は、森の近くに植えているのですよ。
この土地では育てられないものは 別の所で作っています。さらに貴重な薬草や材料は、ギルドに依頼します」
リンは話を聞いているうちに調剤棟のこじんまりとしたドアの前にいた。
フリッツさんがドアを開けた瞬間に、大きな声が聞こえた。
「あっ、調剤長! 待ってました。納品を速めて欲しいって連絡ありました。準備できたので転送してください。おっ、お客さんでしたか?失礼しました」
威勢の良い青年の声が驚く。
「リッツ、落ち着きなさい。商品はすぐ送る。応接室にお茶を用意してくれ」
忙しそうにフリッツさんは返事をして、応接室に私を案内するようにリッツさんに頼んだ。
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