リン、ドキドキの就職面接 ノアさんはゴンばーの様に暖かな人だった
商業ギルドの案内でノアさんの薬屋を訪れた。花の咲く花壇のある可愛い薬屋リンドウだった。ギルド職員がドアを開け声を掛ける。
「中に入って、すぐに動けないから」
ノアおばあちゃんの声がした。ノアさんは50才過ぎだろうか。薄い灰色の髪に丸い眼鏡をかけたふっくらとした女性だった。ギルドの受付と話した後、リンと面談した。
「はじめまして。薬屋リンドウのノアといいます」
ノアさんは腰を痛めているので家事手伝いだけでもと思っていたが、なかなか良く成らないため店の手伝いが欲しくなった。立ち仕事がきつい。できれば薬師をと、ギルドに募集を掛けたことを説明してくれた。
リンは、この街に今日ついて、薬師の仕事を探している。店舗で働いたことがない。家事は得意。できれば住み込みが希望と伝えた。が初めてで 薬屋で働くのも初めての事を伝えた。紹介状を見せた。
カバンから自作の薬を数種類机に出した。
「こちらで働けるか、見て欲しいです」
眼鏡をすっとかけなおして、ノアさんは一つ一つ見て蓋を開け匂いを嗅ぐ。
指に掬い取って、練の緻密さや薬草の割合など共に塗り心地を試す。
「とても 丁寧に作られていますね。ランクはCからBぐらいだね この回復薬は、もう少し濁りがなくなると効果が高くなるね。軟膏類は何度も作っているからか、滑らかで塗り心地も良いし薬効も高い。
良い師に師事できたんだね。どうしてこちらに?別に詮索する気はないよ」
薬の鑑定の時と違って人の好い笑顔を向けた。
「勤めていた薬種商会で、店を大きくするので、調剤室に多くの男性薬師を雇うことになりました。居づらくなりました」
「そうだろう。これだけの品を作れると、男の薬師が気分を悪くするね。それに、貴女が可愛いからね。気をつけないといけないよ」
「ノア様 住み込みは出来ますか 私家事炊事もできます」
「あら、良いのかしら。私はとても嬉しいけど、あとの候補は何処かしら」
「エドイット様です」とギルド職員が伝える。
「エドイットの所ね リンさん。あそこなら、住み込みは辞めておきな。ギルドは知らないと思うけど、彼はね従業員にすぐ手を出すのよ。元貴族だからといっても、困ったものよね。女性薬師は泣き寝入りするか、夜逃げだね」
「えっ、本当ですか?こちらには報告がない」
慌てるギルド職員。すました顔のノアさんは辛辣だった。
「当たり前でしょ!女の方から苦情を申し立てても無碍にされるだけよ 女の方から言い寄られたと言われれば、元貴族の言い分が通るでしょ。女の方には男好きの噂が立って次の仕事が見つからなくなる。まして結婚なんてこの地で出来なくなる。辞めるには辞めるだけの理由があるんだよ。
仕事の斡旋は 人生を左右するからね 情報は集めないとだめだよ」
「申し訳ありません。こちらで調べます」
ギルド職員は勢いよく立ち上げり、深く頭を下げた。案内だけの若い職員は、冷や汗ものだろう。顔色も青ざめている。
リンは、薬屋リンドウで働くことを決めた。綺麗に整頓されている店の中、薬草の香りが心地よい。見せてもらえた個室は十分な広さ。家具も古いが揃っていた。お嫁に行った娘さんが置いていった物だ。丁寧に掃除されているので リンには十分だった。小さいがお風呂まである。ご主人がお風呂を欲しがって 設置したそうだ。
ノアさんはまだ腰痛が全快していない。どっこいしょとテーブルに手をついて立ち上がる。
「今日からでもいいよ。台所も好きに使って。家事代金は出すから、私のご飯も作ってくれると助かる。良くなれば迷惑かけないから。それまで家賃もいらないよ」
ノアさんは腰痛の割にははっきりした声を掛けてくれた。
おいとまの挨拶をして商業ギルドに戻ることにした。
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