リンの雇用契約
リン 調剤棟の主になる
いくら待っても誰も来ない。待ち人はパイロンだけだけど。
調剤室を簡単に掃除して保管庫に残っている薬草を取り出し 調剤の準備をしておく。薬草の保管庫には貴族様用、劣化防止の機能が付いている。
最後に辞めた薬師が残した薬草が、そのまま保存されていた。鮮度が落ちていない。
とりあえず傷薬は作れそうなので、パイロンが来る前に下準備をしておく。
薬草を選別して水洗いを済ませ、鍋やナイフ・すり鉢・濾し布等を水洗いしておいた。ナイフは砥がないといけない。鍋は焦げつきが酷い物もあるので購入しなければならない。
これだけの設備があるのだから、備品保管庫もあってよいのに部屋が見つからない。まだ知らない部屋がある。おいおい調べようと思っている。
いくら待ってもパイロンが来ない。せっかくの薬草が乾燥してしまうので 傷薬を作ることにした。いくら劣化防止が付いても完全な時間停止ではない。
ヨモ草は、根っこ以外全部使うので固くなった葉の中脈は良く磨り潰さないといけない。魔石コンロは、火力調節がしやすいので沸騰しないようにじっくり煮詰めていく。
静かな空間に鍋からヨモ草の香りが広がる。リンの好きな匂いだった。裏町では傷薬は、必需品。よくゴンばーが作っていた。
「お~い、なに作ってる?」
パイロンに呑気な声を掛けられた。
「パイロンさん、おはようございます?こんにちは?ですか? 遅い出勤ですよ。あっ、呼び名は、先生と呼んだ方が良いですよね。
あまりに暇なので保管庫に残っていたヨモ草があったので、傷薬を作っています。
先生を待っていましたが薬草が萎びそうなので、作り始めてしまいました」
「リンさんは、薬師の試験受けたでしょう。僕らの勉強手伝う時、理解が早いし調剤は調剤長の手伝いしていたから実地試験も問題ない。きっと調剤長が 受けさせたと思ったんだ」
「そういうとこ、目ざといですね。身寄りがないから食い扶持のためにね」
「僕は父のように傲慢で周りに敵を作るような生き方はしたくない。周りを見て状況を知って上手に立ち回ることが、貴族世界では必要なんだ。但し、薬を作るのは、得意とは言えないね」
ソファーに深々とこしかけパイロンは寛いでいる。とても仕事をする気配がない。
「薬作る気ある?」
「それで相談なんだけど、これでも僕は、侯爵家の長男。跡取りなんだ。社交に出ることがこれから増える。貴族院の学校に編入もしなくちゃならないんだ。
薬師資格取っているけど、学院はあと2年行かないと卒業資格が取れないんだ。学院卒業は貴族として認めてもらうために必須なんだ。特に男子はね。女の子は結婚するから関係ないけど。
僕はとっても忙しいの。リンなら分かってくれる!
だから、僕の名前で適当に薬納品してくれないかな?ここは自由に使っていいからさ。父は納品さえ出来ていれば気にしないから。
それに学院は義務だから、父も忙しいのは分かっている。無理は言わないさ。ここに僕以外の薬師が来るまでリン、協力して」
とてもお願いする態度ではない。リンが一人でいるうちでないと色々探索できない。パイロンに協力するように見せかけないといけない。
「わかったわ。その代わり調剤棟の中と外色々見てまわったり、薬草畑作ったりしてもいいかしら」
「どうぞ。どうぞ。自由にしていいよ。父は、ずっと調剤棟なんて放置してたんだから 大丈夫」
リンとパイロンの雇用内容が決まった。
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