ロースト、因果応報
ローストの息子パイロンが薬師資格を取り薬種商会セレスタを任せられるようになった。領地の事は代理の代官に任せながら、ゆっくり引き継ごうと思っていた。問題なくできると思っていた。それなのに義父が死んだ。
蓋を開けたらとんでもない事になっていた。パイロンは雇った薬師を束ねる能力がない。それどころか、若い薬師でさえできる初期の調薬ができない。では、今までの高ランクの薬は誰が作った。パイロンが雇ったリンという男だという。
雇った若い薬師は文句ばかりで仕事ができない。出費ばかりが増す。リンは 妻や娘のことで調剤棟を辞めていた。調剤棟を動かすのに大金を掛けてある。指導できる薬師を見つけなければならない。
商会の経営と領地の経営、まだまだどれもパイロンに任せられない。
「リンを探して来い。それに見合う薬師を探せ」
ローストはパイロンを怒鳴っていた。怒鳴られたパイロンは仕方なく調剤棟を出る。リンが高ランクの調剤が出来る薬師とは、パイロンは思っていなかったようだ。パイロンは一体何の仕事をしていた。
パイロンは外に出ても、リンの知り合いなど知らない。薬屋イバにも出入りはしていない。男装する時点ですべての縁を切っていたのだ。薬師ギルドに問い合わせをするも紹介状が使われた形跡もない。リンがこの街から離れるなど考えられない。パイロンの説明を聞いてもローストの怒りは収まらない。
薬種商会セレスタが潰れるのに1年かからなかった。
多額の投資をした調剤棟に雇った薬師は皆辞めていった。退職金が払えないので調剤棟の物品を根こそぎ持っていかれた。ロースト親子は勤勉ではない。
ローストが遊んで借金を作ったように、パイロンも妻に隠れて遊びで借金を作っていた。他人に厳しく自分に甘い。
パイロンもすべてが上手くいくと思っていたので、金を借りてもすぐ返せると思っている。リンがいる時は、パイロンが仕事しなくてもパイロンには給料が支払われていた。お金に困ることはなかった。それが当たり前だった。
さらにローストの妻もパイロンの嫁も散財していた。ドレスや宝飾、お茶会などの経費は、家の名前で後払いが当たり前。出費のかさむことを執事から報告されていた。家内のことは妻に任せていた。姉がいなくなったあの日から、小さな穴の開いた船は静かに沈んでいた。ローストは上手くいってると自分に暗示をかけていただけだった。
元々、義父の仕送りがあったから、モーリアス家の体面をぎりぎり保てた。
行儀見習いの侍女を、下働きを、庭師を減らす。それでも上手く回らない。妻や嫁、娘の不機嫌に家の中は殺伐としている。
ローストは領地の父の住んでいた家に住んで領地からのお金を増やそうとした。付け焼き刃でどうにかなるものではない。父の様な領地経営もできず、領地を手放すことになった。
ローストの妻もパイロンの妻も家を出ていった。沈む泥船に残る者はいない。パイロンは屋敷の土地を切り売りした。薬種商会セレスタも借金のかたに取られた。
ローストは誰にも看取られず、今は他人の領地になった土地の小さな小屋で亡くなった。引き取り手もなく、無縁仏となった。
一人残されたパイロンは、父の死も知らず屋敷を手放した。父ローストの不甲斐なさを恨みながら街をさまよった。薬師の資格があることさえ忘れてしまった。
リン一人が去ったことですべてを失ったモーリアス家。リンの復讐ではない。因果応報、悪意は悪意で帰ってきたにすぎない。
誤字脱字報告ありがとうございます




