リン、街に出る
リン ゴンばーの手紙どおりに 薬屋イバを訪れ 仕事に就く
裏町で暮らしていれば、理不尽なことは数多くある。人の死も身近なことだった。その中で、拾い子のリンをゴンばーは、見守り厳しく育ててくれた。
裏町で唯一の薬屋として皆からゴンばーは、頼りにされていた。裏町は、スラムほど荒れてはいない。こんな風にゴンばーを扱う人はいない。
ロースト達が立ち去った後、裏町の人達が、集まってきた。ゴンばーを悼んでくれたが、皆も生きていかなければならない。ゴンばーを早々に裏山に弔う。
胸倉をつかんだ男は、ローストと呼ばれていた。貴族だった。前にも一度 店に薬を買いに来たことがあった。ゴンばーが、裏町の薬がなくなるからと断っていた。
思い出した記憶の中に、母の弟ロースト叔父さんと重なった。あの頃より 落ちぶれた風体をしていた。
リンは、壊された店を片づけた。お世話になった日々を思い出しては、涙があふれた。薬師の資格はなく、調剤技術も確かでないリンでは、店を続けることが出来なかった。この家の立ち退きも迫っていた。
ゴンばーから貰った薬草取り用のナイフやハサミ、ボロボロになっているが 所々にゴンばーの優しい文字が書かれている、2冊の薬草と調薬の本。
少ししかない着替えを大きめの採取袋に入れた。
最後にゴンばーの部屋に入る。前から言われていた引き出しを開けた。引き出しは隠し細工がされていていた。中の物を出して底板を外すと手紙と小袋が二つあった。
一つはお金の入った小袋。もう一つには、小さな緑のガラス玉が光る腕輪が入っていた。
手紙にはリンと暮らせて楽しかった。何かあったら薬屋イバを頼れ。裏町でくすぶらず街に出て働き、幸せになりなさい。
腕輪はリンが意識を失って薬屋の前に倒れていたときに、握りしめていたものだ。親の形見だと思う。大事にしなと書かれていた。
ゴンばーと暮らした5年が、リンにとっても楽しく幸せだった。豊かでなくても、お腹いっぱい食べれなくても、何でも二人で分けた。いつもリンに多くゴンばーが分けてくれた。
「大きくなるには多く食べなさい。ゴンばーは小さくなるんだけだからと言った。最近は寝込むことが増えていたから、弱気になって手紙を遺していたんだろう。
悔しい気持ちだけで、どうにかなるものではない。理不尽なことは、生きていればいくらでもある。
「生きているだけで丸儲けだ。でも、もう少し頑張れば笑って暮らせる」
といつも言ってた。
今はゴンばーの願い。街に出る事を叶える。表で生きていけたら、いつかローストに出会えるかもしれない。
貴族に何ができるかわからないけど、ローストに復讐したい。それだけが、リンの生きる支えになる。
先ずは、服を買い。身なりを整えて、街の安宿に宿を取った。街には何度か来たことがある。取引のある薬屋イバがあったからだ。
ローストが裏町の薬屋に来たのも街の薬屋イバからの紹介だった。
薬屋イバに出向く。ゴンばーが亡くなったことを伝え、働かせてほしいとお願いした。なぜかイバの店主は、下働きとして雇ってくれた。下働きは住み込みが出来る。
住み込みは、店も家の中の雑用もしなければならないが、雨露がしのげて、食事も貰える。お金のないリンにとってとても都合が良かった。
料理や掃除、洗濯、色々ゴンばーに教えられていた。どんな仕事も辛くはなかった。早起きだって、薬草取りで早起きもしていたから、何の苦もなかった。10歳の女の子がクルクルと良く働く。店の大人たちは、可愛がってくれた。
店では、雑務の下働きとして影日向なく働いた。裏町は甘くない。怠ければ飯を抜かれ、打たれることもある。気を許したら売られていることもある。
真面目に働いたらバカを見て、上前をはじかれる。裏町を思えば街は優しい。
リンは男の子として裏町で生きてきた。わりと可愛い顔をしていたから、わざと顔を炭で汚しぼろの服を着ていた。男の方が女より生きやすい。ゴンばーの助言だった。
リンという裏町の男の子は消え、街ではリンという女の子が生まれた。
今では誰もリンを裏町の薬屋のリンとは、気が付かない。やせこけた汚いリンは、どこかで野垂れ死んでいる。
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