リン、開かずの部屋を開ける
寒い冬も魔石ストーブのおかげで快適に過ごせ、暖かな春を迎えた。
いつも通り調剤が終わる。昼過ぎからどうしても開かない部屋に挑む。扉に魔力を流しても開かない。これは何度も試した。
扉には、傷がいくつも付いていた。開けようとして扉に斧か何かで傷をつけたようだ。それでも開かないので諦めたのだろう。
外の窓から中を除こうとしたが窓がない。
今日もドアノブを掴む。ピリッとした後、ドア全体がぼんやりと光った。一度手を放す。もう一度ドアノブを掴む。右に回すとドアが開いた。
ひんやりとした空気が暗い部屋の中から流れてきた。何度も魔力を流したのに開かなかった。なぜ今日は開いたのか?
ドアを閉めたらもう二度と開かないと思い、ドアにハンカチを挟みランプを取りに行った。 あらためて、ドアを椅子で扉が閉じないように固定した。 魔石ランプを持って中に入っていった。
落ち着いた生成り色の壁と濃い茶色の家具、窓に萌黄色のカーテンが柔らかな空間を作っていた。書類を扱っていたのか、大きな事務机と本棚と書類棚が並んでいる。面談用か?テーブルと椅子が置かれていた。
几帳面なのか机の上にガラスペンとインク壺が置いてあるだけだった。ガラスペンの先もきれいに拭かれて汚れがない。引き出しは簡単に引き出せた。文具や書類が整然と入っている。
取引台帳・金銭台帳・顧客名簿が17年前で記入が止まっている。
本棚には図鑑から調剤・経営・歴史・などのいろいろの本が並んでいた。植物図鑑は薬草の名前、植生から始まって図入りで説明してある。薬屋イバで見た物より、より詳しく調合の注意点なども書かれている。
萌黄色のカーテンを開けると新緑の木々が見えた。外からは窓はなかったはずだ。不思議な部屋だ。部屋の中に出入口以外にもう一つの扉があった。
怖いもの見たさで、息を止めてその扉を開けた。
目の前の部屋は大きな窓がある。外の日差しを受けて、部屋全体が明るい。 そこは調剤室だった。そこには鍋の代わりに、魔石コンロの上に古そうな釜?がある。この部屋も綺麗に整頓されていた。緊張しながら、そっと釜を覗き込む。透明な水に満たされている。そっと釜に触れた。この時もピリッとして、釜が淡く光った。
あっ、思い出した。
わたしは、サファイア。ここでお父様が薬を作っていた。記憶が怒涛の如く流れてくる。かろうじて倒れずに近くの椅子に座った。
どれだけ経っただろう、窓の空が夕焼け色になっている。一度部屋に戻ろう ボーとしたまま部屋を出てドアを閉めた。
「あっ」何気に扉を閉めてしまった。 せっかく開いたのに、、、
もう一度ドアノブを回す。なんの抵抗もなく開いた。明日も開けられることが確認できた。
そのまま2階の部屋に戻る。布団に倒れこんで意識を失った。
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