薬屋リンドウ店主ノアのひとり言
薬屋リンドウの店主ノアは、薬師の旦那を10年前に亡くした。
娘はカエデ街に来た商人に惚れられ、親の反対を押し切って結婚した。同じ領内なので、孫が生まれたらなし崩しに許してしまった。
その孫も大きくなった。娘とは手紙のやり取りはしているがなかなか会うことはない。
ノア自身は親の代から薬師。結婚を期にカエデ街に店を構えた。夫は貴族の商会の薬師として働いていた。娘の結婚後、商会を辞めて私と一緒に店を切り盛りしてくれていた。
夫を亡くしても店を細々続けている。夫と過ごした店を手放すことが出来なかった。しかし、年に勝てない。重いものをもち上げようとして腰を痛めた。
ご近所の薬屋として、近所の人とも仲良くなった。暮らしやすい。
食事の差し入れをしてくれる裏のアンばあさんは、毎日お茶を飲むほど仲良しだ。
腰痛など少し休めば回復するかと思っていたが、すっきりしない。気の優しい薬師の手伝いが欲しいと、駄目でもとで商業ギルドに募集依頼を出した。
どうしても無理なら店じまいしかない。旦那と過ごしたこの店を売り出すのは寂しかった。
年より幼く見える黒髪のリンがやって来た。
初めて会った時は20歳とは思えなかったが、薬師の資格と紹介状で納得した。
薬師の資格を取ってすぐに、貴族の薬屋の調剤を任されるなど普通はない。
よほど優秀か、貴族の囲い女しか考えられない。見せられた薬はとても良い出来だった。
若い娘が知人もいない街に出向くには訳ありだろう。それでも、腕も良く優しそうなリンを私は気に入ってしまった。女にだらしないエドイットの所には とても行かせられない。気立てが良く薬師としての腕も良い。まだ伸びしろが十分にある。
年寄りの面倒も嫌がらず見てくれる。家事が手早い。厳しく育てられたのか
言葉数が少ないが可愛い娘だと思う。上手くやっていけそうだ。
誰かの作ってくれた温かい食事。久しぶりに入るお風呂。ホカホカと体が温まる入浴剤。寝巻の着替えを手伝いつつ、リンは腰痛の軟膏を塗ってくれた。
いつの間にか新しいシーツに変えてある布団にゆっくり寝かせてくれた。
手慣れた行為に、年寄りの世話をした様子が感じられる。その日の夜は、久しぶりに腰の痛みも気にならない。ゆっくり休むことが出来た。
かたかたと寝室の外から小さな音が聞こえる。気を使っている様子が分かる
誰かがいる朝を迎えたのは久しぶりだ。ゆっくり動けば痛みが少ない。
朝食が出来ていた。顔を拭くように温かいお湯と布を用意してくれてある。
店内外を綺麗に掃除されていた。リンに店番を任せて近くで横になっていると、駆け出しの冒険者。近所のジョンが来た。
ジョンの勢いに言葉を失うリン。どっこいしょと店に出れば、リンはすぐに椅子を出してくれた。
ジョンの軽口に困っているようだ。人慣れをしていない様子。 今日は調子が良い。リンの隣でお互いの親睦を深める時間にしよう。
私の話を聞きながら、笑顔で相槌を打つ。リンはほとんど聞き役になっている。二人で会話を楽しむには、まだ時間が必要のようだ。
お金の計算は素早くおつりも間違えない。賢い人だ。二人で過ごすこれからが楽しみになる。
誤字脱字報告ありがとうございます




