リン、サファイアの記憶を思い出す
リンがゴンばーの家で目覚めた時 名前もすべての記憶もない 見た目5歳の女の子だった。
ゴンばーに守られ生きることが出来た。
ただ 生きていくのに必死だった。
リンは体に眠る魔力を開かずの部屋で無理やり引き抜かれ、疲労困憊して私室に戻った。リンは倒れこんだ布団の中で夢を見た。
幼いサファイアが、白いバラの咲く庭園のテラスで優しい両親に囲まれていた。リンが見たことない綺麗な服を着ている。綺麗な髪をしている。
薄緑のテーブルクロスの上に花が飾られていた。美味しそうなお菓子やお茶が用意されている。 父親がサファイアを膝にのせながら声を掛ける。
「サフィーはお父さんの様に、お薬作るようになるのかな?」
母親が父親に微笑みかけた。サファイアの頬に触りながら聞いてきた。
「サフィーは、お母さんの様にお薬屋さんになるのかしら?」
サファイアは目をくりくり動かしながら両親を見る。
「サフィーは両方やるの」
幼いやや甲高い声が声高に宣言する。
「サフィーは欲張りだね」
父と母の笑う声。周りにいる執事と侍女たちの笑顔。甘いバラの香り、頬を撫でる風、つい昨日のことのように思える記憶。
父に抱かれあの調剤室に入った。めったに父の仕事場に来たことがない。本邸から見える調剤棟は大人の仕事場だから、子供は出入り禁止だった。
薬の中には毒物もある。それに調剤棟には、多くの人が仕事していたから邪魔になる。今日は サファイアの5歳の誕生日。お父様にお願いして、連れてきてもらった。
「この錬金釜を使って薬草に魔力を流すと、良い薬ができるんだよ。サフィーが本気でお薬を学ぶなら、お父さんが教えてあげるね。
錬金釜にサフィーを登録しておこう。ちょこっとチクっとするよ。ここに触れてごらん」
「まだ早いわよ」
母が困った人というように父を見る。
「パチっとした! あっ、光った」
「この錬金釜はお父さんとサフィー専用になったね」
「もう、サフィーに甘いんだから、まだまだ先よ」
愛されていた サファイアの記憶
サファイア、あなたは幸せだったんだね。良かったね。無事に両親に会えたはずだから、しっかり両親の手を掴んで。
リンがゴンばーの家で目覚めた時にはサファイアは存在しなかった。何も記憶のない、少しひねたリンしか存在しなかった。
記憶がない事の怖ろしさと不安に潰されそうになりながら、リンは生きることを選んだ。
分かっていることは、リンはゴンばーが思ってるより大人だ。今思えば、サファイアはあの事故で亡くなった。そして、代わりに死して体を失ったリンがその体に入り込んだのかもしれない。
サファイアの幸せの記憶は冷めているリンの心をほんのりと温めてくれた。
リンは、ゴンばーに 街で生きろと言われたから今生きている。この世界に知り合いも身内もいない。幸せになれと言われても、どうしていいか分からなかった。この世界が自分にしっくりしない。違和感がいつもあった。
突き放されていた世界が近づいてきた。息がしやすくなった。居場所を見つけた感じだ。調剤棟が身近に感じたのは、サファイアの記憶があったからだ。
リンはサファイアを受け入れた。
自分の中にサファイアが残してくれた魔力がある。サファイアがしてみたいと思ったことをやってみようと思った。サファイアの記憶のおかげで新しい道が開けそうだ。本がたくさんあった。時間を見て勉強しよう。
魔法が使えるかもしれない。
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