リン、薬種商会テドに紹介される
ノアの視点からフリッツの視点に移る
リンはノアの指導を受けながら薬師としての腕を上げていた。穏やかな生活は、リンのかたくなな心を癒していった。2年ほどたった頃、ノアは体調を崩すことが増えてきた。
「リン、私は娘の所に行くことにしたよ。前から同居しようと言われていたんだけどね。リンとの暮らしがとても楽しくてね。先延ばしにしていた。夫との思い出の店を閉めるのも辛かったから、リンに甘えていたんだ。
そろそろ、無理が利かない様だ。リンは夫の残した資料から、新しい薬を作れるようになっている。ここを離れて、新しいことを学んだらいいよ。
私の知り合いに声を掛けてあるから一度会って、話してみてごらん。嫌ならこのままこの店を続けることもできるから」
平民にしては魔力量が多いリンでも、使い方をよく知らない錬金釜を上手く使いこなせていない。夫は自分の力、魔力をもっと薬に生かせないかと悩み奮闘していた。魔力に関しては、貴族世界のもの。平民の知識など役に立たない。リンにはまだ未来がある。私にはあの子を伸ばせるだけの才が無い。
ノアは夫の友人だったクイーン領の薬種商会テドのフリッツさんに前途有望な薬師を紹介したいと手紙を出した。
フリッツは、今は亡き同期だった友人の妻からの手紙に驚いた。テドで働けるほどの薬師はなかなかいない。ノアからの手紙には、錬金釜を使えると書かれていた。魔力持ちの薬師は結構いるが、錬金釜を使いこなせる者は少ない。
貴族の次男三男などは、貴族であるから魔力は持っている。魔術師として働けない時点で魔力量が多くはない。その魔力をどう使いこなせるかが難しいのだ。攻撃魔法の様に、一度にドカンと魔力をぶつけるのは簡単だが、それでは 錬金薬師にはなれない。
錬金薬師が使う魔力は繊細なのだ。細く長く流し続けることも、圧縮して一度に流すこともある。知られていないが、魔術師になるより錬金薬師になるほうが難しい。
平民の女性薬師が錬金釜を扱えることが不思議だった。錬金釜は安くはない。親が使っている物なら譲り受けることもある。平民ではありえない。一度会ってみたいとフリッツは思ってしまった。
リンが悩んでいるうちに、フリッツさんが薬屋リンドウを訪れた。金髪の短い髪をしっかり撫でつけた老紳士がフリッツだった。ノアはリンの錬金菓子?と今まで作った薬を見せた。ノアの気持ちが手にとるようにフリッツは分かる。錬金釜を見た時、フリッツは、リンにテドに来るように勧めた。
「リンさん、あなたはまだ伸びしろがあります。魔力の使い方をちゃんと習えば、今以上に錬金釜を使えます。それにはうちに来るしかありません。
一度見学に来ませんか?あなたが望むものが見つかるかもしれません」
フリッツはリンの向上心を上手く煽った。
リンは、薬種商会テドに向かうことになった。
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