パイロンの想定外のあれこれ
リンが新しい街で、新しい生活を送り始めた頃、パイロンはとても大変だった。リンの代わりに若い薬師を雇った。調剤棟は賑やかになった。
住み込みだからそれぞれに個室をあてがう。各部屋の魔道具の魔石交換を請求された。リンなんて何も言わなかったのに。魔石は高級だ。でも必要経費だと諦めた。
食事は三食配達とはいかないので厨房の働き手を探す。他にも洗濯や掃除をする下働きも必要になる。
若い薬師たちは、調剤補助も欲しいと言い出す。貴族の次男や三男だから全部一人で調剤ができない。薬品が出来るまで半年かかった。
その間も給料を払わなければならない。やっと、仕事ができると思えば高ランクの薬が作れない。良くてランクC。
薬種商会セレスタのダンから苦情が来る。納品した薬草が増えたのに、売れる商品(薬)が少ない。資格さえあればだれでも薬は作れる、薬屋イバの所の薬師は皆仕事が出来た。なぜできない?
安く薬師を雇おうとして、調剤技術を確認しなかったからか? リンは多少腕が自分より良い。薬師資格を取ってすぐに売れる薬を作っていた。
パイロン自身は出来ないのに、資格さえ取れれば薬は作れると思っていた。
薬のランクの大切さがわかっていない。ほとんどリンに任せていたので、苦情など来ないのが当たり前になっていた。
パイロンと似たり寄ったりの薬師たちには導いてくれる薬師が必要だった。
薬師の資格は薬師として、目的であって完成ではない。始まりに過ぎない。
バイロンも若い薬師たちも、苦情を言われてもどうしていいか分からなかった。
指導の出来るほどの薬師は、ほとんどが大切に雇われている。今以上の高給を払わなければならない。それでも見つかるかわからない。すぐに見つかった若い薬師は、他の薬屋で働けない落ちこぼれだった。
母からは、化粧品や入浴剤、肌荒れの薬の納品依頼が来た。そんなもの誰が出来るんだ。追いだしたリンしかできない。エメルメアからはリンは何処に行ったのだと攻め立てられる。
リンは本当は女の子だと言っても信じない。ダンやキャサリンからも、いろいろ依頼が舞い込む。
パイロンは大赤字を出して、ローストに殴られた。
「高い金出して薬師にしたのに。どうして、薬師を束ねられないのだ。半年前まではそれなりの薬作っていただろう。真面目に仕事をしろ。侯爵を継いだから本邸以外の領地の経営にも金がかかる。
俺は領地経営もしなければならない。商会はパイロンに任せようと思っていたのに。調剤棟も管理できないのか。女(姉)さえできたのに・・・」
パイロンは叔母さんが薬種商会セレスタの経営をしているのは知っていたが
詳しいことは知らない。父に怒られながら、父がちゃんと薬師の資格取らないのに・・・俺のせいにするな。
似たもの親子は、自分たちの力量が図れない。やとった薬師も似たようなもの。この先が明るいとはバイロンには思えなかった。
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