リン、お茶会に招かれる
妹様の突撃から2週間後、珍しくパイロン様が調剤棟に来た。
「この間、エメルメアが勝手にこっちに来たんだってね。母に知られて大変だった。額の湿疹ぐらいで大騒ぎして、我儘で困ったもんだよ」
やれやれと言ってドスンとソファーに座った。
「治りましたか?」
リンは鍋の中の薬草を煮詰めながら聞いた。
「治ったよ。すごく機嫌よくてね。リンをお茶に誘いたいと言い出した」
「えっ、そんなの困るよ。大した事してないんだから。普通に洗顔してもらったんだから・・」
困り顔のリンにあわせて、バイロンも困り顔。
「そうなんだけど。なんか母も試したら。肌の調子がいいと言い出した。それで、リンの顔見たいんだって!リンは男?の割に皮膚がきれいだろう。女は美容に関してはどん欲だから、あきらめて一度本邸に来いよ」
「えっ!困るよ。女と分かったら困るだろう」
「もしわかっても、母には口止めしておくよ。リンが代理で薬作ってるの知っているから余計なこと言わないさ」
リンの抵抗むなしく、今持っている服の中で一番良い物を着て本邸に向かった。パイロンと一緒なので、正面のエントランスに向かう。
「坊ちゃまお帰りなさいませ。リン様よくいらっしゃいました」
過分な言葉に緊張してしまう。
「お招きありがとうございます」
やっと言葉を紡ぎ出す。執事にサロンに案内された。
豪華な部屋。ソファーに座るように言われても身の置き所がない。緊張しているリンの様子にパイロンは、ワハハと声をあげて笑う。
調剤棟ではリンかパイロンと軽口が出る程度の関係になっていた。しばらくすると、恰幅の良い婦人と妹様が入室してきた。
「見て!こんなに綺麗になったの」
駆け寄って、リンの前に額を見せる妹様。
「エメルメア、まずはご挨拶でしょ。ごめんなさいね。良くいらっしゃいました。パイロンの母のナディアです」
「お初にお目にかかります。パイロン様のもとで仕事をしています。リンと申します。お招きありがとうございます。こちらは、私が作りました入浴剤です。お使いください」
貢物は欠かせない。作っておいてよかった。
「あれ?いつの間に作ったの?僕も使いたい」
「ダメ!エメルメアが使うの!」
兄が手を出す前に妹様は入浴剤の入った籠を奪うように手にした。
妹様とバイロンの言い合いのおかげで、空気が軽くなった。頂いたお茶はとても美味しかった。
額の湿疹や侍女たちの手荒れ軟膏のお礼を言われる。リンはどぎまぎしてしまった。胸の鼓動が早まる。
きっと、サファイアの知っている部屋だろう。懐かしい感じはしなかった。
「エメルメア、そろそろ家庭教師がみえるわよ」
「数のお勉強 詰まらないんだもの」
ふてくされた様子で下を向いてしまう。
「エメルメアお嬢様 入浴剤は10個入っています お母様に5個渡したらいくつ残る?」
「え、、、と 5個残る」
「では お兄様に何個あげましょうか」
「上げないはダメだから、、、2個」
「残りは?」
「え、、、と3個」
「すごいですよ。お嬢様は数の勉強ができていますね」
そこで数字を書いたカードと大きな紙に双六の絵を簡単に書く。
「こんなゲームはどうですか? このカードを2枚引いて足した分だけこの丸印を進む。止まった丸印に言葉が書かれていたらその指示に従う」
記録用に持っていた紙に1から10までを2組作る。大きめの紙に丸をたくさん書き、所々に指示を書き込む。
「お嬢様がカードを2枚引いて、足した数だけ進んでください」
「えっとね。1と5だから・・・6 ここから 1・2・3・4・5・6」
「よくできました。ここになんて書いてありますか?」
「えっとね・・お菓子を食べる!すごーい! お菓子頂きます」
待望のお菓子を食べて嬉しそうな妹様。約束を守っていたようだ。
「こんな風にみんなでやると、楽しくお勉強でいます。ちゃんとした紙に作ってもらうとよいですよ。カードの数字を増やしたりして、足し算だけでなく引き算やも良いですね」
「リン。すごい! もっとやりたい」
「エメルメアお嬢様、お勉強をしっかりやらないとこのゲームに勝てませんよ」
ちらっと兄のバイロンを見る。
「あっ、そうよね。お兄様がずるするかもしれないもの」
「そんなことするかよ。エメルメアじゃないんだから」
賑やかな兄妹げんかでお茶会はお開きになった。
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